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日帰り宇宙旅行ができる!?超巨大エレベーターは本当にできるのか

東海大学清水教養教育センター 佐藤 実

SF作品の中にたびたび登場する「宇宙エレベーター」。地上からエレベーターに乗るだけで宇宙空間まで連れていってくれる夢の乗り物だが、実際に建造を目指す計画が進められている。物理学の観点から研究する東海大学の佐藤実氏に、実現の可能性と完成以降の世界の変化について話を聞いた。

宇宙に日帰り旅行ができる!?

「宇宙エレベーターが完成すれば、高度約400kmにある宇宙ステーションまで日帰りで行けるようになります。とはいえ完成するのは、正直まだまだ先の話。しかし、原理的には実現可能なのは分かっています」

そう語る東海大学・佐藤実氏は、宇宙エレベーターの問題点に着目し、物理学の観点から、その原理などについて研究を続けている。

宇宙エレベーターは、宇宙空間への輸送機器として1990年代後半から世界各国が注目。毎年アメリカや日本でワークショップが開かれ、実現に向けて研究・開発が進められている。

構造上必要なものは、ケーブル、クライマーと呼ばれる乗客・貨物などを載せる部分、静止軌道上に建造するステーション、地表の海上ターミナルなど。建造するためには、高度約36,000kmの静止軌道に造ったステーションから地球上の基地まで細いケーブルを延ばしていき、それを伝ってクライマーを設置できるほどにケーブルを太くしていくというもの。ケーブルを安定させるためには、地球方向とは逆の高度約100,000kmまでケーブルを延ばしていく必要があるという。

「費用面で言えば、宇宙ステーションまで1人当たり数十万円くらいで行けるようになるのではないでしょうか。高度を下げて成層圏までなら数万円くらいになると思います」

現在、ロケットで国際宇宙ステーションに1kgの物体を運ぶには打ち上げ費用としておよそ100万円かかるそうだ。ロシアの有人ロケット・ソユーズで500mlペットボトル1本を宇宙ステーションに差し入れしたら1本50万円。その金額からすれば、衝撃的な安さであることが分かる。

この安さの理由は、エネルギーの違いによるところが大きい。ロケットで地球周回軌道に乗るには、上昇するためのエネルギーに加えて、秒速8kmという速度を出すためのエネルギーも必要となる。それに対して宇宙エレベーターは、上昇するためのエネルギーさえあれば成立するという。

「ケーブルを伝っていくので安全性も高くなります。ロケットとは違いケーブルにつかまっていれば落ちることはないので、不具合が起きれば、一度止まって問題を解決することができる。ケーブルがレールでクライマーが鉄道車両、海上ターミナルなどを駅とすれば、垂直なレールに列車を走らせるイメージから、宇宙列車と呼ばれることもあります」

宇宙エレベーター建設構想

出典:株式会社大林組 RECRUITING SITE 大林組の挑戦

鍵を握るのはカーボンナノチューブ

宇宙列車とは、まさに名作SFアニメかのような話だが、実際に建造するためには何が必要なのだろうか。

「第一にケーブルです。まだ対応できる素材が存在しません。しかしながら高い可能性を秘めたカーボンナノチューブという素材が発見されています。簡単に言うと、鋼鉄の数十倍の強さを持ち、いくら曲げても折れないほどしなやかで、薬品や高熱にも耐え、銀よりも電気を、ダイヤモンドよりも熱をよく伝えるというものです」

1991年にカーボンナノチューブが発見されると、すぐにアメリカが実現の可能性について検討するワークショップを開催。それをもって研究を進め、ロスアラモス国立研究所のブラッドリー・C・エドワーズ博士が、現在の多くの宇宙エレベーターの原型になっているエドワーズ・モデルという工法を示した。

しかし、実際にカーボンナノチューブを宇宙空間で試験する前に、研究を進めていたNASAが実現性の低さから開発を断念、資金不足により研究も頓挫する。

やはり、まだまだ空想の世界なのかと思いきや、そうでもない。2015年から日本の企業と大学(株式会社大林組、国立大学法人静岡大学、有人宇宙システム株式会社)が共同で、国際宇宙ステーションの日本実験棟でカーボンナノチューブの宇宙環境曝露(ばくろ)実験を行っているのだ。

「炭素繊維の技術力は、実は日本が一番進んでいます。今後、宇宙で使われるようになることでしょう。そこで、宇宙空間にカーボンナノチューブを長時間さらしたとき、宇宙線や原子炭素の影響でどのような劣化が起きるかを検証しているんです。初めての試みなので、影響は未知数。第1回の試験体がそろそろ戻ってくるのが楽しみですね」

あくまでも想定だが、エドワーズ・モデルではケーブルを太くする補強を280回繰り返し、建造期間は2年半と示している。先述の実験に参画している日本の大手建設会社・大林組が出した構想では、エドワーズ・モデルよりも大きなクライマーを上下させることを前提に、ケーブルの補強回数を510回、建造期間20年と試算。あのスカイツリーが約3年半で建設されたことを考えると、造ることだけなら思いのほか短期間でできるように思えるだろう。

気象衛星NOAAの観測データを、東海大学情報技術センターで画像処理した地球儀を持つ佐藤氏。「人が想像して、できると思ったものは絶対できるんです」と宇宙エレベーターへの思いを熱く語る

小惑星で資源を獲得する新ビジネスの可能性

宇宙エレベーターは、宇宙への交通インフラとして注目されると同時に、宇宙空間から地球上へ安全に物資を運ぶ面からも期待されている。その理由は、宇宙にある膨大な資源だ。

「地球の周囲にある小惑星には、金やプラチナ、レアメタルなどの鉱物の存在が確認されています。それらを商業ベースで採掘をしたいというニーズは必ずある。今でも宇宙からサンプルの鉱物を持ち帰ることはできますが、少量ですら正確な場所に安全に落下させることが難しく、その技術を持つ国は日本やアメリカ、ロシアなど限られています。宇宙エレベーターのクライマーをコンテナ船サイズにできれば、多くの作業員を送り込むことができますし、採掘した資源を大量に持ち帰ることもできます」

宇宙エレベーターが商業ベースで運用を始めた場合、太陽光の活用や地上より純度の高い鉱物資源の採掘が可能になる。

「もし実現できたら、地上で化石燃料を燃やさなくてもいいくらい膨大なエネルギーを確保できるようになると思います」

地球規模のビッグビジネスの機会が訪れると期待が高まるが、実現には技術的な面以外の課題があると佐藤氏は続ける。

「現在の国際的な取り決めでは、国家が宇宙空間を占有してはならないという約束ごとがあるんです。一方で、宇宙空間での活動については法律がないため、もし犯罪が起きたとしてもどこの国も裁けない。そもそもどこからが宇宙空間かということも、まだ明確になってないですからね(笑)」

建造する以前に、国際的な協調や調整を図るため、かなりの時間を要しそうだ。しかしながら、その時間と労力を差し引いても余りあるメリットを人類が享受できることは明白である。宇宙エレベーターが完成した暁には、地球全土のエネルギー問題を一挙に解決できるかもしれない。

「私は、エネルギーとは豊かさだと思うんです。人が使えるエネルギーが増えたことで生活は豊かになり、人生が潤う。それに伴って文化や芸術も発展してきたのだと思います。今後、人類が未来永劫の豊かさを求めるためには、宇宙、そして近くの星へ行き、新たな資源を獲得する必要があるのだと思います。そのためのツールの一つとして宇宙エレベーターを実現させたいですね」

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