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藻類を車の燃料に!マツダが進める次世代バイオ燃料研究

マツダ株式会社 執行役員 R&D管理・商品戦略担当 商品戦略本部長 工藤秀俊

ガソリンに代わり、車を動かす燃料となるバイオ燃料を藻類から生産する──。この研究を広島大学と共同で進める国内自動車メーカーのマツダ。自動車メーカーが燃料の開発に携わる目的とは何か?そこにはマツダの地域愛が大きく関係している。

環境問題解決は電気自動車だけでは不十分

創業時から広島に本社を構えるマツダが、“地元・広島から世界へ”の思いを胸に、クリーンエネルギー研究をスタートさせた。

それが、ことし4月に国立大学法人 広島大学(以下広島大学)大学院理学研究科内に開設した「次世代自動車技術共同研究講座 藻類エネルギー創成研究室」。マツダと広島大学、地域に根差した企業と大学の2つが共同で新たなエネルギー研究に取り組むプロジェクトだ。

同研究室では、微細藻類(植物プランクトン)を再生可能な生物由来の有機性資源“バイオマス”の原材料として注目。自動車などに搭載される内燃機関(エンジン)の燃料となるバイオ液体燃料の開発を目指している。

最終目標は、自動車のエンジンを動かすための燃料を現在主流のガソリンや軽油からバイオ液体燃料に変え、CO2の排出や化石燃料の消費を抑えること。壮大なスケールのこの構想の詳細を聞いてみた。

「藻類の話をする前に、マツダがなぜ内燃機関にこだわるのか?まずはそこからお話ししましょう」

そう語るのは、国内自動車メーカーの雄・マツダの執行役員であり、同プロジェクトの責任者も務めている 工藤秀俊氏だ。

マツダの車と地域への愛がいかにして今回の研究へとつながったかを熱く語る工藤氏

「走行中にCO2を排出しない電気自動車(以下EV)は、環境問題の解決における一つの答えですが、それだけでは十分でないと私たちは考えます。なぜならグローバルな視点に立つと、EVが内燃機関のシェアに取って代わるのはまだまだ先になると予想されるからです」

近年、日本でも販売が始まったEV。今後その需要も高まるといわれているが、そうではないのだろうか?

「仮に全ての電気を再生可能エネルギーで生産し、CO2を排出しない国であればEVは非常に有効です。でも、そんな国はまだどこにもありませんよね。スマホが急激に普及してシェアを獲得したのとは違い、車は急には置き替わらないのです」

そう述べると、ここで工藤氏は、国際エネルギー機関(IEA)が2012年にまとめた自動車用パワーソースの想定グラフを見せてくれた。

2035年を例にとっても、ハイブリッド車を含めた内燃機関自動車の割合が84.4%もあることが分かる

そこには既存のガソリン・ディーゼル車は急速に割合を減らしながらも、10~30年先の近い未来ではピュアEVや燃料電池車(FCV)がいきなり主流になることはなく、徐々にシェアが増えていく様子が示されている。

一方で、内燃機関とモーターを組み合わせたハイブリッド車(以下HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)は今後需要が高まると予想されている。

「充電スタンドや自動車が消費する電力をまかなう発電所といったインフラの整備は、一足飛びには進みません。自動車の需要は今後ますます伸びると予想されていますが、その市場のほとんどは新興国です。EVを日常的に使えるインフラを整えるには先進国以上の時間が必要なのです」

生産から排出までをパッケージで見たエンジンの未来

現在、自動車メーカーではCO2排出量を走行時だけでなく、車を作る工程や動力となるエネルギーを作り出す仕組みなど、全てのプロセスを含み入れた「Well-to-Wheel」(ウェル・トゥ・ホイール)という考え方がされている。その観点から見ても、内燃機関は有望なのだという。

「HVに搭載する内燃機関を高性能化することで、モーターやバッテリーの負荷を軽減すれば、車をよりコンパクトに軽量化できます。そうすることでHVのCO2排出量を、EVと同等レベルにまで到達させられると考えています。これは私たちのコーポレートビジョンやブランドエッセンス『走る歓び』にもつながるアイデアでした」

CO2排出量を、材料製造から組み立て、廃棄、そしてエネルギー源まで含めて総合的に計るWell-to-Wheelの概念図

「EVの普及がCO2削減に有効なのは間違いありません。ただ、グローバルな視点とWell-to-Wheelの視点で考えると、内燃機関にできることがまだたくさんあります。そうした状況の中で私たちが導き出したソリューションの一つが、バイオ液体燃料です」

こんなにすごい!藻のバイオマスとしての可能性

体積エネルギー密度で比べると、今の燃料タンクの容量でガソリンは電気の約40倍、次世代バッテリーが開発されたとしても約8倍もエネルギー密度が高いという。

「これの意味するところは、一度の給油で遠くまで行ける=航続距離が長いということです。つまり、インフラが少なくて済む液体燃料は移動体にこそ使うものともいえます」

植物を栽培して油脂を取り出し、それを燃料として利用するバイオ液体燃料。将来、化石燃料に取って代わるエネルギー資源として、官民さまざまな機関で研究開発が行われている。その理由について工藤氏は次のように語ってくれた。

「まず、化石燃料のように枯渇の心配がないことが挙げられます。加えて、燃焼で排出されるCO2はもともと植物が成長する過程で取り込んだものであり、大気全体のCO2総量が変わらないこと(カーボンニュートラル)などから、新たな再生可能エネルギー資源としてバイオ液体燃料が大いに期待されています」

しかし、バイオ燃料に利用される植物には、トウモロコシやサトウキビなどの穀類や藁(わら)などが知られている。微細藻類を研究対象として選んだ理由は何だったのだろうか?

「穀類などと違って食糧競合をしない、これは大事な視点でした。環境問題と同時に食糧問題も将来の地球にとっては大きな課題となりますので、食糧になり得る資源を使うべきではないと考えました。

また、森林伐採を必要とせず、比較的コンパクトな面積で培養できることも、藻類の大きな魅力でした。微細藻類の種類としてはユーグレナ(ミドリムシ)などさまざまな候補が挙がっていますが、現段階ではあえて研究対象を限定せず、幅広い種類の中から可能性を探っていこうと考えています」

バイオ液体燃料となり得る微細藻類。ユーグレナなどは軽油に極めて近い性質を持つ油脂の生成が期待されている

海底油田から採れる石油は太古の時代に微細藻類の死骸が海底に堆積し、数億年をかけて、体内に含まれていた油脂成分がたまったものと考えられている。そうした背景から、既存の燃料に近い性質のバイオ燃料が得られることも、藻類を選んだ理由の一つだった。

ただ、自然界の藻類をそのまま育てても、そこから採取できる油脂量はごくわずかでしかなく、ガソリンや軽油に取って代わるほどの量はとても生成できないという。そのため、バイオマスとしてのポテンシャルを最大限に引き出すための研究を重ねている。

「微細藻類をバイオ燃料として実用化するにあたって最も高いハードルは、藻類の体内に蓄えられる油脂量を増やすことと増殖速度の両立です。

これまでの研究で、藻類にある種のストレスを与えると一個体から採れる油脂量は増えるものの、増殖速度は逆に落ちてしまうことが分かりました。

つまり、より生産性の高い品種を新たに開発する必要があり、そのために遺伝子改変技術であるゲノム編集技術を研究対象としています」

ここで広島大学との連携が生きてくる。

「広島大学には、この分野に対して知見を持った先生が在籍されています。そこで講座として定期的かつ継続的に研究してもらうことで、大きな成果を得られると期待しています」

広島から世界へ!独創的な技術発信を目指す

既存の化石燃料に代わるエネルギー資源として、既存の燃料に近い性能が期待できるバイオ液体燃料の活用。これは内燃機関の構造を大きく変更する必要がないため現実的で、だからこそ想定できる計画だといえる。

「ただし、これもいきなりゼロから100への転換ではなく、最初は既存の燃料にバイオ液体燃料を混合し、徐々にその混入割合を高めていくロードマップを描いています」

石油からバイオ液体燃料への移行を示した図。生産体制が確立する20XX年に向けて、混入比率を高めていくプランだ

日本でも既にユーグレナを用いたジェット機用燃料の供給をする準備が始まっており(参照記事「ミドリムシによるバイオ燃料で空を“グリーン”に」)、技術的にはディーゼル燃料も、ナフサ(粗製ガソリン)も生産が可能だ。

では今後、エネルギー事情はどのように変化していくのだろうか。

「化石燃料はいつか使えなくなると考えるべき。そうした未来を想定したとき、この研究も自動車メーカーが絡むことで実験室レベルでの検証で終わらせず、実用化に近づくと考えています。講座の研究成果をシェアし、車に利用できるよう実証実験を促すのがマツダの役割です。

今回の研究は、マツダがエネルギー会社になろうということではなく、車造りをベースに地球環境に貢献し、地域活性化につなげるのが目的です。

CO2を削減しながら広島ならではの産業を生み出し、地域経済の活性化やエネルギーセキュリティーに貢献していきたいです。そこに自社の利益は考えていません」

地元広島から世界へ向けて、地球環境保護への取り組みに挑むマツダの研究から目が離せない。

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