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無限の可能性を持つ太陽光を未来につなげる基礎研究とは?

光触媒研究の先端をいく東京工業大学理学院・前田和彦准教授

21世紀は、「光の時代」と言われる。化石燃料の枯渇によるエネルギー危機などといった、われわれが将来直面するだろう深刻な問題に対し、光エネルギーが理想的な解決法となる可能性があるからだ。しかしそれを現実のものとするためには、まだ課題も多い。解決のためのキーワードの一つが「光触媒」。その研究の先端をいく東京工業大学の前田和彦准教授に、光の時代の今とこれからを聞いた。

太陽光エネルギーのわずか0.01%で人類は賄える

化石燃料をはじめ、われわれはこれまでさまざまな燃料を基にしたエネルギーを使ってきた。最近注目されているものの一つが、シェールガスだ。2020年までには北米の天然ガス生産量の半分はシェールガスになると予測する研究者もいる。

「しかし、シェールガスなども有限なんです。太陽光はそんなことはありません」

そう話すのは、大学在学中に発表した「光触媒」についての論文で世界中の研究者に注目され、今は東京工業大学理学院で研究を続ける、前田和彦准教授だ。

前田准教授は、現在人類が使っているエネルギーを太陽光エネルギーに換算したというデータを見せてくれた。

「地球上で人類が必要とするエネルギーの総量は、地上に届いている太陽光エネルギーの1万分の1にすぎないんです。例えば植物は、人類全体の10倍相当のエネルギーが必要です。しかも彼らは光合成を行うことで、自ら太陽光をエネルギーに変換している。それと同じような仕組みをわれわれが持つことができれば…非常に素晴らしいとは思いませんか」

現在、人類全体が使っているエネルギーの総量は、地球の表面に降り注ぐ太陽光のエネルギーに換算すると、わずか0.01%に過ぎない

資料協力:前田和彦

われわれが暮らしていく上で欠かせないエネルギー。火力、水力、風力といった手段が用いられ生み出されているが、太陽光もその手段の一つだ。

「2050年に人類がどれくらいのエネルギーを必要とするかを試算して、そのうちの3分の1を光触媒によって生み出される水素を使って補おうとすると、どれくらいのサイズのプラントが必要なのかを計算したことがあるんですよ」

地表に届く太陽光をエネルギーに変換できる割合を、その内の10%と仮定すると、「25平方キロメートルサイズのプラント1万基が必要」だったと言う。

東京ドームの面積が約4.7平方キロメートルなので、東京ドーム約5万個分。とてつもないスケールのプラントが必要となるわけだ。

「地球上の3分の1ものエネルギーを、光触媒を使ったプラントで補う必要があるのかという議論はもちろんあります。枯渇が懸念された化石燃料ですが、今は使い方を工夫することで、もっと長く生かせるのではないかと言われていますからね。実際には既存のものを生かしながらやっていくんだと思います。とはいえそれでも、数十万平方キロメートルサイズのプラントは必要になってくるでしょうね」

現実的とは思えないのだが…。

「可能性はゼロではありません。このプラントの仕組みを簡単に言えば、プールに粉末状の光触媒を撒いて、そこに太陽光を当てれば水素が出てくるというものなんですから」

太陽光エネルギーを効率良く使うためには、今後、物理や材料科学といったさまざまな分野の研究者と一緒に新しいものを見つけていくことが必要だと前田准教授は説く

そもそも「光触媒」とは何か?

太陽光発電に使われるソーラーパネルは目にしたことがあると思うが、前田准教授が研究しているという「光触媒」とは何か。

「誰でも中学生の理科で、水の電気分解を学びますね。これを電気エネルギーの代わりに光のエネルギーでやろうという研究が、40年ほど前から始まっています。具体的には、気体が発生する電極に半導体を用い、そこに光を当てる。するとその半導体に蓄積された光のエネルギーで、水が分解できるようになるんです」

水の電気分解は、電流によって水を分解する。これを光エネルギーでやると、さらに効率的にできるということを日本の研究者が見つけ、1972年に発表した。

水中に二酸化チタンの電極と白金(プラチナ)の電極を配置し、二酸化チタン電極に光を当てると水が分解される。その結果、二酸化チタンから酸素が、白金から水素が発生し、同時に2つの電極の間に電流が生じるというもので、本多・藤嶋効果と呼ばれている。ここで重要な働きをしているのが、光エネルギーというわけだ。

「これがルーツではありますが、今はさらに進んでいます。簡単に言うと、2つの電極をショートさせるんです。すると電極として使っている半導体の上に、ナノサイズの粒子が乗ったような構造体ができる。その構造体のことを、われわれは“光触媒”と呼んでいるんです」

そう言いながら前田准教授が出してくれた、小瓶に入ったパウダー。これこそが粉末状になった光触媒だ。

「これらを使って、水を分解して水素を作ったり、二酸化炭素を一酸化炭素やギ酸に変換したりすることが、私の大きな研究テーマなんですよ」

粉末状の光触媒。左が「窒化ガリウム」で、右は「酸化亜鉛」。真ん中の黄色い粉末は「窒化ガリウム」と「酸化亜鉛」が原子レベルで混じり合ったもの

潮目を変えた研究発表

「学生時代に発表した論文で、自慢できるものがあるんです。結構、世界的にも引用されている論文で、『これを研究しなきゃ』という流れになったきっかけですね」

現在、実用化されている太陽光エネルギーのうち、光触媒を用いたものは10%程度にすぎない。しかも、安定供給できないという課題がある。

「エネルギー効率はいいのですが、寿命が短いというか…光触媒が溶けてしまったりするんですよ」

そこで前田准教授が提示した方法がある。

「粉末状の光触媒の上に、元素の一つであるロジウムのナノ粒子を乗せるんです。サイズとしては、2ナノメートル(10億分の2m)くらい。その上に酸化クロムを反応させると、水が分解されて水素が発生するんです。このように光触媒の表面をうまく使って、反応を促進させることも重要だということなんです」

この発表自体は、前田准教授が学生時代に発表したものだという。

「たまたま他の研究者がやっていなかったんですよ。でも、これで潮目が変わりました。当時、光触媒を使った水の光分解の効率は1%以下でした。太陽光エネルギーの変換効率が測れないくらいに低かった。それが一気に1桁くらい向上したんです。明らかなブレイクスルーだったと思います」

研究テーマの一つである有機光触媒を説明する前田准教授。新たな可能性を見いだすと注目を集める

さらなる可能性が広がる有機光触媒

現在、前田准教授が取り組んでいるものの一つが、有機物による光触媒だ。

「炭素と窒素からできた黄色い粉状の光触媒があります。これは空気中でも水中でもとても安定するんですよ。これを使って水を分解するのもいいのですが、僕は違うことを研究しています」

コンセプトは電気分解と変わらない。酸化する電極と還元する電極の組み合わせだ。

「この光触媒をさらに有機金属の分子で修飾(機能を変化させること)すると、二酸化炭素をギ酸や一酸化炭素に高い効率で変換してくれるようになります。これは無機物の金属や金属酸化物にはできないことなんです」

左が光触媒、右が有機金属の分子。カーボンナイトライド(有機光触媒)は、含まれる元素が炭素と窒素だけで、コスト的には究極の光触媒と期待される

資料協力:前田和彦

それはどのようなメリットをわれわれにもたらすのだろうか。

「例えばギ酸は燃料電池の燃料としても注目されています。化学式はHCOOHで、これを分解すると、二酸化炭素と水素になるんです。水素は貯蔵や輸送に課題を抱えていますが、貯蔵可能な液体燃料のギ酸として輸送し、輸送先で分解することで燃料として活用できるようになるわけです」

そのときに発生する二酸化炭素は光触媒を使うことで、またギ酸に戻すこともできる。このサイクルを使えば、二酸化炭素を原料にエネルギーを生み出すことが可能ということだ。

「有機金属分子の構造を変えると、ギ酸だけじゃなく、化学工業の分野で重要な一酸化炭素を作ることもできるんです。欲しいものを狙って作ることを『選択的合成』とか『選択的変換』と呼ぶのですが、これも無機物では実現するのが難しく、とても注目されている技術なんです」

エネルギー問題を解決できれば大きな夢がかなう

前田准教授の思いは、実はエネルギー創出のはるか先にある。

「私がやっているのは基礎研究であって即効性のあるものではありません。では、なぜそんな研究をしているのかといえば…世界平和につながればいいな、と。大げさに聞こえるかもしれませんが、誰にも公平に降り注ぐ太陽光をエネルギーに変換することができれば、化石燃料を求めて戦争を起こしたりすることもなくなるじゃないですか」

壮大な夢が、研究を支えている。

「自分たちが必要とするエネルギーはすべて光触媒で作ってやる…それくらい大きな夢を持たなければ、続けられないんですよね。だって、うまくいかないことの方が多いんです」

まだまだ化石燃料など既存のエネルギーが主流であることに変わりはないだろうと言いながら、前田准教授は「でもね」と続ける。

「エネルギーバランスと近年、ずっと言われていますよね。少しずつ変わっていって、徐々に太陽光エネルギーの割合が増えていけばいいなと思いながら、これからも研究を続けようと思っています」

生成した光触媒を検証するための実験機器。前田准教授と研究室の学生たちは日々、研究に勤しむ

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