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人の営みの中にある工場を切り取る夜景写真家の哲学

夜景写真家・カメラマン 光永純起

一時期のブームもあり、一般にその魅力が知られるようになった工場夜景。暗闇に浮かび上がるむき出しの配管、きらめく照明の光、煙突から噴き出す煙や水蒸気など、まるで異世界のような風景を眺めようと、多くのファンが工場やコンビナートに足を運んでいる。そんな工場夜景に魅せられた一人である夜景写真家の新鋭・光永純起(みつながつなき)氏が、ファインダーの先に見える世界の魅力を語る。

配管はモンスター!衝撃的だった工場夜景

「工場夜景の面白いところは、撮る工場によって第一印象が異なることです。だから自分は一番印象的な部分を強調するようにしているんです。照明が印象的だったり、作業棟のきらめきだったり、煙、さびた感じ、使い古された感じ、そういう第一印象でインパクトが強い部分を強調するんですよ。

その印象は撮影する時間帯や季節によっても変わってきます。季節で言えば、冬がベストシーズンですね。夏だと水蒸気が薄くなってしまったり、空気がかすんだりして理想的に撮るのが難しいんですよ」

そう語る光永氏は、もともとは別の仕事をしながら、趣味で風景や夜景の写真を撮影していたアマチュアカメラマン。ある時から工場夜景の撮影に目覚め、その写真を自身のインスタグラムで公開するようになると、工場夜景好きの間でじわじわと人気を集め始める。それがきっかけとなり、今では建築物や商品カタログ用の写真をメインに撮影するプロとして仕事をしている。

夜景写真はまだまだあくまでも個人的な趣味の延長という光永純起氏。その幻想的な写真に、ファンが増えてきている

兵庫県在住であるために撮影場所のメインは関西だが、各地の⼯場夜景仲間と合同で撮影することもしばしば。もちろん、各地にお気に入りの工場夜景スポットがある。

「岡山県倉敷市の水島コンビナートは山の上からコンビナート全体を見渡すことができるので、スケール感が一番印象に残る場所です。単体の工場としては福岡県京都郡の三菱マテリアル苅田工場も衝撃的でした。巨大な配管がうねうねしていてまるでモンスターですよ!」

光永氏が撮影した岡山県倉敷市の水島コンビナートの夜景

©光永純起

同じく光永氏が撮影した福岡県京都郡の三菱マテリアル苅田工場の夜景

©光永純起

ファンタジーのイメージと一致した一枚の写真

今でこそ、工場夜景写真家としてグループ展を開催するなど、活動の幅を広げている光永氏だが、そのきっかけとなったのはインターネット上のブログで見かけた一枚の工場夜景の写真だった。

「工場夜景の写真をアップしている方のブログで、東燃ゼネラル石油和歌山工場(現JXTGエネルギー和歌山製油所、和歌山県有田市)の写真を見たのがきっかけです。映画の『マトリックス』シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズ、ゲームでは『ファイナルファンタジーⅦ』が特に好きで、その作品に登場するような近未来的な風景と非日常的な風景のイメージとその工場夜景が合致したんです。『大好きなファンタジーの世界が現実にあった!』という感じです」

光永氏が初めて撮影した工場夜景は、どっぷりとハマるきっかけとなった東燃ゼネラル石油和歌山工場(現JXTGエネルギー和歌山製油所)

©光永純起

もともとSFやファンタジー好きのカメラマン・光永氏にとって、その世界観を現実で体感できる工場夜景との出会いは、ある意味必然だったのだろう。工場夜景の写真展や自身も参加するグループ展を開催することで、新たな出会いや意外な発見もあったという。

「きっかけとなったブログの方と写真展で一度お会いしたことがあるのですが、あいさつ程度のお話ししかできなくて、いつかもっとゆっくり夜景写真の話をしたいですね。そうそう、写真展といえば、グループ展をしたときに会場で来客対応していたんですけど、半分以上が女性の方だったんですよ。男性の方が多いと思っていたので驚きました」

シャッタースピードを速めて煙の形を残す

さて、光永氏が実際に工場夜景を撮影する際は、どのようにして臨んでいるのか。

「その工場の印象的な部分を強調して撮ることです。それによって使うレンズや設定を変えるのですが、例えば照明が印象的な工場だと、水蒸気や煙の形を残すためにシャッタースピードを速めています。夜景撮影は長時間露光と思われがちですが、そうすると動きは出るものの、せっかく印象的な煙や水蒸気の形が消えてしまうのです」

時間帯や季節によって表情を変えるため、同じ工場でも毎回テーマを変えて撮影をするのも光永流。テーマによって撮影場所が変わるため、同じ工場に何度も足を運ぶことも多いという。

「特に夕景が撮りたいとなると時間が限られていますからね。同じ工場でも一日に1つの場所からしか撮れませんから、必然的に何度も通うことになります。それも楽しいんですけどね。また、ほかの人が撮った写真を参考にしながら、グーグルマップのストリートビューなどを活用して、どこから撮るのがベストか作戦を立てるのも、宝探しみたいで楽しいんですよ。まあ、実際に行ってみると思い通りに撮れないことも多いですが(笑)」

夜景撮影には三脚が必須

ビル群を前に夜景を撮影

そうして撮影された写真は光永氏のインスタグラムにアップされ、多くの工場夜景ファンを楽しませている。それらの写真は非日常的で、ファンタジックなものばかり。撮影、現像技術のみの写真だけではなく、加⼯技術も駆使した作品まで幅広い表現をめざしている。

「基本的にRAW現像(デジタルデータの現像工程)です。悪天候の場合は空をキレイに出したり、工場のメタリックな雰囲気を出したりするために加工することもありますが、7割程度はRAW現像のみです。デジタル写真は後からいじれるといっても、画質が劣化したり細かい調整ができなかったりしますので」

暮らしに溶け込む工場がある

個人的な撮影活動を続けたことで、現在、光永氏は東京電力グループの公式インスタグラムで工場や設備の写真撮影を担当している。そこでは、普段撮っている工場夜景写真とは違った風景が見えるという。

「外から撮る工場夜景と、その中に入って撮るのでは全然違いますね。普段から気になっている、一般の人では入ることができない場所に入れたり、これまで内部は見えなかった設備の中に入れたりと、いつもと違う視点で撮影できるのは楽しいです。僕と同様に施設内部が気になってる人も多いようで、反響も大きいんですよ」

​東京電力グループの公式インスタグラム第1回目で撮影した鹿島火力発電所

©光永純起

同インスタグラム撮影で光永氏が個人的に気に入っている​川崎火力発電所

©光永純起

東京電力グループ(TEPCO)の公式Instagramアカウント。公開されている写真は、光永氏が電力関係施設などで撮影をしたもの

©TEPCO

やはり、カメラマンにとって、写真を見た人からの声は何よりの糧となる。光永氏はそんなファンに対して、どのようなメッセージを送っているだろうか。

「工場夜景写真は自己満足で撮影しているので、何かを伝えたいと思ったことはありません(笑)。でも、工場を直接見たことがない人やマイナスイメージを持ってる人に、『キレイ』だとか『カッコいい』だとか、プラスのイメージを持ってもらえるような写真を撮影できればいいなと思っています。近い未来には、安全面から工場もシンプルな建屋になったり壁に覆われたりするようになるんだろうなと思っているんです。だから、むき出し感のある今しか撮れない工場を記録に残しておきたいと、日々撮影しています」

工場夜景撮影には、実際には多くの撮影機材が必要になるが、移動が困難になるために最小限の荷物で動いているという光永氏

いずれ変わっていくであろう工場夜景。現在の撮影テーマは、工場と人々の暮らしだという。

「水島コンビナートはまさにそのテーマにうってつけで。住宅街の側にコンビナートがあるため、200以上ある工場群を背景に人々の暮らしが営まれている風景が好きです。工場は無機物だけど生き物のように呼吸をし、鼓動を感じられます。そんな工場が持つエネルギーをこれからも写真に収めていきたいですね」

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