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“エネルギーの究極最適化・効率化”を目指し、次世代モビリティとスマートシティの未来をつくる

早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 小野田弘士教授

スマートシティや次世代モビリティの構想。未来を描いた構想は次々に登場するが実現までの道筋はどのように進めていくべきなのか──。今回、さまざまな現場での社会実装を通して、持続可能な社会インフラの実現に力を注いできた早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 小野田弘士教授を訪ね、モビリティと社会、エネルギーの未来像を伺った。

“究極にミニマル”な姿を追求したモビリティを開発

「私はもともと機械工学の出身なのでモビリティの開発など個々の要素技術についても研究していますが、それらを“次世代型社会インフラ全体の中にどう組み込むか”“一つのシステムとしてどう機能させるのか”が本来の研究テーマです。実際に現場を持っているのが、この研究室で一番の特色ですね」

今回訪ねた小野田教授が主宰する小野田研究室の研究分野は次世代モビリティやバイオマス、再生可能エネルギーの技術開発、それらを集約したスマートコミュニティづくり、廃棄物処理やリサイクルシステムなど実に幅広い。早稲田大学の本庄キャンパスがある埼玉県本庄市で2011~14年に実施された「本庄スマートエネルギータウンプロジェクト」でも重要な役割を担ってきたという。

そうした幅広い研究対象の中で、ULV(Ultra Lightweight Vehicle)と呼ばれる超軽量小型モビリティが誕生した。

「従来のものづくりとは逆のアプローチでULVの開発を進めました」と語り、その意義を述べる小野田教授

「大学の研究室が車を造るというと奇異に聞こえるかもしれませんが、これも未来のモビリティシステム全体を見据えた研究の一つです。従来のプロダクトアウト的な発想ではなく、人や環境の立場から、どんなモビリティが必要なのかを考えてのチャレンジでした」

特徴的なスタイルを持つULV。これまで実験のほか、イベントでの試走や試験運用を行ってきた

この一人乗りULVは最軽量モデルで車体重量が約82kgとなるなど、極めて軽量なことが特徴。シャシーやボディーなどを全てゼロベースから開発を手掛け、ナンバーを取得(ミニカー登録)しての公道走行までをも実現している。2004年に初めて公道走行させてから現在に至るまで実証実験や試験運用を繰り返し、燃費性能などを向上させてきた。

「自動車メーカーが一人乗りモビリティを造るとなると、既存の自動車から引き算していきますが、私たちのULVはアプローチが全く異なります。発想のスタートをまず自転車として、そこに何を足すべきかを考えました。出発点をどこに置くかによって最終的な車体重量が変わってきます。軽量化は燃費に一番効きますので、最も重視しました」

ボディーやパワーユニットまで入れて、この車体重量は驚くべき軽さだ。前2輪、後1輪(後2輪のモデルもあり)というスタイルも独特といえる。

「ゴルフカートなど敷地内を走るだけのものなら比較的簡単に造れるんですが、公道を走れなくては造る意味がありません。通常は十分なR&D(研究開発)を行ってからプロダクトを造る手法を用いますが、この場合は逆で、何よりも先に汎用性の高いプラットホームを実装しました。データを取ったり、技術を深めていくのは後から追い掛けてやろう、というプロセスです」

エコ以外にもメリットが!空気を燃料とする圧縮空気エンジン

車体の軽さに加えて、パワーユニットを自由に載せ替えできる構造もULVの特徴だ。

これまでバッテリー&電気モーター、燃料電池&電気モーターなどさまざまな組み合わせが試されてきたが、とりわけユニークなのは圧縮空気エンジンを搭載したモデル。「空気エンジン車」というアイデア自体は他にもあるが、その多くはコンセプトモデル。国内はもちろん、世界的にも実際の走行に成功した例はごくわずかしかない。

「構造としては工場などで使われているコンプレッサーの空気の流れを逆にしたイメージで、圧縮空気が膨張する力を使って動力を取り出し、車輪を回します。圧縮空気エンジン自体は協力先が製造し、効率を高めるための解析などを大学側でやっています。当面の目標航続距離は10km。現在、貯蔵タンクのレギュレーター(圧力の調整装置)で損失してしまうエネルギーが大きいのですが、エンジン単体の熱効率でいうと小型のガソリンエンジンと同等くらいまできています。短距離のモビリティとしては現実的といえるでしょう」

ULVに搭載される圧縮空気エンジン。燃料電池車よりも車重を軽く造れるのもメリットだ

“空気を圧縮するエネルギーをどこから調達するのか”という問題はあるものの、走行時には空気しか出さないというクリーン性、低コスト、構造の単純さ=壊れにくさ、軽量さといった長所が圧縮空気エンジンにはある。さらに、ボンベさえ持っていけば、どこでもエネルギーを補給できるのもアドバンテージだ。

「世界を見渡すと、電化されていない地域がまだたくさんあります。もしかしたら、そうした所で活用できる可能性があるかもしれない。加えて車輪の回転力を生み出せるということは、発電機あるいは空気が膨張する際の冷気を使ったクーラーといった技術への応用も利くということです。使うのは私たちが普段吸っている空気ですから、利用する側も安心。市場で受け入れられるプロダクトにするためには、意外にそういうことも大事なんです」

圧縮空気エンジンULVの試走シーン。現状の航続距離は短いが、ボンベを高圧化したり、レギュレーターを改良することでより高性能化を目指すという

ただ、圧縮空気もたくさんある選択肢の一つにすぎない。モビリティにおけるエネルギーの貯蔵方法としては電気としてバッテリーに蓄える、ガソリンや水素としてタンクにためるなどの方法が一般的だが、他にも圧縮空気、フライホイール(エンジンからの出力軸に円盤を組み込んで回転させてその慣性モーメント<回転する勢い>を利用、回転力の変化を減らして安定させる)を使った運動エネルギー回生などさまざまな手段がある。ULV開発は電気や水素ばかりに目がいっている現況に一石を投じる意味合いもあったとのこと。

「パワーユニットは何でもいいと思ってるんですよ。たくさんの選択肢を想定して、利用環境や地域の特性に適したものにすることが大切で、私たちが造るのはあくまでベースモデル。パワーユニットやボディーは自由に好きなものにローカライズされるべきなんです」

こうした適材適所、分散型の考え方はモビリティだけでなく、エネルギー、次世代型社会インフラづくり全体についても全く同じことがいえるのだという。

車造りと同じ考え方が街づくりにも生かされる

早稲田大学環境総合研究センターが地方版スマートシティのモデルづくりを目指して取り組んだのが「本庄スマートエネルギータウンプロジェクト」。

小野田教授は太陽熱や地中熱など再生可能エネルギーを利用したエネルギープラントの開発だけでなく、その電力をテナントに供給するためのエネルギーサービス事業構築、さらにはインフラをつくるための資金調達、テナントの誘致にまで携わった。

本庄スマートエネルギータウンに建てられた太陽熱の集熱器。地中熱と併せたハブリッドのエネルギーシステムとして運用される。プラントの設計だけでなく、エネルギー供給事業者を立ち上げ、運用するまでのマネジメント業務を小野田教授が担った

「エネルギーの話なんて、それまでは国と電力事業者の間で交わされる話題であって、地方行政では誰もやっていませんでした。そこでまずは本庄市の『地の利は何か?』を分析するところから始めました。

すると、発電を賄えるような大きな自然エネルギーはないのですが、その代わりに災害が少なかったんです。だから長いスパンで街づくりを展望できるし、交通のアクセスもいい。また自然環境も豊かで、森にオオタカがすんでいたりもする。そうした環境があるからスマートエネルギー、エコなモビリティが有効かつ必要なんだ、ということが言えるわけです」

研究者であり、現場に詳しく、その上コンセプトエンジニアリングもできるのだから力強い。

また、小野田教授は環境配慮型社会の高度化に向けた評価・ソリューションを民間企業や官公庁などに提供する、株式会社 早稲田環境研究所の創業者でもある。これは大学と連携して技術移転を図り、先進的な研究成果から生まれる利益を社会全体に還元しようという試みだ。

現在は直接の経営からは退き、アドバイザー的な役割を果たしているが、そうした社会実装を通して見てきたものとは?

「地方や発展途上国での街づくりに、画一的な考え方あるいは先進国、大手企業の論法を適用しようと思ってもうまくいきません。大きなものからそぎ落としていく手法では地域ごとの最適解にたどり着けない。なぜなら実現できたとしても莫大(ばくだい)なコストがかかってしまうからです」

食品系廃棄物をバイオガス化する方法など、これまでさまざまなバイオ燃料装置を研究、実用化してきた

「例えばミャンマーという国は今、開発がものすごく進んでいて多くの日本企業も進出しているのですが、非電化地域が全体の7割近くも残っています。じゃあ、ここに大きな発電所を造って電化率を上げよう、という考え方はナンセンス。

使わないもみ殻から造ったバイオマスで小規模発電し、その電気で子供たちが夜、勉強できたり、スマホを充電できれば十分という相手国の価値観を理解しなければいけないんです。私たちが木質バイオマスの研究をしているのも、日本の国土は3分の2が森林であるにもかかわらず、未利用の木材がたくさんあるからです。

まずは小さなところから始めて、本当に必要なものだけを足していく手法は、ULVとも共通する考え方ですね」

今後、CO2排出量を減らしながらエネルギーをより効率的に使う社会を実現するには、地域や土地のニーズに合わせた手法が重要となる。小野田教授が実践してきたミニマルな実装から始めるものづくり、人と環境ありきの街づくりは私たちに何らかの示唆を与えてくれそうだ。

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