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無線充電の最前線!ワイヤレス給電で工場が変わる

AGV用ワイヤレス給電システムの普及を推進する㈱ダイヘン 鶴田義範

携帯電話や電動歯ブラシなどで活用され始めている無線でできる充電。生活の中に少しずつ浸透し始めているこの技術は、製造の現場においてはさらに進んでいる。工場内で使われる自動搬送車(AGV)用のワイヤレス給電システムを販売する株式会社ダイヘンの鶴田義範氏に、無線充電の今、そして将来の可能性について聞いた。

工場内の電力供給は有線から無線へ

ケーブルなどで接続せずに、電力を機器などに充電できるワイヤレス給電。電動歯ブラシやシェーバーなどの水回り機器、携帯電話の「置くだけ充電」など身近な機器で広がりつつあり、家電製品においてもワイヤレスで電力を送り、動作させる試みが行われている。

その中で、今、普及が進んでいるのは工場の中。製造現場において工場内で荷物の運搬を担っている自動搬送車(AGV)の電力供給に用いられている。この分野で一歩進んでいる企業がダイヘンだ。2016年にはワイヤレス給電システム部を創設し、磁界共鳴方式を用いた機器の販売を開始するなど他社に先んじた取り組みと開発を行っている。

同社が開発したAGV用ワイヤレス給電システムは、複数のユニットが電力を変換しながら送信し、AGVに搭載された蓄電池に充電するというもの。A地点で荷物を積み、B地点で荷物を下ろす間の距離を稼働するだけのエネルギーを充電できればよいため、充電に必要な時間は荷物の積み下ろしで停止するわずか十数秒間と短い。

電力を非接触で送ることは一般的になじみは薄いが、電話やインターネット接続などの通信が有線から無線となり普段の生活に溶け込んでいるように、電力のワイヤレス化は常識となるのかもしれない。

「例えば携帯電話でいうと普及してまだ20年くらいですが、今の子供たちにとっては、電話に線がついていないのは当たり前。将来的には充電も無線でするのが当たり前になるのではないでしょうか。有線で充電していたことは、今の子供に黒電話を説明するような感覚になるかもしれませんね」

株式会社ダイヘンの鶴田義範氏。2016年に発足したワイヤレス給電システム部長に就任

開発の道のり…そしてAGV向け市場を目指した狙い

ワイヤレス給電に関する取り組みが世界的に広がったのは2006年。MIT(マサチューセッツ工科大学)が、2つのコイルを共振させて電力を送る「磁界共鳴方式」を発表したことによる。これにより、多くの企業が開発に乗り出し、ダイヘンも同様だった。

同社は、1919年に大阪変圧器株式会社として設立。変圧器に始まり、溶接機や産業用ロボット、高周波電源装置、プラズマ発生用電源装置など、自前の技術を生かしてさまざまな分野に進出を果たしている。

「われわれの技術を使えば、ワイヤレス給電システムの開発もできると踏んで、実験をしてみたところ、一発で成功したんです。これはいけるとなって開発がスタートしたのですが、実はその最初の1回だけがたまたま成功して、以降しばらくは全く電力伝送ができなくなったんです(笑)」

そんな話もあったが、同社の半導体製造装置用の技術を適用したことで、問題はクリア。そこから開発が加速し、2013年に第1号となるワイヤレス給電システムが完成した。

AGV用ワイヤレス給電システム「D-Broad」。左から右のユニットへとエネルギーが流れていく。左の送電ユニットが交流電力から高周波電力を発生させ、次に送電コイルユニットが磁気エネルギーに変換。AGV側に付いた受電コイルユニットが磁気エネルギーを受けて電気エネルギーに変換、右の受電ユニットが高周波電力を直流電流に変換して蓄電池に充電する。既存のAGVに後付けもできる

荷物の積み下ろしの間の十数秒を利用して充電。従来用いられているバッテリー(鉛蓄電池など)への充電以外にも、オプションのキャパシタユニットにも対応可能。キャパシタユニットを使用すると高効率で大電流充電が可能となり、鉛蓄電池よりロスが少なくなる

「ワイヤレス給電で期待されている用途といえば、電気自動車への充電があります。実際、多くの企業が電気自動車向けの開発を中心に進めています」

確かに開発・普及が世界的に推進されている電気自動車ならば、エネルギー供給の市場においても、今後、拡大の一途をたどるだろう。では、なぜAGV用を選択したのだろうか。

「電気自動車市場と比べると、AGV用は市場規模が小さいという考えもあると思いますが、電気自動車自体の普及が進むことで市場が生まれてくることもあるので、ワイヤレス給電が事業として成り立つのはもう少し先。今すぐに需要のある分野がAGV市場というわけなんです」

工場内のAGVの充電をワイヤレス化する大きなメリットは、なんといっても労務費の大幅な削減だ。8時間稼働の工場であれば、業務終了後、夜から朝にかけて充電をすればよいが、24時間稼働の工場となるとそうも言っていられない。有線で充電をしようとすると、充電スペース、バッテリー置き場、予備のAGV、そして充電する際の人員など、多くのスペースや手間を要する。自動搬送とはいえ、人の手も必ずかかるのだ。

また、有線による充電の場合、抜き差しを繰り返すために起きるプラグの劣化、ケーブルの断線、スパークすることによる発火の危険性もあるため、コスト面、安全面からも採用する企業が増えているという。

無人フォークリフト(AGF)への取り付け例。送電コイルと受電コイルの距離が40mm離れていても大電流、高効率充電が可能

解決すべき課題と視野に入れる海外市場

機能性、コスト面からもこの先導入が進むと思われるワイヤレス給電システムだが、課題もまだある。

「最近は地上から20㎝未満の低床型AGVも多いのですが、現状だとそのサイズのものには取り付けることができないんです。ですからシステムをもっと小さく、今よりも半分くらいのサイズになるように開発を進めていて、この春に発売します」

工業製品の小型化はどの分野でも大命題。開発が進むにつれて実現するのは時間の問題だろう。一方で、欧米の工場に目を向けると、国内に比べて小型化に関する課題は少ないという。

「欧米では工場の規模が大きく、大型のAGVが使用されていることが多いので、現状の製品でも大半は対応可能だと思います。そもそも、日本よりAGVの導入が遅れているようで、新しく導入を計画されるケースが多い。その場合はワイヤレス給電システムの導入を前提に、工場の設計やAGVの配置を計画できます」

今後も製品のラインアップの充実を図りつつ、海外へ向けて展開する。

AGV用ワイヤレス給電システムの使用イメージ。自動搬送ルート上に給電装置を設置することで、稼働を止めることなく充電が可能

電力供給のワイヤレス化がもたらす近未来

この先、ワイヤレス給電がさらに普及してくると、一般生活の在り方にも変化が訪れるのは、自明の理だ。

「例えば自動掃除ロボット。現状では充電時の失敗率が30%ほどあるそうですが、われわれが用いている磁界共鳴方式での充電方法に変更すれば、その成功率は間違いなくアップしますね」

身の回りのもの全てがワイヤレスで充電できるというのは極端な話ではあるが、まるで夢物語というわけでもない。事実、AGVのワイヤレス給電システムを導入した工場では、新たな用途への期待が高まっている。

「電動工具へのワイヤレス給電の需要があります。現状の電動工具は、大きなバッテリーを搭載していますが、作業自体は数秒。作業の合間に置くだけでネジ数本程度を締めるのに必要な電力が充電できれば、大きな電池は必要なくなるので、かなりの軽量化が望めます。現場からの一番の要求は『工具を軽くしてほしい、電池の交換をなくしてほしい』というものですから」

一般にも使われる電動工具に搭載できるほどの小型化、軽量化が進むならば、他の電化製品への展開も想像に難くない。例えばドローン。ワイヤレス給電ができる施設を各所に作ることができれば、給電施設間を飛行する分だけのエネルギーがあればいい。すると必然的にドローンに搭載するバッテリーも小型化し、全体の軽量化にもつながって効率的な飛行が可能になるなど、その応用の幅は無限に広がることだろう。

すでに工場内では充電のワイヤレス化が進み、作業の効率化、コストダウンに大きく寄与している。そんな現状を鑑みると、われわれの身の回りのあらゆる機器がワイヤレスで充電できる時代は、実はすぐそこまで迫っているのかもしれない。

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