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民間企業とのコラボで月面基地建設へ大前進!宇宙開拓時代の理想的技術開発とは

JAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙探査イノベーションハブ 研究領域主幹 星野 健【前編】

人類が初めて月に降り立ってから約半世紀。宇宙への旅はかつての冒険、探検といったフェーズから、将来の開拓に向けた探査へと軸足を移しつつある。ことし9月、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と大手総合建設会社の大林組が共同で開発した「月や火星の土を原料にしてブロックを作る技術」は、そうした新時代の宇宙開発に欠かせないものだ。JAXAで民間企業との共同研究事業を進める星野健研究領域主幹に話を聞いた。

宇宙探査は冒険から開拓、そして永住の時代へ

かつてはSFの世界で語られる夢物語だった月面や火星面上での基地建設が、近年、現実味を帯びてきている。

月や火星にロケットを飛ばすだけでも計り知れないほどの労力とコストがかかるのに、基地に必要な大量の資材を一体どのように運ぼうというのだろうか──。

鉱物は豊富にあるが、大気や水、重力といった環境は地球とまったく異なる月。現状考えられるエネルギー源は太陽しかない

画像提供:JAXA

「1960~70年代初頭のアポロ計画に代表される宇宙開発では、ロケットをはじめとする機材の材料はもとより、それらを動かすためのエネルギーも全て地球から運びました。当時の技術では、それしか方法がありませんでしたからね。でも、現在運用されている国際宇宙ステーションは資材こそ地球のものですが、内部に電力を供給するためのエネルギー源には太陽電池パネルが使われ、酸素や水などは再利用されています。

将来的に惑星や小惑星に拠点を築く際には、資材の調達からエネルギーの確保まで全て現地で持続可能なもの、つまり“地産地消”で行う必要があります。今回、大林組とJAXAが共同開発した『月や火星にも適用可能な地産地消型基地建設材料の製造方法』は、そうした将来を見据えた技術です」

そう語るのは、JAXA宇宙探査イノベーションハブで研究領域主幹を務める星野氏。農作物や水産物など食の世界では一般化した”地産地消”という単語だが、まさか宇宙開発の現場で聞くことになるとは思わなかった。

確かに宇宙に資材を運ぶのは、膨大なエネルギーとコストがかかることは容易に想像できる。現状だと、月面に何かを運ぶ場合のコストは1kgあたり1億円に達するという。つまり月面基地のような巨大な建造物を作るのに、地球から資材を運搬する方法は全く現実的でないのだ。

だからこそ、現地で地産地消する技術の開発が必要不可欠なのである。



※日本における宇宙開発のパイオニア・糸川英夫に関する記事はこちら
※宇宙への輸送コスト削減を目標にJAXAが挑む“超軽量建機”に関する記事はこちら

宇宙での”地産地消”技術の実現に向けた研究開発に取り組んでいる星野氏

将来、月や火星で基地などの拠点を建造する際には、現地での資材調達が不可欠だ

画像提供:JAXA

独自の環境や土壌を考慮した製造方法

地球上にある建設物の多くは、セメントや鉄、アスファルトのような純度の高い原料で作られる。そして製造工程においても大量の水を必要とするなど、地球の環境に依存している。

ところが月や火星で何かを作ろうとしても、地球とは事情が全く異なる。純度の高い原料は手に入らず、大気や重力などの条件も大きく違っているためだ。そうした課題を解決するためにスタートした研究が、現地生産のブロック製造技術だ。

まず月の環境下では水が手に入らないため、砂にマイクロ波を照射し、1000度以上に加熱して焼き固める製法が採用された。強度は焼成温度によって変わり、求められる要件に応じて、製造のために消費されるエネルギー量を調整できるのが特徴。

一方、火星の環境は月ともまた違っていて、粘土質の土、そして水は氷の形で手に入る。

また、重力については地球の3分の1程度のため、建造物にも大きな強度を必要としない。そのため土を焼き固めるのではなく、常温で高圧縮し、ブロック化する“コールドプレス”という製法が用いられた。

これは圧力を高めるほど強度も上がり、最大でレンガ程度の強度になるという。

コールドプレスで製造されたブロック。火星のような大気密度が低い条件下で製造すると、地球よりも1割程度強度が増すという

画像提供:大林組

いずれの製法も月や火星で簡易にブロックを作るための技術だが、表土の成分については実のところ地球と大差ない。

つまり、宇宙開発のための技術が地上における建設にも応用できる可能性があるのだ。

公的機関と民間企業がWin-Winとなる組織づくり

今回、星野氏らが進める共同研究は、従来の宇宙開発とは異なるプロセスが用いられた。

公的機関であるJAXAと、民間企業や大学の研究機関などさまざまな分野の人材が協力して知恵を絞る。宇宙探査の研究を推し進めながら地上への技術応用も目指す目的で設置された研究開発プログラム「宇宙探査イノベーションハブ(TansaX/タンサックス)」の一環なのだ。

TansaXは科学技術振興機構(JST)の支援を受け、2015年に設立。今回の発表以外にも既に数多くの研究成果を挙げている。

宇宙探査イノベーションハブの概念図。JAXAと民間の研究機関をつなぐハブとして機能しながら、イノベーションの創出によって双方の領域を高める役割だ

画像提供:JAXA

「宇宙探査イノベーションハブでは3つの研究分野を柱としています。1つ目は小型の探査機を複数、協調制御して未踏峰地点の探査を目指す『広域未踏峰探査技術』、2つ目が自動・自律制御あるいは遠隔操作のロボットで無人による拠点建設を目指す『自動・自律型探査技術』、そして3つ目が今回のブロック製造技術のような惑星や小惑星での拠点建設に必要な物資を現地で調達することを目的とした『地産・地消型探査技術』です。

JAXAではこれまでにも民間企業や大学と協力して研究を行ってきましたが、TansaXの取り組みが従来と違うのは、発注者と受注者の関係ではなく、互いの研究領域を高め合える体制にあります。

加えて、これまでJAXAの研究開発は無重力・微小重力下、つまり宇宙空間での活動を主体とした分野がメイン。惑星や小惑星の探査においては経験が乏しかったことも、TansaXが設置された理由の一つでした。民間で既に基盤ができている技術を応用することで開発スピードを早め、永続的に研究を行っていくことが目的ですね」

惑星での建造物建設や探査機、ロボットなどの開発には、さまざまな分野の知見、技術が必要になるが、既に地上で産業として確立している分野から応用できる可能性がある。問題は大気や重力、放射線など地球環境との違いだが、その領域はJAXAが知見と実験設備を存分に提供して発展させる。

そうした研究の過程で生まれた成果は、協力した企業や大学が自由に利用できるという、双方にとってメリットのある体制がTansaXの特徴なのだ。星野氏は続ける。

惑星・小惑星の探査技術開発には民間との協同が不可欠と語る星野氏

「例えば、月に拠点を作る際に、現場で人間が作業するのは非現実的であり、機械を自動・自律制御、あるいは遠隔制御で動かす必要があります。

ある建設大手の会社はトラックやブルドーザー、振動ローラーなどの機械を、自動運転と遠隔操作を組み合わせた協調制御で動かし、無人で整地する技術を既に持っています。それを使わない手はないですよね?

ただし、地球から月にある機械を遠隔操作するとなると、通信のタイムラグが発生し、現状の技術ではうまくいきません。そこでJAXAが持っている、タイムラグ分を補完しながら操作できるシミュレーターを組み合わせると、長距離間で機械を遠隔操作するイノベーションが生まれます。

建設会社はこの技術を新たな事業として生かすことができ、いざ月に拠点を作る際にも使うことが可能です。そうしたJAXAと民間企業などの共通部分を見つけ出し、研究課題としていることがTansaXの大きな特色と言えるでしょう」

TansaXでは従来のような特許の不実施補償(特許技術を利用した収益事業を実施しない権利者、この場合はJAXA側が、特許技術で収益を得る民間企業などに対して一定の実施料を求めること)を廃止したり、クロスアポイントメント制度(研究者が複数の組織と同時に契約を結んだ状態のこと)を採用するなど、研究周辺環境のチャレンジングな整備も行った。

そうした新たな取り組みは企業などから非常に評価が高く、現在はTansaXだけでなくJAXA全体にまで広がってきたそうだ。

後編では、月や火星の表土でブロックを作る技術が何のために必要なのか、地上のどんな産業に応用できる可能性があるのかについて、より詳細に解説していく。



<2018年11月8日(木)配信の【後編】に続く>

“ブロック”が建設資材として適している?その理由に迫る

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