未来シティ予想図

技術的には2030年には実現可能!? 驚愕の深海都市構想に迫る

CO2から天然バイオガスを生成する深海3000mの工業都市とは

人口やエネルギー問題を解決するアイデアに満ちた「未来の都市構想」を紹介する連載がスタート。第1回は清水建設の「オーシャンスパイラル」。水深3000mにらせん状の構造物を延ばし、およそ5000人が暮らす“深海都市構想”とは? 同社の未来構想<シミズ・ドリーム>第3弾として発表されたプロジェクトの最新状況を知るべく、海洋未来都市プロジェクトチームを訪ねた。

深海の“産業化”を支える常設インフラ

5000人が住む海面付近の球体の居住コロニーから、水深3000mまでらせん状に延びるトンネル。そこを走る輸送車両は、地上から液化した二酸化炭素を運び、深海の資源開発工場で天然バイオガスに変えたり、また、海底資源を深海の工場で選別後に海上に運んだり。それらの電力は、海水の温度差を利用した発電により賄われる――。
 
2014年11月に清水建設が発表した深海未来都市構想「オーシャンスパイラル」は、そのユニークなアイデアと、2030〜2050年の実現を目標とした発表とあって大きな注目を集めた。

右が海洋未来都市プロジェクト プロジェクトリーダー・竹内真幸さん。左は同サブリーダー・吉田郁夫さん。東京・京橋の清水建設本社にて、「オーシャンスパイラル」のモックと共に

現在、この夢のような計画を研究・推進する“専任チーム”が置かれていることから、同社がこの未来都市構想へかける“本気度合い”が推し量れる。プロジェクトリーダー・竹内真幸さんに話を聞いた。
 
「専任メンバーは現在4名。建築・都市計画を担当していた者や、海洋船舶・海洋深層水を担っていた者、またNASAに出向していたメンバーなど多様な出身者で構成されています。兼務も含めると、総勢20名ほどになりますね。現在の当社会長・宮本洋一が社長だったころ、直接の指名でスタートした『社としてのプロジェクト』。技術的には実現可能な本気の取り組みなのです」
 
深海都市というと、透明な“半球体”のドーム形コロニーが海底に並んでいるようなイメージを思い浮かべるが…。
 
「計算してみれば分かりますが、半球体のドームは浮力で浮き上がってしまうので、海底に建設するのは現実的ではないんです」
 
人間が居住するのは海面近くに位置する直径500mの球体。そこから、特徴的なスパイラル構造物が3000〜4000mの海底まで延び、海底資源の開発・育成を行う直径1000mほどのアースファクトリーまで“深海ゴンドラ”が行き交う計画となっている。
 
「狙いは深海の産業化を支える“常設インフラ”。陸上で橋やトンネルを造るのと同じ観点で構想しているんです」
 
地球の約70%は海。水深200m以下の“深海”は、その海の約80%を占めており、エネルギーや資源などとてつもない可能性を秘めている。そう竹内さんは語る。
 
「深海はまさに“地球最後のフロンティア”。このオーシャンスパイラルも、深海の資源やエネルギーを最大限に生かす都市としての構造を取っています。海底へ続く輸送トンネルとしてスパイラル構造を採用したのも、現実的な輸送量を計算してのこと。エレベーターとエスカレーターを想像してもらうと分かりやすいのですが、量も頻度も容量も全然違う。エスカレーターの方が大量に輸送できるでしょう?」

浮き上がらないように無数のアンカーケーブルで海底に固定される。建設の容易さから、深海平原およびコンチネンタルライズという3000〜4000mの海底に広がる平野部を想定立地とする

世界4位のポテンシャル

つまり主役は海底のファクトリーとなるのだが「街」の併設が重要だと竹内さんは説く。

オーシャンスパイラルでは、前述の海面近くの球体内部に球殻補強材も兼ねるタワーを設け、そこに5000人規模が暮らす想定となっている。
 
「深海の資源を産業化するにあたって、“無人”では石油プラントのような“使い捨ての装置”になってしまう恐れがあります。これを“街”とすることで、人が使うためのインフラとなり、高度に進化し続けていける。深海から新しい資源やエネルギーを得るための“井戸を持つ街”というイメージなんです」
 
街にはレジデンスやオフィスのほかに、アクリルの外壁を通して360度のパノラマにより深海を体験できる教育・観光ツアーなどが計画されており、ホテルやコンベンションホールも設けられる。

街のために必要な電力、水、食料も、深海のポテンシャルを活用して自給自足される。電気は海底の温度差による海洋温度差発電、水は深海の圧力差による逆浸透膜式淡水化という技術で海水を淡水にろ過、食料は水深1000mの深層水を活用した未来型沖合養殖といった具合だ。
 
「自然のポテンシャルを生かそうという発想が日本的だ、とは言われますね。日本は国土こそ広くないですが、海を合わせるとその表面積は世界6位。さらに深さ、つまり体積にするとランキングは世界4位まで上がります。日本近海には、それほど深い海が多い。だから、大気から海底までを構造物で垂直に統合することで“深海の価値を広げていく”取り組みは、日本が主導する価値がある、と考えています」

内部に居住スペースとなるタワーを有するベースキャンプ部の外壁は、世界最大の水槽などを手掛ける日プラ社の超強化アクリル板を利用し、360°パノラマの透明球体となる

コンクリートから微生物へ!

深海の特性を生かす斬新なプロジェクトの中で、特にEMIRAが驚かされたのがCO2(二酸化炭素)を地球規模で循環させる構想。地球温暖化の抑制とともに、CO2から天然バイオガスを生み出すというのだ!
 
「深海には海底下微生物という固有のバクテリアが存在するのですが、最新の研究で、その中のメタン生成菌を利用することでCO2から天然バイオガスを製造できる可能性があると発表されたんです」
 
JAMSTEC(海洋研究開発機構)や大学の研究機関と情報交換し、連携を深めることで、さまざまな可能性が見えてきているという。
 
「今話題になっているメタンハイドレートの基は実はCO2。海にCO2が吸収され、長い時間をかけて形を変えながら深海に固着し、バクテリアが変換したものなんです。この循環には5万年というサイクルが必要なのですが、大量のCO2を液化して深海まで運ぶことで、炭素循環のサイクルを5万年から5時間に短縮して天然バイオガスを製造できる可能性がある。まだJAMSTECさんなどでの研究段階なのですが、将来的に、例えば火力発電でできたCO2を液化して集めれば、1週間で天然バイオガスにして戻すことができるかもしれないんです」
 
CO2をエネルギー資源に変え、温暖化も防止する――。

大気から深海までを垂直の構造物で貫くことで、「時代」と呼べるほどの時間を短縮する。
 
オーシャンスパイラルは、そんな驚くべき未来を描く深海都市なのだ。

深海のプラントでは、海底下微生物によるCO2からの天然バイオガスの製造のほかに、人工熱水噴出口から鉱物資源を育てる人工熱水鉱床も検討されている

“水圧”の持つ難しさと可能性

この夢のような“海底未来都市”、実現度はいかほどなのだろうか?
 
「われわれは民間企業。資金と時間を無限に必要とする空想的なものを“できる”とは言いません。その観点からしても、この計画は実現可能です」

竹内さんは力強く続ける。

「まずコンクリート。これはダムと同じで、厚さで勝負できるので深海の水圧に耐えられます。コンクリートの鉄筋は樹脂筋を代用しますが、鉄も空気のない水中では実はさびないんです。水圧さえクリアしてしまえば、雨、風、紫外線がなく、寒暖差も少ない深海は、逆に建築物にとって理想的な環境とも言えます。エネルギーや資源の部分はまだまだ研究が必要ですが、造る技術としては一定の実現性が見えてきているんです」
 
現在では、当初の発表からやや建築スケールをコンパクトにした、より実現性の高いモデルも検討しているという。
 
海洋都市がライフスタイルの一つの選択肢となり、あまねく地球に暮らす人々に深海からのエネルギーや資源による恩恵をもたらす――。

現代に暮らす子供たちが大人になるころ、そんな未来が実現しているかもしれない。

オーシャンスパイラル全体図。深海プラントのほか、深海域での未来型沖合養殖、深海冷水と海洋表面の水との温度差を利用した海洋温度差発電、深海の圧力差による海水の淡水化も計画

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