空想未来研究所

悟空でも不可避!?重力100倍でコケたら時速150kmで地面に激突する

あのキャラたちがしていた特訓の効果を考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「特訓」。スポ根から格闘ものまで、主人公たちの血と汗と涙の結果は本当に報われていたのかを考えてみた!

「特訓」は「トレーニング」とは違う!?

肉体を鍛えてもっと強くなりたい!そう思うのは現実を生きるわれわれも、マンガやアニメのキャラクターたちも同じである。

しかし、大きく違うのは、そう思ったときにわれわれが「トレーニング」を積むのに対して、キャラの皆さんはしばしば「特訓」の道をひた走ることだ。

特訓とは何か?

トレーニングは、簡単なことから始めて、レベルを上げながら本番の状況に近づけていく。

しかし特訓ではそんな生ぬるいことはしない。筆者の解釈だが、いきなり本番より過酷な状況に身を置くのが特訓だ。「それに耐えられれば本番では楽勝」という発想なのである。

今回は、マンガやアニメの世界で行われた、印象深い特訓について考えよう。彼らの特訓は、どれほど過酷なものだったのか。

残念過ぎた大リーグボール養成ギプス

「特訓」という言葉から思い出す作品といえば、やはり『巨人の星』(1966~71年)だろう。中でも「大リーグボール養成ギプス」のインパクトは絶大であった。

それは、主人公・星飛雄馬が幼いころから装着していたバネ製のギプス。マンガの絵を見ると、バネは両腕の肩と肘の間に2本ずつ、肘と手首の間に1本ずつ付いている。

かなり強力なバネのようで、飛雄馬は「この悪魔みたいなギプスは おれの腕力を十分の一以下にしちまうんだからな」と言っていた。実際、相当な力を入れないと、肘を伸ばすこともできないようだった。

飛雄馬はこれを服の下に装着したまま学校へ行き、友達と遊び、自宅に戻って食事をする。外すのは、寝るときと風呂に入るときだけだという。

発案者の父・一徹は「めしを食らいながらでも 強い筋肉にきたえられていく」と言っていた。大リーグ養成ギプスを着けていれば、日常生活の一挙手一投足が特訓になるということであろう。実際にはどれほどの効果が期待できるのだろうか。

筋肉についての解説書『からだ読本 筋肉』(湯浅景元/山海堂)には、こういう旨が書いてある。「筋力には、最大筋力、パワー、持久力の3要素がある。最大筋力を増強するには、少ない回数で最大筋力の65~100%の負荷をかける。パワーや持久力を身に付けるには、負荷を軽くして回数を増やす」。

ややっ。これは大リーグボール養成ギプスの特性&使い方と全然違うではないか。

前述の飛雄馬の発言「おれの腕力を十分の一以下にしちまう」から考えると、大リーグボール養成ギプスは、最大筋力の90%以上の負荷をかけているのだろう。それも一日中。

この方法では、筋力の3要素のどれもアップしないことになってしまう…。今、冷静に思えば、そもそも「やりすぎだぜ父ちゃん!」と言いたくなるギプスである。

だが、筆者も子供のころは「アレを着ければ強くなるかも!」と憧れた。友人の中には、エキスパンダーを改造して自作し、肉を挟んで激痛に飛び上がったやつもいたくらいだ。

少なくとも読者に「効果があるのでは!?」と思わせる説得力がある特訓であった。

丸太をぶつける特訓!

ところが、同じ野球マンガでも『アストロ球団』(1972~76年)になると、「効果があるのかどうか分からんが、とにかくすごい」という特訓になる。

アストロ球団は、ビクトリー球団と対戦することになった。ビクトリー球団は、勝敗よりも相手チームの選手を痛めつけることを重視するという、とんでもないチームである。対戦を前に、アストロ戦士の伊集院球三郎は考えた。

1)一番危険なのは、ピッチャー返しを食らう可能性のある投手・宇野球一だ
2)ピッチャー返しの豪速球が来たら、どうするか?
3)人体で急所の少ないのは背中だから、背中でボールを受けた方がいい
4)ならば、背中を鍛えよう

この理路整然とした考察のもとに実行されたのが、丸太特訓である。

上半身裸で立っている球一の背中めがけて、球三郎が巨大な丸太を打ちつける!球一は左右の木に手足を縛られているため動けない。ここへ、除夜の鐘を打つのと同じ要領で、丸太を背中にぶつけるのだ。

マンガのコマで計ると、丸太は直径60cm、長さ3mほどもある。生木の比重は0.8ほどだから、重量は推定680kg!

これを球三郎がいったん後ろへ振り、落差1mの振り子運動をさせたとすると、丸太は時速16kmで球一の背中にぶつかる計算になる。プロ野球のバッターの打球は時速170kmにも達するが、丸太が激突するエネルギーは、打球のエネルギーの42倍。

このヒトたち、本番の42倍もの負荷をかけて特訓したわけだ。では、この壮絶な特訓は、実を結んだのか?

ビクトリー球団のピッチャーは、奇怪な軌道を描く魔球を持っていた。それがバッターボックスに立った球一の背中を直撃する。球一は「ウギャアアア!」と叫んだものの、すぐに立ち上がって一塁へ。おお、特訓が実を結んでいる!

…が、これは喜んでいい場面なのか。デッドボールだったら、ポジションとは関係なく、誰もがぶつけられる可能性がある。球三郎は、丸太特訓をチームメイト全員に課すべきだったのではないだろうか…。

重力100倍での修業はケタ違い

鍛える、といえば『ドラゴンボール』(1984~95年)でも、さまざまな特訓が行われた。中でも筆者の記憶に残るのは「人工重力特訓」だ。これはもう、レベル違いに無謀!

孫悟空はナメック星へ旅立つに当たって、ブルマの父親のカプセル・コーポレーション社長に頼み、宇宙船に重力を100倍にする(1G→100G)装置を設置してもらった。ナメック星に着くまでの6日間に、特訓して強くなっておこうというのだ。

あまりにキビシイ特訓である。社長も心配して、こう言っていた。

「100Gといやあ なんだよ 60キロの体重だったら6000キロになっちまうんだよ! 6tだよ! 死ぬよ ふつうだったら」

これに悟空は平然と答える。「だいじょうぶ それくらいやんないと サイヤ人に勝てっこねえもん」。

100Gの恐ろしさは、あらゆるものの重さが100倍になることだけでない。

例えば、物体を同じ高さから落とすと、速度は10倍になり、落下にかかる時間は10分の1になる。何かにつまずいて転ぶ場合も同じである。悟空と同じ身長175cmの人が地球上で転ぶと、0.42秒後に時速15kmで地面にぶつかる。

ところが、100Gのもとでは、0.042秒後に時速150kmで激突!とっさに手を突くヒマもなく、顔面を強打するだろう。

また、強い重力のもとでは、血液が体の低いところに集まる。立っていると、脳の血液が足に流れ込んでしまい、常人なら10Gを超えると失神する。「ブラックアウト」と呼ばれる現象だ。

これは寝転んでも防げない。仰向けなら脳の前方がブラックアウトして、脳の後方には血液が集まり過ぎる。人間はその場合も失神し、こちらは「レッドアウト」と呼ばれる。慌ててゴロリとうつぶせになっても、脳の前後で、ブラックとレッドが入れ替わるだけ。どちらにしても、失神してしまう。

だが、さすがは悟空である。5日後に修業を終えたとき、100Gのもとで自由自在に動けるようになっていた。これができるということは、走るスピードも反応速度も10倍になり、筋力やジャンプ力に至っては100倍にアップしたと考えられる。信じられないほどすごいなあ、これ。

マンガやアニメの世界では、人々は特訓によって強くなる。その特訓は過剰であると同時に、アッと驚く創意工夫が凝らされていて、とても魅力的だった。

現実のトレーニング理論に沿っているかどうかはともかく、見る者は「ここまですごいことをしたのだから、きっと強くなっているに違いない」と期待を膨らませるのだ。それは、努力に対する人間の信頼と憧憬(しょうけい)である。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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