空想未来研究所

あの名作アニメで描かれた「スペースコロニー」の快適度

宇宙の居住空間で最もエネルギーを要するのは…「空気」を運ぶこと!?

空想世界の胸ときめく未来について、エネルギー文脈から分析するEMIRA連載。第2回のテーマは、あの名作で描かれた「宇宙コロニー」での暮らしについて考察する。

1000万人が暮らす宇宙コロニー

あの名作『機動戦士ガンダム』が大ヒットした要因の一つは、「コロニー落とし」という驚きの事件から始まったからではないだろうか。

宇宙世紀0079年、増えすぎた人口を宇宙コロニーに移民させるようになって半世紀。宇宙コロニーで生まれた人々も、増えていた。

それは、地球と月の周囲に浮かぶ円筒形の施設。回転によって重力を生み出し、内部には地球と同じような環境が作られている。一つのコロニーには、1000万人が暮らすという。

地球連邦に敵対するジオン公国は、それを地球に落としたのだ。それによって、オーストラリアの3分の1と、北アメリカの4分の1が壊滅した……。

今考えても、やはりインパクト大の発想である。

『ガンダム』が放送されたのは、1979年。そのころの世界人口は44億人だったが、現在は73億人と、1.7倍増しているのだ。宇宙コロニーの発想は、今こそ必要なのではないだろうか。

ここでは宇宙コロニーでの暮らしについて考えてみよう。

どこのコロニーが快適か?

EMIRA読者の皆さんは十分ご存じだろうが、スペースコロニーという構想は『ガンダム』以前からあった。

その誕生は1969年。アメリカのプリンストン大学教授ジェラルド・オニールが、彼の学生たちと共に考えた。その一つ「島3号」の概要は、次の通りだ。

・直径6.4km、長さ32kmの円筒を、地球と月の周りにある「ラグランジュ点」に浮かべる。
・これを1分50秒で1回転させ、地上の重力と同じ強さの遠心力を生み出す。
・側面は6つの区画に分かれ、1つおきの3区画は窓になっている。
・窓の外の巨大な反射鏡で太陽光を取り入れ、反射鏡の角度を変えることで、昼夜や季節を作り出す。

『機動戦士ガンダム大事典 アニメック別冊』(ラ・ポート)によれば、『ガンダム』のコロニーは、この島3号をベースにしているという。

ただし、ディテールは違っていて、たとえば地球連邦のコロニーは「直径6.5㎞、長さ30㎞以上、2分で1回転し、遠心力は地上の重力の90%」だという。

そこで本稿では、以下『ガンダム』のコロニーを例に、そこでの暮らしを考えてみたい。

『ガンダム』のコロニーも、ラグランジュ点にあった。

ラグランジュ点とは「地球の重力」「月の重力」「地球を周回することで発生する遠心力」の3つが釣り合う点で、【下図】のように5カ所ある。

ラグランジュ点とは、18世紀後半に数学者のオイラーとラグランジュ(天文学者でもあった)が発見したもので、「地球の重力、月の重力、地球を公転する運動で発生する遠心力が釣り合う点」のこと。図のように5つあり、そこにある物体は、ロケット噴射などをしなくても、地球や月と同じ位置関係を保っていられる


地球と月の間にL1、月の向こう側にL2、地球から見て月の反対側にL3。

また、地球と月を頂点とする正三角形は、月の軌道面内に2つ描くことができるが、3つ目の頂点が、北極から見て左にあるのがL4、右にあるのがL5だ。

『ガンダム』では、30~40のコロニーが集まって「サイド」を構成し、L1~3に1つずつ、L4とL5には2つずつ、合計7つのサイドがある。主人公のアムロはL3にあるサイド7で暮らし、ジオン公国はL2のサイド3にあった。

これだけ場所が違うと、窓から見える景色も大きく違うだろう。

L1からは、常に地球と月が反対側に見える。

形も正反対で、月が新月なら地球は満地球、月が右半分の半月なら地球は左半分の半地球、月が満月なら地球は新地球(見えない)だ。

しかも月に近いから、月は地球から見るときの6.5倍の大きさに見える。
地球はもともと大きいので、地球から見る月の4.3倍に見える。

これが29日周期で形を変えながら、2分で一周するコロニーの回転によって、月と地球が交互に1分に1回ずつ、スポスポ昇っては沈むわけである。それはそれで絶景かもしれないが、落ち着かないこと甚だしい。

L2からは、月は地球から見る月の5.9倍の大きさに見える。

この巨大な月に遮られて、母なる地球は見えない!

こ、これは寂しいかも!

ジオン公国はここにあったわけだが、これでは反乱も起こしたくなるかもしれません。

コロニーでの暮らしとは?

宇宙コロニーの内部での生活は、どういう感じなのだろうか。

そこでは、遠心力が重力の役割を果たすから、人々は円筒の側面で暮らすことになる。

直径6.5km、長さ30kmで、半分が窓になっているところから計算すると、居住区域の面積は300平方キロメートル。青森県八戸市や、福島県白河市と同じぐらい。

結構な広さだが、ここに1000万人が暮らすとなると、人口密度は1㎢あたり3万3000人だ。

日本の市区町村でいちばん過密な東京都豊島区が1平方キロメートルあたり2万2000人だから、その1.5倍。

暮らせないことはないだろうが、相当に窮屈だと思う。

それ以上に大変なのが、生活の場が円筒の側面の内側であることだ。

当然「地平線」というものはない。

コロニーの直径は6.5kmだから、見上げれば居住区が広がっている様子がよく見えるだろう。

スペースコロニーの断面図。高速で円筒が回転することで「疑似重力」が発生し、筒の内側に建てられた建造物などに住むことができる


遠くなるほど地面がせり上がって、4分の1周したところの地面は、自分から見て垂直!さらに遠くに住む人々は、ほとんど逆さで生活しているように見える!慣れればどうってことないかもしれないが、酔ってしまいそうだ。

さらに、遠心力が重力の役割を果たしていることも、影響は大きい。

直径6.5kmの円筒が2分で一周するとき、側面は時速600kmで回っている。これによって、0.9Gの遠心力が生まれているわけだ。

そんな状況下、回転と同じ方向に時速100kmで車を飛ばすと、遠心力が36%増大!逆向きに時速100kmを出すと30%減少!実際には重力が増えたり減ったりするように感じられるはずで、これまた酔いそうだ。

実際に造れるのだろうか?

そもそも、こうしたコロニーを造るには、どれほどの資材と技術が必要なのだろう?

最大の問題は、「コロニーに空気があること」だろう。

その空気の圧力で、コロニーはパンパンに膨らんでいるから、壁にはそれに耐えるだけの強度が要求される。

軽くて丈夫なチタン合金でできていたとしても、壁に必要な厚さは23cm。全重量は8億t。現在、世界のチタン生産量は600万tぐらいだから、その130年分である。

それ以前に、空気そのものが問題だ。コロニー一つに入っている空気の重さを計算すると130億t。コロニー本体より重い。

『ガンダム』の劇中、地球から見て月と反対側のL3には「ルナツー」という小惑星があり、コロニーを造る資材はそこから運んでいると説明されていた。

ラグランジュ点からラグランジュ点へ荷物を運ぶのは、地上から運ぶよりはるかに少ないエネルギーで済むので、素晴らしいアイデアだ。しかし、小惑星に空気はないだろうから、地上から液体空気などにして運ぶしかないだろう。

そんなふうに思うと、宇宙コロニーを実現するのは、そう簡単なことではないのだろう。

だが、人口が増え続けた場合、いつか宇宙に移住するという選択肢は十分にあり得るのではないだろうか。その環境が地球と違うがゆえに、さまざまな問題が生じるだろうし、また新たな発見もあるだろう。

『機動戦士ガンダム』とは、宇宙での戦いを描くと同時に、その背景にある「宇宙で暮らす未来」を身近に感じさせてくれた作品である。

人間の想像力は、本当にスバラシイ!

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