大人の未来見学

臨場感がケタ違い!匂いの出る次世代VRデバイスとは?

話題のVAQSO VRを作った開発者に会いに行ってみた

近年多彩なモデルが発売され、今後の広がりに期待が高まるVRの世界。触感と連動するデバイスなどさまざまな周辺機器もリリースされている中、異色ともいえる“匂い”が出るデバイスを生み出した開発者を訪ねた。

新技術、誕生の地はやはりアキバ

取材班が訪れたのは東京・秋葉原にあるDMM.make AKIBA。

JR秋葉原駅から徒歩5分ほどのビル内にフロアを構えるDMM.make AKIBA

ここは、10階はハードウェア開発に必要な各種工作機械がそろうStudioフロア、12階はシェアオフィススペースが広がるBaceフロアがある総合的な“モノづくり”施設だ。

基盤実装機からプロ仕様の刺繍ミシンまで、多くの機材や検査機器が備わっており、設備をそろえるだけで云千万円ほどかかっているのだとか。

工作機械が配された作業部屋。取材時にも数十人が作業していた

各作業ルームをのぞいてみると、3Dプリンターで作ったフィギュアや、何かの基盤、アイドルが着るのであろうフリフリ衣装といった制作中のものがずらり。

ちなみに、会員登録(有料)すれば使用機材の制約はあるが、誰でも使うことができるそう。さて、日夜新しい“何か”が生まれているこの場所で、目指したのは12階のオフィススペース。会議室に向かうと…

出迎えてくれたのが、VAQSO(バクソー)のCEOである川口健太郎氏だ。

この人こそ、VRの世界に“匂い”を取り入れたアイデアマンである。

川口氏は、そもそも“匂いマーケティング”をテーマにしたプロダクトを開発、販売する会社を経営している。しかし、シリコンバレーやサンフランシスコといった世界の本場で「ザ・スタートアップをやりたい」と思い立ち、同社を起業。社名のVAQSOは「爆走」に由来しており、個人的なチャレンジプロジェクトでもあるそう。

早速、目当てのデバイスを見せてもらった。

パッと見では何の変哲もない黒い物体。現在は市販前のプレ機のver.2.0の段階だそう。

電子機器から“匂いが出る”とは、いったいどういうことなのだろうか。

嗅覚を刺激して臨場感アップ

こちらの製品、正式名称は「VAQSO VR(バクソー ブイアール)」といい、サイズは縦35×横120×高さ15mm、重さは約50gと、小型かつ軽量なのが特徴だ。

使用時は、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の下部に内臓したマグネットで鼻の前に来るように装着。HMDとはBluetoothでリンクし、VR映像と連動して匂いが出る仕組みになっている。

小型で軽量と言われても、比較対象がないだけにピンと来ないかもしれない。

しかし、世界を見るとヨーロッパなどのベンチャー企業2、3社が、類似のデバイスを開発しているが、それらは防ガスマスクのような顔全面を覆うほどのサイズ感。世界的に見ても圧倒的に「小さくて軽い」と言い切れるのだ。

小型化できた理由は一つだと、川口氏は言う。

「普通の製品開発とは違い、匂いの特性をマスターしていないとこの大きさにはできません。一番に押さえなければならないことは、匂いを出したい範囲を決めること。それによって構造が決まるんです」

VAQSO以前に20製品ほど匂いに関わるプロダクトを作ってきたことでノウハウが蓄積され、初期に制作したプロトタイプからサイズはほぼ変わらないそうだ。

では、どのような構造になっているのだろうか。

「中に入っている主だったものは、匂いカートリッジ、射出システム、それと基盤、バッテリーです。匂いの成分は、筐体側面にある小さな穴から射出しています」

詳細な構造は、現在特許出願中のため公開できないが、造りとしてはかなりシンプルにできているらしい。

手前の3つの溝がカードリッジ部。それぞれの中央に匂いを射出する小さな穴がある

VAQSO VRは、なるべく小さく、匂いを確実に切り替わらせる、ことをテーマに据え、それに合わせてカートリッジなどを最適化。射出部の穴を小さくして匂いの指向性を高めたり、匂い漏れを防ぐために密閉方法を試行したりと、HMDにつなげたときの使用感を重視している。

ver.2.0と先述したが、実際に市販されるのは4.0で計画しているそう。

ver.2.0では匂い漏れを解消、開発中のver.3.0ではカードリッジの差し替えをできるようにし、ver.4.0で量産化できる形に。市販品ではカートリッジを10枚入れられるように拡張されるそうだ。

ちょっと恥ずかしくなるいい匂い

構造などは理解したが、果たして本当にVR映像に合わせて匂いが出るものなのだろうか。現在、展示会などで使っているデモ版を見せてもらった。

VAQSO VRを設定、装着したHMDを頭に着け、手にはコントローラーを持つ。匂いデバイスが付いているだけで、他はいわゆる“VR体験”をするときと同じ状況になった。

HMDの下部に装着。ちょうど鼻の手前に来る形になっている

視界には、夕暮れどきの教室が広がっている。

「下の方を見てみてください」と川口氏。

HMDで見えているVR画面。夕暮れどきの教室の机の上にコーヒーとチョコレートが置かれている

コーヒーとチョコレートが置かれている。

「手を近づけて好きな方をつかんでみてください」

コントローラーを持った手を近づけて握ると、コーヒーが持ち上げられる。

「では、顔に近づけて、匂いをかいでみてください」

手を顔に近づけるとコーヒーカップが顔の近くに

コーヒーの匂いがする!

入れたてのあの香りが、鼻腔をくすぐる。顔から離すと残り香と共に匂いが消えていき、また近づけると匂いがする。

チョコレートも試してみると、同じように匂いが。

「チョコレートはコンビニで買えるようなチープな匂いにしています(笑)。ゴディバのような高級感を出すこともできますよ」

交互にかぐと、より匂いの変化が顕著になる。筐体の穴から鼻の周囲に向かってビームのような形で匂いが射出され、広がる範囲を限定することで拡散を軽減。

ゲームに使うことを前提にしているため、匂いが瞬時に切り替わるということこそが、VR世界への没入感を高める。粒子である香りの特性を生かした性能こそが革新的であり、先端を行くVAQSO VRのストロングポイントだ。

コーヒーの香りに没入していると、「では、両手のものを置いて、左を見てください」と川口氏。

顔を向けるとそこには…

女子。

「ハグするくらいに近づいてみてください」と言われ、照れながらも距離を縮める。

その昔、体育の授業終わりに教室でかいだことのある、あの制汗スプレーの匂いがした。

視界に映る女子のビジュアルとさわやかな香り。久しく感じたことのなかった胸の高鳴りに気づいた瞬間、取材班はある種の危機感を抱いて、彼女から顔をそむけていた。

もうすぐゲームの未来がやってくる

HMDを外すと、川口氏はにこやかに笑っていた。

これらの香りのほんとんどは、ほぼ独学で川口氏本人が作っているそう。幼少期に通っていたアトリエで絵具を混ぜて色を作っていた経験が、香りの調合にも生きているのだという。

「フライドチキンのサンプルもありますよ。ちょっとファミチキ風ですが(笑)」と現実世界に存在するものであれば、だいたいのものは作れるそうだ。

他にも土を掘り起こしたときのにおいやパンストのにおいなど、約10年で調合した香りは300~400種類。

左からパンスト、コーヒー、土の香り。これらを混ぜ合わせることで、さらに新しい匂いを作ることもできる

VAQSO VRを市販化する際には、ゲームのジャンルごとに“香りのカードリッジ”をパッケージ化し、それをユーザーが選ぶという世界を構想している。

例えばガンアクションなら、火薬、土、森、家の中といったゲームの中でひんぱんに登場する香りのカードリッジセットを、ソフトと一緒に買うイメージだ。すでにゲームソフトの販売店とも話を進めているそうで、ソフト購入時の新しい楽しみになるかもしれない。

これを機に、自宅に届いたチラシを開くと焼き立てのピザの匂いがしたり、駅にあるポスターから温泉の香りがしたり、煙の臭いを道しるべに避難訓練をしたり、匂いの活用が広範囲に広まる可能性もある。

VAQSO VRは、2018年春に市販化を予定。ゲームを起点に、日本が香り豊かな“花の都”と呼ばれる日が来ることに期待したい。

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