エネルキーワード

世界最大級の天然ガス産出国・アメリカはどこへ行く?

エネルキーワード第1回「シェールガス」

ビジネスマンが押さえておきたいエネルギーにまつわるキーワードを、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けするEMIRAの新連載「エネルキーワード」。第1回のお題は、「シェールガス(Shale Gas)」。そもそもシェールガスとは何か。トランプ大統領の下で、このシェールガスはどう扱われ、そして日本にどう影響するのかを探ります。

シェールガスとは?

「シェールガス」という言葉をお聞きになったことがある方は多いのではないでしょうか?ではそれが、どのようなガスで、どのような地層から採れるのかまで知っている方は少ないかもしれません。

シェールガスとは、頁岩(けつがん)と呼ばれる堆積岩の層から採取される天然ガスのことを言います。元は太古の海にいたプランクトンや藻などであり、それらが堆積したものが数千万年から数億年という長い時間をかけて変化しガスになったもので、原油やLNG(Liquefied Natural Gas、液化天然ガス)などと同じく「化石燃料」の一つです。

そのシェールガスは、2000m超の深い地層に存在しており、以前は掘り出す技術が確立しておらず、コスト的に見合いませんでした。しかし、2006年以降の技術革新により安価に採掘できるようになったのです。アメリカにはたくさんのシェールガスが眠っています。なにしろ国内でガスが採れるわけですから、アメリカの天然ガス輸入量は劇的に減少するのも当然。人々はこれを「シェール革命」ともてはやしました。

ではシェールガスは主にどの国に眠っているのでしょうか?技術的に回収可能な埋蔵量で見てみると、1位が中国、2位がアルゼンチン、3位がアルジェリア、アメリカは4位となっています(下図:注1)。

出展:独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 調査部 伊原賢 「世界のシェールガス・オイルの資源量評価を考察する」(2013年8月17日)より

(注1)シェールガスの技術的回収可能量トップ10

出典:EIA(U.S. Energy Information Administration) World Shale Resource Assessments

「シェール革命」のインパクト

その「シェール革命」のおかげでアメリカは今や世界最大の天然ガス生産国です。日本から見ると何ともうらやましい限り。2020年までに天然ガスの純輸出国になるとの予想もあるほどです。それ以外にも「シェール革命」はアメリカのエネルギー動向にさまざまな変化をもたらしました。列挙しますと

① 原油生産の増加
② 石炭輸出の増加
③ 原子力発電の伸びの鈍化

まず①の原油生産の増加ですが、実はアメリカはもともと産油国でもあります。

シェール層からはガスと同時にオイルも採れることから、原油産出量は増え続けており、なんと2013年には1993年以降初めて原油生産量が輸入量を上回りました。

②の石炭輸出の増加ですが、シェールガスの増産により天然ガスの価格は下落し、アメリカの火力発電部門は、石炭から天然ガスにシフトしました。その結果、アメリカからヨーロッパや中国向けの石炭輸出が急拡大しています。

③ の原子力発電も影響を受けています。

もともと2000年初頭は原子力発電所新設に前向きだったアメリカですが、2008年のリーマンショックや「シェール革命」のあおりを受け、原子力発電のコスト優位性が失われ、廃炉が続いています。老朽化した原子力発電所が多いため、2030年ごろからさらに多くの原子力発電所が廃炉となる見通しです(参考:下図)。

米国の電源構成の変化と見通し

出典:EIA統計 並びに 経済産業省資源エネルギー庁「平成26年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2015) より

シェールガスバブルの破綻

このようにアメリカのみならず世界のエネルギー動向に大きな影響を与えた「シェール革命」ですが、その先行きに暗雲が漂い始めました。一つは環境負荷の問題です。ざっと挙げると以下のような影響が懸念されています。

① 掘削に用いられる化学物質による地下水の汚染
② 採掘現場から出るメタンガスによる人体への影響・温暖化
③ 採掘に大量の水を使うことによる水源への影響
④ 排水の地下圧入による地震発生の可能性

こうした問題に対し、米環境保護庁(EPA)は2016年にメタンガスなど大気汚染物質の排出基準を規制する方針を打ち出しました。それはガス製造会社にとってコスト増を意味し、シェールガスの価格優位性を削ぐことにつながります。

2つ目は、原油価格の下落です。2014年6月以降の世界的な原油価格の下落によって、ここでもシェールガスの価格優位性が失われ始めたのです(下図)。

国際原油価格(WTI)の推移(1984 ~ 2016年)

出典:経済産業省 資源エネルギー庁 「平成27年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2016)より


こうしたことから、大中小入り乱れてガス開発に参入した業者で体力のないところから倒産し始めました。原油安で収益性が悪化、資金繰りに行き詰まったのです。米天然ガス2位のチェサピーク・エナジーの経営も悪化しており、市場が注視している状況です。

その余波は将来性を見込んで巨額の投資をした日本の商社にも広がりました。住友商事が2015年3月期にシェール開発で3100億円の減損損失を計上し、16年ぶりに最終赤字に転落したのは皆さんも記憶に新しいでしょう。他の商社も大なり小なり減損を計上しています。

では、「シェール革命」は失敗に終わったのでしょうか?

そう判断するにはちょっと早計かもしれません。次はトランプ新政権のエネルギー政策を見てみましょう。

トランプ氏はシェール重視

トランプ新大統領の化石燃料へのシフトは明白です。

オバマ政権下で厳しくなった環境規制を緩和する姿勢を打ち出しています。なにしろ、米環境保護庁長官に起用されたのは、オクラホマ州司法長官スコット・プルイット氏という人物。この人こそ、EPAの石油・ガス開発をめぐる環境規制に異議を唱えてきた人物なのです。

さらに、国務長官には米石油メジャー最大手エクソンモービルのレックス・ティラーソンCEOを指名しました。トランプさんは実に分かりやすいですね(笑)。就任して間もないのに、シェール開発を軸にして国内の原油生産を増やす政策に邁進しています。

1月24日には、オバマ政権下凍結されていた、カナダからアメリカに原油を輸送する「キーストーンXL・パイプライン」と米ノースダコタ州に敷設予定の「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設を推進する大統領令に署名しました。

トランプ氏はシェールガス・オイルの採掘規制撤廃や、連邦政府保有地でのエネルギー生産の暫定停止解除も行うでしょう。シェール産業が息を吹き返すかもしれません。こうしたアメリカのエネルギー政策の転換は、日本経済に大きな影響を及ぼします。

日本にチャンス

今、日本は電力をほとんど、そう、ほぼ9割、火力発電でまかなっているのは皆さんご存じですよね?残りは水力と再生可能エネルギーです。

その理由は、原子力発電所がほとんど止まっているからですね。東日本大震災後、火力発電所に頼らざるを得ない日本は世界中から原油やLNGを輸入しています。そのコストは膨大で、LNGは年間約4兆5000億円、原油は同約7兆4000億円を輸入しています(2015年財務省貿易統計より)。

ひたすら化石燃料を買い続けねばならない状況に陥っている日本は国際的に見て、「高値づかみ」させられているのです。燃料費が上がれば私たちの電気料金にも反映されますし、もちろん企業の足も引っ張ります。従って、燃料調達コストの低減がわが国にとって至上命題なのです。

そうした中、年が明けて間もない1月6日、わが国に初めてアメリカからシェールガスから作ったLNGが輸入されました。輸入したのは東京電力ホールディングスと中部電力の火力発電・燃料事業統合会社であるJERA(ジェラ)です。

年間3000万~4500万t、世界最大規模のLNG調達量を誇るJERAが今後より安いシェールガスLNGを調達できれば、他の国との価格交渉力が増してくるはずです。トランプ氏のシェールガス回帰は日本にとって悪い話ではありません。

燃料を海外に頼らざるを得ない日本。シェールガス含め、燃料調達コストをいかに下げるかが、日本経済成長のカギを握っていると言っても過言ではないでしょう。

化石燃料に頼らざるを得ない日本としては、アメリカからの輸入も検討しつつ、エネルギー源の入手経路を多様化する努力は怠ることができません。

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