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CCS/CCUSの実力とは?CO2削減の切り札、原油回収にも

エネルキーワード 第25回「CCS/CCUS」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第25回は「CCS/CCUS」。CO2を回収して地中に封じ込める「CCS」、その分離・貯留したCO2を石油増産に役立てようという「CCUS」。果たしてCO2削減の切り札となりうるのか、考えてみました。

TOP写真:北海道・苫小牧市のCCS実証実験

出典:経済産業省 資源エネルギー庁

私が「CCS:Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留)」という技術について耳にしたのはもう10年近く前のことです。当時は世間的にほとんど関心を集めていませんでしたが、最近になってようやく新聞などでこの名前を目にすることが増えてきました。

CCSとは

地球温暖化防止のためにはCO2の削減が必要ですが、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料を使う火力発電は大量のCO2を排出します。そのCO2を削減する手段としてCCSが長年研究されてきました。
 
CCSとは、工場や発電所から排出された二酸化炭素(CO2)を回収して地中に封じ込め(貯留)てしまおうという画期的な技術です(図1)。

(図1)CCSの流れ

出典:経済産業省 資源エネルギー庁

CCSの実力

では、CCSはどのくらいCO2削減に効果があるのでしょうか?IEA(国際エネルギー機関)は、2050年時点までに求められる温室効果ガス削減量の13%(2050年時点で年間約60億トン)を CCSにより達成することが必要だとしています(図2)。
 
 60億トンと聞いてもピンとこないので、具体的に換算してみると、杉の木4260億本が1年間に吸収するCO2量と同じだそうです。また、人間が1年間に排出するCO2に換算すると、26億人分に相当するとのこと(※注1)、かなりの量ですね。そして、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、CCSの導入なしで2100年に温度上昇を2℃以内に抑えることは困難であるとしています。
 
こう聞くと、CCSは温暖化防止の切り札とも言えそうです。なぜなら全世界のCCSの技術ポテンシャルは約2兆トン、現在の排出量の63年分に相当するというのです(※注2)。 

(※注1)CO2換算図による(出典)C-conet中部カーボン・オフセット推進ネットワーク
(※注2)IPCC「CCSに関する特別報告書」による

(図2)気候変動対策とCCS

出典:経済産業省 我が国のCCS政策について 平成28年11月24日

CCUSとは

さて、読者の皆さんはそんなにCO2を地中に埋めてどうするの?と疑問に思われるかもしれません。そのCO2を石油増産に役立てようという試みがなされているのです。それが、CCUSと呼ばれる技術です。

CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は分離・貯留したCO2を利用しようというもので「二酸化炭素回収・有効利用・貯留」と訳されます。CO2を古い油田に注入することで、これまでの技術では回収不可能だった原油をCO2の圧力で押し出す技術です。CO2も削減できるし、原油回収にも役立つ、ということでまさに一石二鳥ですね。
 
こうした、自噴をしなくなったり、油層の含水率が上がった油田の残存原油を回収するための方法で、「増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)」と呼ばれます。EORは探鉱リスクが少ないため、既存の油田にすでに使われるようになってきています。

日本の実証実験

日本では2012年からすでに北海道・苫小牧でCCSの大規模な実証実験が行われています(写真1)。2016年4月からは、年間10万トン以上のCO2を、苫小牧港の湾岸区域内の海底下約1,000mと約3,000mの2層の貯留層のうち、1層への圧入を開始しています。今後、貯留されたCO2の漏れはないか、海水、海洋生物などに影響がないか、などのモニタリングを継続して行う予定です。

(写真1)苫小牧CCS実証試験センター

出典:日本CCS調査株式会社

貯留ではないですが、最近では去年12月に三菱重工業が、日本液炭株式会社の水島工場(岡山県倉敷市)でCO2回収装置を完成させました(写真2)。同工場の新設液化炭酸ガス製造設備を構成し、CO2回収能力は283トン/日。三菱ケミカル株式会社の水島事業所で発生するCO2を回収し、液化炭酸ガスを製造するもので、こうしたCO2回収技術は今後ますます企業間で普及していくでしょう。

(写真2)日本液炭 水島工場でCO2回収装置

出典:三菱重工業

CCS/CCUSの課題

可能性の大きいCCUSですが、無論課題もあります。それが、CO2を他の気体から分離させて回収するときにかかるコストです。

分離・回収は、CO2を吸収する液体を使って化学的に分離する方法、特殊な膜を使ってCO2だけを分離させる方法などがあります。どの方法が一番コストがかからないか、研究開発が進められています。

経済産業省によると、固体吸収材を使って、これまでの半分以下のコストでCO2を分離・回収することを目指すべく、関西電力の舞鶴発電所で実証化試験を行うことが決まっているそうです(写真2/図3)。実現すれば商業化に向け大きく前進しそうです。

(写真2)関西電力舞鶴発電所

出典:関西電力

(図3)「省エネルギー型二酸化炭素分離・回収システム」の実用化試験設備(大きさ:縦 約23m×横 約53m×高さ 約40m)

出典:経済産業省

本事業に係るRITE、川崎重工(株)、関西電力(株)のプレスリリース

RITE

川崎重工(株)

関西電力(株)

政府は2020年ごろの商用化を目指していますが、鍵となるのは技術革新でしょう。経済産業省のロードマップによりますと、2030年代にCO2の分離コストを1000円台[円/t-CO2]と、現在の約4分の1まで下げようとしています(図4.5)。

(図4)2030年頃までに技術確立が見込まれるCO2回収関連技術

出典:経産省資源エネルギー庁「CO2回収、利用に関する今後の技術開発の課題と方向性」平成27年6月

(図5)次世代技術によるCO2回収コスト低減の見通し

出典:経産省資源エネルギー庁「CO2回収、利用に関する今後の技術開発の課題と方向性」平成27年6月

世界中でCCS・CCUSの技術を普及させることは地球温暖化防止の観点から極めて重要です。特に大量のCO2を排出しているインドや中国などの新興国に日本の技術を輸出することは成長戦略としても注目です。今後の技術開発のスピードアップが期待されます。

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