エネルキーワード

レアメタルが海底から!海底熱水鉱床とは

エネルキーワード 第33回「海底熱水鉱床」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第33回は「海底熱水鉱床」。資源の少ない日本が、海底から鉱石を採取しようと世界に先駆けて実験をしている中、今後どれだけ期待が持てるものなのか考えてみましょう。

TOP写真:海底熱水鉱床

出典:JOGMEC

海底に眠る鉱物資源を収集する

「海の中には宝物が埋まっている」

そんな話をよく聞きます。代表例が「メタンハイドレート」でしょう。筆者も本コラムに「夢の国産天然ガス?メタンハイドレートの可能性」と題して寄稿していますが、エネルギーに少しでも関心がある人だったら、この名前を一度は聞いたことがあるはずです。

「メタンハイドレート」とは、メタン(天然ガスの主成分)と水が低温かつ高圧の状態で結晶化した物質で、新たな国産エネルギー源として期待を集めているものです。

その「メタンハイドレート」はまだ実用化されていませんが、そうこうしているうちに、今度は日本海底に眠る新たな鉱物資源に注目が集まっています。それが「海底熱水鉱床」と呼ばれるものです。

鉱物資源の多くは鉱山で採掘されますが、実は海域にも存在しています。世界第6位の領海・排他的経済水域(EEZ)を持つ日本の新たな国産資源として「海底熱水鉱床」に期待が高まっているのです。

その分布は、下図のように伊豆諸島と小笠原諸島の近く、そして東シナ海・与那国島までの海底まで広がっていることが分かっています。

日本の排他的経済水域と海底資源の分布

出典:公共財団法人日本離島センター「日本の島を学ぶ しまなび」

海底熱水鉱床とは何か

海底に浸透した海水は、海底深部の火山活動により熱せられます。その高温(250~300℃)の熱水が海底から噴き出した際、海水に含まれる金属が冷却され、沈殿することで鉱床が形成されます。その「海底熱水鉱床」には銅、鉛、亜鉛などのベースメタル、金、銀などの貴金属、ゲルマニウムやカドミウムなどのレアメタルが含まれていることがあります。

高濃度の金を含む熱水鉱床岩石サンプル

出典:海上保安庁

海底熱水鉱床

出典:文部科学省(提供:海洋研究開発機構)

私たちの身近にある携帯電話やテレビ、パソコンなどにはこれらの金属が使われています。しかし、鉱物資源のうち国内で自給できるのは硫黄だけで、それ以外の鉱物資源は全て輸入に頼っているのが現状です。

輸入に頼る鉱物資源

出典:経済産業省資源エネルギー庁

国内資源に乏しい日本にとって新たな供給源となり得る海洋資源の開発は、「海洋基本法」(2007年7月施行)及び「海洋基本計画」(2008年3月)、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(2009年3月)に従い、計画的に進めてきました。

しかし、この新たな資源を開発するためには、採鉱手法や経済性に伴うリスクについても考慮しなければいけません。

実際の採掘に世界初成功!「海底熱水鉱床プロジェクト」

そもそも、鉱物資源開発には大きなリスクが伴います。まず、商業的に十分な量の鉱床を発見する確率が非常に低いことと、商業ベースに乗るまでに巨額の資金と10~20年ほどの期間を要することです。加えて鉱物資源のある場所はカントリーリスク(国や地域の政治・経済状況が、資産価値を変化させる可能性)のある国であることが多く、このため鉱山開発ができるのは資金力や体力のある一部の企業に限られています。

そうした中、経済産業省と独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2017年(平成29年)8月中旬から9月下旬にかけて、水深約1600mの海底で掘削作業を世界で初めて成功しました。

集積した海底熱水鉱床の鉱石を直径約3cmに砕き、水中ポンプを用いて海水と共に連続的に洋上へと揚げる「採鉱・揚鉱パイロット試験」を沖縄近海で実施し、成功したのです。重い鉱石を海水と共に目詰まりすることなく吸い上げるのが課題で、期間中は数十分間の連続採掘を16回行い、約16.4tを引き揚げました。

引き揚げた鉱石にどんな金属がどれくらい含まれているか分からないので、その価値を正確にはかることはできませんが、金を例にとってみましょう。日本一の金山「菱刈鉱山」(操業:住友金属鉱山)の金鉱石は1tあたり平均約30~40gの金を含んでいるそうです。金額換算で約15万~20万円(1g=4,876円、2018年7月4日小売価格)。仮にこの16.4tが全て同鉱山の金鉱石だとすると、約240~330万円となります。レアメタルは金よりはるかに希少なことから、海底熱水鉱床の鉱石の価値はかなり高くなることが予想されます。

菱刈鉱山 全景

出典:住友金属鉱山株式会社

パイロット試験時の海上の様子

出典:経済産業省

パイロット試験の概念図

出典:JOGMEC

海中に投入される集鉱試験機

出典:経済産業省

洋上に上がった鉱石

出典:経済産業省

また、平成28年度の諸外国における鉱物資源開発に関する調査報告書によると、海底熱水鉱床についてはロシア、フランス、中国、韓国、インド及びドイツが国際海底機構から公海域での探査権を取得しています。世界的にも権益確保の動きが活発化しているようです。

今後、日本ではこの試験の成果に加え、資源量の評価や環境への影響調査などを踏まえ、平成30年度に経済性評価を行うことになっています。しかし、事はそう簡単ではありません。

海底熱水鉱床に立ちはだかる課題

海底に資源が眠っているとぬか喜びするのはまだ早いようです。「メタンハイドレート」の商業化も同じですが、海底にあるものを洋上に引き揚げ、さらに地上の設備に持ってくるのは容易ではありません。

「海底熱水鉱床」の場合、水深700~3000mという深海から鉱石を持ってこなければなりません。鉱物によってはより深い海底に存在していることもあり、そのコストは想像もつきません。実際に商業化するにはまだ数十年かかるとみられています。

しかし、資源に乏しいわが国としては国産資源の開発を止めるわけにはいきません。今後も官民挙げての努力が続くことになるでしょう。EMIRAは引き続きその進捗(しんちょく)を見守りたいと思います。

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