理系女子の履歴書

海洋環境問題に対策を!サンゴ礁生態系の普遍的なモデルをつくりたい

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 地球環境共創コース 修士課程2年中山美織【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第4回は、東京工業大学の修士課程2年の中山美織さん。サンゴ礁生物群集をテーマに海洋環境や沿岸生態系について研究する彼女が描く未来とは。

睡眠3時間の勉強漬けだった大学生時代

クールな表情が印象的な中山美織さんは、早稲田大学 先進理工学部 化学・生命化学科を経て、国内屈指の理工系総合大学である東京工業大学の修士課程に通う大学院生。こう見えて、研究室にこもって研究に没頭する根っからの理系女子だ。

将来は研究職を目指す彼女だが、そもそも理系の道に進んだのは、「割と適当な理由だったと思います」と高校時代を振り返る。

「文系に行きそうな子たちとは仲良くなれなさそうだったし、集団に属することが苦手なタイプなので、マイノリティでいこうとした結果、理系を選んだのかもしれません。家族がどちらかといえば理系人間ばかりで、私自身も文系科目が苦手でしたし。でも、結果的に幅広い道に進むことができるようになりました。可能性をつぶさない選択でもあったんです」

そんな高校時代に抱いた夢は「化粧品の研究者」。中山さん自身、化粧はあまり好きではなかったというが、「化粧が嫌いなら、素からきれいになればいいじゃないか」と考え、化粧水や美容液などの基礎化粧品を作る研究者を目指したのだとか。

PCが並ぶ研究室。自分のデスクに向かって黙々と作業をする中山さん

その後は早稲田大学 先進理工学部 化学・生命化学科に進学。学生時代のほとんどを勉強に費やし、テストや課題、実験に追われる日々。平日は、睡眠を3時間しか取れないこともざらだったという。そこまでモチベーションを高く保てていたのには、彼女の負けず嫌いな一面が影響しているようだ。

「早稲田大学は東京大学や国立の医学部の受験に失敗して入ってくる人も多くて。周りは頭の回転も速いし、要領のいい人たちばかりだったんです。そんな環境でも、とにかく負けたくなかったので、ひたすら勉強していましたね。体を壊して、年に一回は病院で点滴を受けていました(笑)」

海が抱える環境問題解決につなげる研究

早稲田大学では無機化学を専攻し、主に金属錯体(さくたい)と呼ばれる「金属と非金属の原子が結合した構造を持つ化合物」を研究テーマとしていた中山さん。しかし、東京工業大学の修士課程に進学した現在では、全く異なる分野を研究している。扱うのは環境と生物。主に沿岸部の生態系についてだ。

「私が所属する研究室では、主にサンゴ礁域の沿岸生態系の保全のために、『人間と生物が共存できる持続可能なシステムを提案する』ということを大きなテーマとしています。人によっていろいろな手法で研究を進めていますが、中でも私が主としているのがサンゴ礁生物群集です」

サンゴ礁生物群集は、サンゴや海草、藻類などで形成される。その中の海草がどういう自然環境下で生息するのかを研究し、生態系モデルを開発するのが中山さんの現在の研究内容だ。

採取した海水などのサンプルは、液体の成分検出ができるオートアナライザー(流路型自動化学分析装置)を使って分析していく

「私の研究の最終的な目標は、近年の地球の気候変動に対して、生物がどういう反応をして、どう変化し、適応していくのか、ということを予測していくことです。生物にとってベストな環境が解明されていれば、サンゴの大量死など海が抱える環境問題に対する緩和策や対抗策を打ち出せるかもしれない。そのために、どのような条件下でそれらの生物が生息しているのかを調べているんです」

これまでに行った修士論文研究の発表資料。地球環境共創コースの学生の半分以上が留学生たのめ、授業は全て英語で行われるという

サンゴ礁生態系の解明を目指す逆境に負けないスピリット

ただ単に調べるといっても、必要なデータは多岐にわたる。生物が生息する水深、底質、海底面を覆っている生物の割合である被覆率(ひふくりつ)、生存に必要となる栄養塩のほか、さらに中山さんは海底の堆積物の隙間を満たしている水(間隙水:かんげきすい)にも着目しており、それが他の論文にはないオリジナリティと言えるのだそう。

「海草は、海水よりも間隙水からの影響をより受けているとされているのですが、今まで間隙水を主軸にしたモデルがなかったんです。なので、この研究では、より普遍的な生態系モデルを作りたいと思っています。海域などにとらわれず、例えば『この種の海藻だったらおおよそこの条件で育つ』というような。そのため、昨年から研究対象として、石垣島にある海域を2カ所に増やしました。さまざまな海域のデータを合わせることで、より普遍的なモデルになるのではないかと考えています。また、いずれは海草だけでなく、サンゴや海藻など、サンゴ礁生態系を構成する他のさまざまな生物群集についてもモデル化したいですね」

ただ、研究とはなかなかうまくいかないもの。今はまだ全体の30%ほど進み具合であり、生物が生息する環境を数式で表現し、さらに実際の状況を再現できるようにしていくことは、「大学生時代に統計学を学んでいなかったこともあって、データの分析が想像以上に大変だった」のだそう。

「元々は研究室にこもって研究ばかりだったので、フィールドワークにも憧れがあったんです」と、現在の充実の日々を教えてくれた中山さん

「大学でやってきたこととは違う分野ですから、新しいところに踏み込んだ代償はそれなりにあるんですよね。でも、そこで諦めてしまったら負けだと思うんです。統計学を調べてみると、意外と医学や生物学系でも使うところが多いようですし、いろんな分野で使えるならちゃんと身に付けておこうと思って勉強しています。やっぱり持てる武器は多くあるべきだと思いますから。あと、もう一つ大変なことは、野外調査や海で採取したサンプルありきの研究なので、事前にきちっとプランを立てないといけないところ。まあ、そもそもサンプリング自体が体力勝負で大変なんですよね(笑)」

海は地球の大切な資源の宝庫。それゆえ、海洋環境を守ることは持続可能な社会をつくることと同義であり、未来へのエネルギーとなるもの。中山さんの研究は、その一端を担っているとも言えよう。研究に没頭し、常に前向きに邁進する中山さんならば、残り70%という決して平坦ではない道のりを乗り越え、結論を導き出してくれることだろう。

昨年まで研究室に中山さん以外の女性がいなかったこともあり、サンプリングの際には、「泳ぐのが遅いとか、体力がないとか思われないように必死で食らいついていました」


<2018年4月28日(土)配信の【後編】に続く>
カナダ生活で痛感!研究室だけでは学べない1人旅が教えてくれたこと。そして彼女が描く未来の理系女子像とは?

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