理系女子の履歴書

難病治療に光を!手術が難しい病気に有効な薬を開発する薬学研究者に

東京大学教養学部理科二類2年 岡部七子【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第5回は東京大学教養学部理科二類2年の岡部七子さん。高校時代にショウジョウバエの研究で世界最大の学生科学コンテストに出場するも、苦い失敗を経験。悔しさを糧に向上心を持ってチャレンジしてきた、理系女子の歩みを追った。

ハエの幼虫の研究に明け暮れた高校時代

東京大学に通いながら、2018年1月にはミス日本コンテストの「ミス着物」に選出されている岡部七子さん。その経歴から華やかな印象を受けがちだが、自らを「根暗なタイプ」と分析するほど、おとなしい性格なのだという。

小学校のころの夢は、プロのバイオリニスト。平日は5時間、休日は8時間、練習に明け暮れる生活を送るほど、本気で打ち込んでいた。しかし、練習中に負ったケガで、夢を見失ってしまう。そんなとき、ある“事件”から「研究すること」に興味を持つことになる。

「私は、昔から何か一つのことにのめり込むタイプなんです。その反面、他のことに全く手が付かなくなってしまうこともあって。それで、言うのも恥ずかしいのですが、小学校4年生の夏に、食べかけのトウモロコシを自分の部屋の隅に放置してしまったことがあったんです。当然すぐにハエがたかってしまい、泣きながら片付けたのですが、ふと、疑問が湧いてきたんです。何でハエはあんなに腐敗したトウモロコシの中で生きていけるんだろう…と」

本を読むのが好きで、自分は理系よりも文系が合うと思っていた時期もあったのだとか

ハエ事件をきっかけに、徐々に研究をしてみたいと考えるようになり、高校は埼玉の名門女子校、浦和第一女子高校へ進学する。同校は科学技術系の人材育成を目指し、大学や研究機関と連携した先進的な理数教育を実施する「スーパーサイエンスハイスクール」に指定されている。岡部さんはそこで、運命的にもショウジョウバエの研究をすることになるわけだが、当初はあまりハエの研究をしたくなかったのだという。

「だって……トウモロコシの件はどちらかと言えば嫌な思い出なので(笑)。研究テーマは、複数ある中から希望を募って振り分けられるものだったので、私は全く別のテーマを選んでいたんです。でも、少しだけ興味があったので、第4希望くらいに入れていたら、案の定、ショウジョウバエは人気がなくて、私の担当に……。ただ、実験を続けているうちに、幼虫はキラキラしていて、かわいいって思えるようになってきたんですよ」

「幼虫は透明で、キラキラしていて、かわいいんです!」と目をキラキラさせながら語ってくれた岡部さん

新たな医薬品開発に結び付く大きな「発見」と「挫折」

ハエの幼虫は腐敗した果物やトウモロコシから栄養を得て成長するが、なぜ不衛生な環境の中でも生きていけるのか。小学校のころに抱いた疑問をテーマに、顕微鏡をのぞいて実験を重ねる毎日はとても楽しかったそう。そんな中、高校2年生の9月にある大きな「発見」をした。

「ショウジョウバエの幼虫は、体の外に細菌の繁殖を抑える抗菌物質を分泌していて、さらに幼虫自身も抗生物質を分泌する細菌を持っている、ということが分かったんです。その二重の仕組みで自分の体を守っているから、不衛生な環境でも生きることができたんですね」

高校時代を思い出し、「発見できたことが本当にうれしくて、生物室中を駆け回ったのを覚えています」

ショウジョウバエは遺伝学の研究によく用いられるが、幼虫が分泌する抗菌物質についてはあまり研究されていなかったという。岡部さんが発見した抗菌物質は抗菌ペプチドといい、普通の薬剤が効かないような薬剤耐性菌にも効果があることが知られているため、将来的に医療や新薬開発の現場で役立つ可能性がある。

この発見が評価され、高校3年生時に、米アリゾナ州フェニックスで開かれた国際的な科学技術コンテスト「国際学生科学技術フェア(ISEF)」に日本代表として参加。しかし、研究結果に自信はあったものの、プレゼンテーションがうまくできず、悔しい結果に終わってしまう。

ISEFで発表した論文。研究のために、先生に頼み込んで居残りさせてもらうこともあったそう

「自分の研究の何がすごくて、どう世界の役に立つのかをもっと押すべきだったんですが、私は自分がどんな研究をして、どんな結果が出たのかを淡々と述べることしかできなかったんです。当時はとてもショックでしたね」

研究の醍醐味は発見。未知を解き明かすことの喜び

世界の壁にぶつかった岡部さんが、その後、現在通う東京大学を目指したのは、高校時代に東京大学の研究者からアドバイスをもらうことがあったからなのだという。

「その先生のアドバイスがとても的確で、私もいつかそんな考察ができるようになりたいと思ったんです。また、東大は日本一の研究機関でもありますし、設備も整っているので、研究をするなら東大しかない! という気持ちもありました」

現在は教養学部理科二類の2年生。東京大学では2年生まで全ての学生が教養学部に所属するため、学部選択はこれからだが、岡部さんの気持ちは固まっている。

現在通う駒場東大前駅近く。大学受験は「暗記科目は音読した声を録音して、学校で研究しながら倍速で聞いていました。バイオリンをやっていたので、耳で覚えることに長けていたんだと思います」

「薬学部に決めています。今は分子の構造などを学ぶ物性科学や、解剖などをする基礎生物学実験、進化論、統計学などを選択しています。必修科目が少ない時期なので、自分が取りたい科目を学べるんです。講義以外にも、去年は夏休みの期間だけ薬学部の研究室でアルツハイマーに関連するタンパク質の研究をしていました」

1年生のうちから研究室に入ることは珍しいのだが、将来のためにいろんな専門分野を見ておきたいという考えから、教授にお願いして参加させてもらったそう。アルツハイマーは、アミロイドβとタウタンパク質という物質が脳内に蓄積すると引き起こされることが分かっているのだが、岡部さんは、そのタウタンパク質を蓄積する遺伝子変異を持った細胞の性質を解析していた。

「ぜんぜん時間が足りず、中途半端なまま夏休みが終わってしまって……。高校時代とは全くレベルが違い、今まで私がやっていたのは自由研究でしかなかったんだな、と気付かされました。でも、高校では使えなかったような高度な設備があり、できることの幅も広がったので楽しいですね」

今年の夏休みは、リベンジでもう一度同じ研究室に通うか、新しい研究室に行くのか、まだ悩んでいる最中だという

苦笑しながらも、充実感に満ちた日々を送っていることがうかがえる。積極的に研究の場に足を踏み入れている岡部さんだが、今後、本格的に進めていく研究テーマはまだ決めていないそう。

「そのために2年生までの間にしっかり勉強をして、いろんな専門分野を見るというのが今やるべきこと。ゆくゆくの研究テーマや専門は、それから決めたいなと思っています」

現在は勉強、研究、ミス着物の活動にアルバイトなど、忙しい日々を送っている

「研究が楽しいのは、今まで誰も知らなかったことを、自分が一番に知ることができるから。何かを発見することのうれしさ、素晴らしさを感じられるから研究が大好きなんです。もちろん、発見にいたるまではつらいこともたくさんあって、心が折れそうになることもたくさんあるんですけど(笑)。でも、やるからには“発見”したいですよね。その発見の瞬間のために、私はこれからも研究を続けていくと思います」


<2018年5月24日(木)配信の【後編】に続く>
好奇心を原動力に前へ突き進む岡部さんが、挫折から気づいたこと。そして取った意外な行動とは?

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