理系女子の履歴書

「伝える力」を持った研究者になりたい。ミス日本コンテスト挑戦への想い

東京大学教養学部理科二類2年 岡部七子【後編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第5回は東京大学教養学部理科二類2年の岡部七子さん。後編では「自分を変えたい」と一念発起して応募したミス日本コンテストで、大きく変化した心境と将来の夢について話を聞いた。

「伝える力」を養うためミス日本コンテストに応募

高校時代からショウジョウバエの研究を進め、「ショウジョウバエの幼虫は体の外に抗菌物質を分泌し、自らも体に抗生物質を分泌する細菌を持っている」ということを発見するなど、理系女子としては順風満帆に思える岡部七子さん。しかし、前編でも少し触れたように、世界の舞台での大きな挫折が、彼女の人生に大きな影響を与えている。
※【前編】の記事はこちら

「高校3年生のとき、米アリゾナ州フェニックスで開かれた国際的な科学技術コンテスト『国際学生科学技術フェア(ISEF)』で研究発表をする機会があったのですが、そこでプレゼン力の低さと一般教養のなさを痛感させられました。私は人前に出るのがとにかく苦手だったので、プレゼンにあたって事前に質疑応答集を100〜200問作ったのです。でも、想定外の質問が来ると全く答えられなかったり……」

「休みの日には年の離れた妹たちと遊ぶのが一番の楽しみです」

どんなに研究が優れていようとも、それをアピールする手段がなければ何の役にも立たない。それは海外だけに限ったことではなく、日本でも同じだろう。集団でいるといつも一番後ろに隠れているような、おとなしい性格だった岡部さんにとって、その「伝える力」のなさは致命傷だった。それを嫌というほど思い知った翌年、大学1年生になった彼女は、思いも寄らぬ行動に出る。

「ミス日本コンテストに応募したんです。研究をもっと魅力的に、分かりやすく伝える力を付けたくて」

ミス日本コンテストといえば、これまでに女優の藤原紀香や映画監督の伊比恵子(いびえいこ)などを輩出してきた、日本で一番古い歴史を持つミスコンテスト。単に容姿だけでなく、将来の目標や、それに向かってどうコミットしていくかなど、人間性までもが審査に含まれるのが特徴だ。だが、それがどう「伝える力」を身に付けることと結びつくのだろうか。

高校時代はアナウンス部に所属し、ドキュメント番組の制作をしたことも。全国大会にも行ったそうだ

無縁だったメークも覚え、審査員も驚きの急成長

「14名のファイナリストに選ばれると5カ月間の特別な勉強会を受けることができて、そこで日本の伝統や歴史、文化、所作やマナー、メークなどなど、さまざまなことをたたき込まれるんです。スピーチやプレゼンテーションなど、伝える力もそのうちの一つ。この勉強会に魅力を感じて応募を決めました」

これまで研究に没頭する高校生活を送ってきた岡部さんは、おしゃれやメークは特に苦手分野。ミス日本コンテストのオーディション会場にもほぼすっぴんで登場するなど、審査員を困惑させる一幕もあったそう。しかし勉強会を経て、その印象にも大きな変化が。

「ミス日本コンテストは、自分の持っている目標に向かって、どれだけ自分を変えていくか、変わりたい気持ちが強いか、という過程を大切にします。その点で彼女は、14人のファイナリストの中で一番の伸びしろがあったと思います」とは、審査員の言葉。岡部さんは見事、約2800人の応募者の中から「ミス着物」に選ばれた。現在は学業と並行して、日本の文化を広めるさまざまな活動に参加するなど、忙しい日々を送っている。

ミス着物の任期は1年。今は9月にパリ・ユネスコ本部で行われるショー「美・JAPON」の準備のため、ウォーキングのレッスンやフランス語の勉強などで忙しいそう

写真協力:ミス日本コンテスト事務局

「今まで人と話すことが苦手だったので、話すスピードや滑舌、間の取り方などは、特に厳しく指導していただきました。今はミス着物として人前でお話することが増えたこともあって、以前よりも話すことができるようになったと思います。分かりやすいスピーチというのはなかなか難しくて、今も模索している最中ではありますが……(笑)」

大学では、ゼミの発表やプレゼンがあるため、身に付けた「伝える力」は、早くも効果を発揮しているそうだ。

“発見”することの喜びが彼女の原動力

学業にミス日本と日々忙しく過ごしている岡部さんだが、さらに部活動にも精を出しており、東京大学音楽部管弦楽団に所属して幼少期から続けているバイオリンを担当している。何でも、このバイオリンの練習が勉強や研究の息抜きに欠かせないものになっているとか。

「今ではバイオリンのプロを目指すことはなくなりましたが、大学で趣味として続けています。今でも毎日練習をしているのですが、勉強や研究に行き詰まったときにバイオリンを弾くと、使う脳が違うからか、とてもいい気分転換になるんですよ。頭が切り替わって新しいアイデアが浮かんだり、分からなかった問題が解けるようになったり」

「バイオリンは芸術なので、どんなに練習しても結果に結びつかないことがあります。小学生のとき、ケガをしてしまったのがきっかけで、一気に勉強にシフトしたんです」

加えて、理系女子であるにもかかわらず、アルバイトは英語塾の講師。受験のための文法を生徒に教えつつ、同僚であるネイティブの講師と会話をすることで、自らの英語力を鍛えているのだとか。それもこれも、国際コンテストの挫折から、できなかったことを克服しようとしているがゆえ。

岡部さんはまだ大学2年生。将来の夢を聞くと、卒業後の進路はまだ決めていないという。しかし、明確な目標は定まっている。

「将来は、手術が難しい病気に有効な薬を開発したいと思っています。例えば、脳手術は後遺症が残ってしまうリスクも高いですが、薬で治すことができれば、リスクも下がります。そういった薬の開発に携われる薬学研究者になりたいですね」

理想の上司像は自分の目標となるような人。「昨年の夏休みに行かせていただいた研究室では、そういう素晴らしい方に出会えたので、とても幸運だと思います」

度々の挫折を経験しながらも、自分で切り開いてきた岡部さんの今。自分に足りないと思うものを貪欲に学び続ける彼女の姿勢は、われわれも見習うべき点がありそうだ。そしてこの先の未来には、いつか彼女が開発した新薬によって多くの人が救われる日が来ることを期待せずにはいられない。

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