理系女子の履歴書

日本のカフェに問題提起!国民性を考慮したテラス席のあり方を見つけたい

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 修士2年 南雲穂波【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第7回は、東京大学大学院で建築学を専攻する南雲穂波(なぐもほなみ)さんだ。大学院で学業に励みながら芸能活動も行う彼女。才色兼備を絵に描いたような南雲さんが歩んできた道のりを聞いた。

テレビドラマに憧れて建築を志した思春期

東京大学の工学部建築学科を経て、東京大学大学院で建築計画を学ぶ南雲穂波さん。現在の進路を選んだきっかけは、中学生のころに夢中になったテレビドラマが大きく関係しているという。

「長澤まさみさんが建築学科の学生役をしていた『プロポーズ大作戦』(フジテレビ系)というドラマを見ていて、作中に出てくる製図のシーンがとても印象的で。私自身、学校の技術の授業で製図をしたときに、先生から才能があると褒められたことも重なって、建築に興味を持つようになったんです」

南雲さんに影響を与えたドラマは他にも。「ドラゴン桜」(TBS系)は東京大学を知るきっかけの一つになったとか

高校2年生時、母親の勧めで参加した「東大テクノサイエンスカフェ」というイベントで、東京大学を目指すきっかけとなった建築家で東京大学大学院教授の千葉 学氏と出会う。

「東大の工学系研究科が主催するイベントで、私は千葉教授の建築デザインの回に参加しました。今でも忘れない、土砂降りの日でした。千葉教授が設計した建物のプレゼンを聞いたり、教授と一緒に歴史的な建物が残る本郷キャンパス内を巡ったりする中で、もっとこの人から学びたいと思ったんです」

それまで大学に堅いイメージを抱いていたという南雲さんだが、実際に見て、体験することで、大学に入ってからどんな環境でどんなことを学んでいくのかを明確に想像することができたという。「いつか絶対に東大で学びたい」と、他大学が目に入らなくなるほどの決意は、その後実を結ぶわけだが、いざ入学してみると思い通りにいくことばかりではなかった。

高校時代は軽音楽部でギターとボーカルをやっていたことも。「ギター担当だったメンバーが留学してしまって、バンド活動ができなくなり、そこから勉強に身を入れ始めたんです(笑)」

天才に囲まれ挫折…才能がないと気付いたときの決意

大学では当初、主に建築意匠を学んだ。意匠とは、建物のデザインの部分を担う花形の分野だ。希望通り、千葉教授の指導を仰ぐこともできたそうで、印象に残っているのは設計製図の授業だという。「ある場所で、規定の条件を満たす建築物を考える」という課題で、ゼロから建物の設計に取り組んだ。

「広島県三原市のとある施設に新しく造る建物を設計するという課題で、現地に足を運んでフィールドワークしたことが思い出深いです。そのとき、事前にネットでリサーチして町の雰囲気を理解したつもりになっていたのですが、行ってみて初めて分かる問題がたくさんあって。ネット上に書いてあることと現実とではギャップがあったり、交通の便がいいのに実際はそれを生かし切れていなかったり。そこで初めて、実際の建築の設計って、こういう感じで進めていくんだということを体感しました」

大学へ行った後、帰り道にカフェに寄るのが楽しみ

しかし、この授業が南雲さんの印象に残っている一番の理由は、そうした新鮮さにあるわけではない。授業を進めていった中で、「自分には設計の才能がないかもしれない」と感じることになるきっかけとなったからだ。

「周りには創造性にあふれた優秀な人たちがいっぱいいて、みんなすごいものを生み出してくるんですよ。リサーチは黙々とやれば何とかなるんですが、0から1を生み出す設計の部分は、本当に好きじゃないと続けられない分野。何度かそう感じることがあったので、それなら設計は優れた人たちに任せて、自分は違うところを目指そうと思うようになりました」

手先が器用だという南雲さん。大学で所属していたダンスサークルでは衣装を自作することもあったそうだ

そんな南雲さんが現在大学院で専攻しているのは「建築計画」の分野。人間の行動や心理に適した建物を計画し、設計するための基礎となる研究だ。所属する研究室では、例えば老人ホームなどを訪れ、その建物内のどんなところで認知症の高齢者が行動に混乱を来してしまうかを調査し、認知症高齢者にやさしい動線計画を考える研究などが行われている。

「そうした設計のための研究なら、才能がなくてもコツコツ取り組めば自分にもできると思ったんです。せっかく建築の世界に飛び込んだのだから、挫折しただけで終わってしまうのはもったいない。何か胸を張って建築を勉強したと言えるものを残したいじゃないですか。それで選んだのが建築計画だったんです。今年の春からは、修士論文としてカフェのテラス席について研究をしています」

こうしてテラス席で過ごすのも、研究を深めるために必須。時間を見つけてはさまざまなカフェに足を運んでいるそう

日本人が快適に過ごせるテラス席を

カフェのテラス席に焦点を当てたのは、「テラス席に案内されて嫌だった」という自分が抱いた感情がきっかけとなっている。フランス・パリを訪れた際には、華やかなオープンカフェのにぎわいが日本と全く違うことにも驚いた。

「日本では道路に面して造られたヨーロッパスタイルのテラス席をよく見かけますが、それって実は日本人の国民性には合っていないのではないかと思うんです。日本人は文化的にもっと縁側的な、プライベートを重視したテラス席を好むような気がしていて、実際に都内のカフェを見てみるとテラス席には外国人ばかりということも珍しくありません」

現在は、その実態を調査するため、テラス席がある店を調査しつつ、日本人とフランス人を対象としたアンケートを制作している段階だ。意識の差がどこにあるかを見極め、日本人が快適だと思うテラス席のあり方を模索していきたいのだという。

現在進めている研究内容のレジュメの一部。カフェの外観を集めるのにも苦労しているそう

「単純にテラス席の好き嫌いを聞いただけのアンケートはネット上にも存在するのですが、ちゃんと研究として取り組まれているものではありません。引用文献としてしっかり使える論文にまとめることで、テラス席という限定的なものですが、建築の設計や研究に役立つものに仕上げていきたいですね」

文化や気象環境の差など、それぞれの国の背景を考慮していきたいと南雲さんは意気込む。これまで学んでこなかった統計学も必要になるため、ますます勉強に熱が入っているところだ。

「この研究を面白いと興味を持ってくれる研究室の仲間がいることも、大きな励みになっています。みんな知ることに貪欲で、その姿勢に刺激を受けることが多いです。私はどちらかといえば、好きなこと以外には無関心な方なので(笑)。一度は挫折してしまった建築の勉強ですが、この修士論文を完成させられれば、胸を張って建築を学んだと言えるようになると思います。そのためにも頑張っていきたいです」

大学の中で好きな場所は、本郷キャンパスの工学部1号館。「シンボルでもある大イチョウの眺めがすてきなんです! 受験期には携帯の待ち受けにしていたほど。私のパワースポットです」

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