理系女子の履歴書

科学を通じて社会貢献!使命感に燃える科学のお姉さんの挑戦

東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 修士1年 五十嵐美樹【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第8回は東京大学大学院で科学コミュニケーションを専攻する五十嵐美樹さん。“科学のお姉さん”としてサイエンスショーを主催しながら、“使命”と掲げたある目標実現に向けて前進する彼女。笑顔の裏に隠していた、理系女子だからこその熱い思いとは。

レース、ダンス、エコカーで挑戦と挫折の繰り返し

子供たちに科学の魅力や楽しさを伝えたい——サイエンスコミュニケーターとして、科学実験教室やサイエンスショーを全国各地で行いながら、東京大学大学院に通う五十嵐美樹さん。踊りながら生クリームをバターにするダンス実験など、独自のスタイルで子供たちの心をつかんでいる彼女が、そもそも科学に興味を持ったのは中学生のときだった。

「理科の授業で虹を作る実験をしたのがきっかけです。すごくきれいで感動したのと同時に、『この世の事象は全て証明できるのではないか』と思うようになりました。それ以来、空って何で青いんだろうとか、そういうことばかりを考えるようになったんですよ」

YouTubeで科学番組「ミキラボ」というチャンネルを運営している五十嵐美樹さん。手前にいるのはパートナーの「アナひこ君」

当時は、国語や英語が得意分野。どちらかと言えば文系女子だったが、とりわけ物理学に心引かれていき、必死に勉強した末に、希望の進路を勝ち取った。

「他の大学には目もくれず、上智大学の理工学部にある、機能創造理工学科を単願で受験したんです。物理、電気・電子工学、機械工学の各学科を統合してできた学科で、いろんな分野を横断して学べるのが特徴でした。当時はまだ夢も定まっていなかったので、広く学びたいと思っていた私にはぴったりだったんです」

漠然と、エンジニアになって社会貢献したいという目標はあったものの、歩むべき方向は決められておらず、大学時代はとにかくさまざまことに挑戦した。1年次には、レースカーを自作してサーキットでタイムを競う学生フォーミュラサークルに参加し、2年次には、ダンスサークルで小学1年生から続けているヒップホップダンスに本気で打ち込む。そして4年次には、リニアモーターカーや送電線に応用する超電導体物質の研究に従事した。

YouTube動画の撮影風景。明るい笑顔と楽しい実験動画で楽しませてくれる

「新しいチャレンジが増えると、その分だけ失敗や悩みも増える。だから大学では多くの失敗と挫折を経験しました。自分に足りないところを痛感させられる出来事がたくさんありましたね。人と人との間のコミュニケーションなどで至らなかったときは、とても悔しかったです。でも、多くの学びがあったので、チャレンジしたことに後悔はしていません」

ミスコングランプリ受賞で“科学のお姉さん”が誕生

エンジニアとして何ができるのか。その可能性を見定めるために、多方面にアンテナを張っていた大学時代。そんなときに出合ったのが、ミス理系コンテストだった。「理系女子のイメージアップ」という理念を掲げる学生団体主催のコンテストで、五十嵐さんは第2回グランプリに輝いている。

「実は当時、主催した方々は第2回の開催をするか悩んでいたそうです。でも、私はコンテストの理念にとても共感していたので、『開催が決まるとうれしい』という個人的な思いを伝えました。私が通っていた学科は女性が1割でしたが、それでも大学は楽しかったし、卒業後に活躍している人もいる。そういうことをたくさんの人に知ってもらって、“理系分野に関心を持って、前に進む女性のPR”をしたいという思いを陰ながら抱いていたので、自分も貢献できるんじゃないかって」

動画などを見ると想像できないが、「小学生のときの通知表には、控えめすぎると書かれていた」というほど昔は引っ込み思案なタイプだったそう

当時のミス理系コンテストを、五十嵐さんは総合力の戦いだったと振り返る。理系の知識、コミュニケーション能力、特技で評価される大会は、失敗から得た学びと子供のころから続けてきたダンスなど、これまで培ってきた能力を遺憾なく発揮。バラバラだった歯車がかみ合った瞬間だった。そして、ミス理系コンテストグランプリ受賞が、五十嵐さんを“科学のお姉さん”へと導いた。

「たくさんのチャレンジをしてきましたが、どんなときでも『社会の役に立ちたい』という軸はぶれません。自分が学んできたことを社会にどう生かすか。それを常に考えていて、大学を卒業したときに出した答えの一つが、就職と同時にボランティアで始めた、実験教室やサイエンスショーだったんです」

科学に対する興味と社会貢献したいという欲求は、学生時代に抱いた気持から全く変わらないそう

「チャレンジしないのはリスク」使命に燃えて転職を決意

就職が決まったときから、やることは見えていた。大学卒業後、株式会社東芝に就職した五十嵐さんは、同社が運営する東芝未来科学館が開催していた実験教室に目を付ける。全く関係のない部署に所属していたにもかかわらず、直接、東芝未来科学館に手伝わせてほしいと交渉。ボランティアで参加することになった。

「グランプリをいただいたとき、ミス理系コンテストの理念が“私の使命”だと確信したんです。せっかく選んでいただいたのだから、社会に返せるように努力しないといけない。だったら今まで自分が学んできた科学を子供たちに伝える活動をしようと思ったんです」

平日は高速道路のETCや交通情報などを制御するシステムのエンジニアとして従事し、週末は実験教室で子供たちに科学の楽しさを伝える。実績を積んでからは、さまざまな企業や科学館に直接プレゼンし、教室を開いては全国を回った。休みなんてほとんどない。立ち止まらなかったのはひとえに、「科学の楽しさを広める努力を続ける」という強い使命感からだった。いつしかうわさがうわさを呼び、あっという間にボランティアとして続けるには厳しくなってきたという。

「個性を生かして社会貢献していくことが好きで、ピンと来ると動きたくなってしまうんです」

「でも一つ根本的な問題があって、実験教室を仕事にするにも、私は社会のことをよく知らなかったんです。そこで社会やビジネスのことを学ぶために、当時まだ数名だったベンチャー企業に転職したんです。もちろん、エンジニア職を捨ててしまうことに葛藤もありましたけれど、『自分が使命を持ってやるべきことを、いかに実現していくか』ということが大事だと思ったんです」

ある意味、自分の欲求に忠実で、無鉄砲とも思われる選択かもしれない。反して、五十嵐さんが掲げる使命の実現には、少なからず自己犠牲をする必要もある。しかし一抹の不安は、転職先の代表の言葉で拭い去られた。

「代表は使命感を持って事業を進めていく方で、話を聞くたびに学ぶことが本当に多かったです。自分のやるべきことが目の前にあるときに、『チャレンジしない方がリスク』と考えるようになった大きなターニングポイントでしたね。それに、今の選択でいいという肯定感を得られたのも、自信につながりました」

転職先では経営企画部門を担当。「『何でもやります!』という気持ちで入社して、人事や広報などいろいろなことにチャレンジしました」

実験教室を始めて今年で4年。2018年4月には、自身の活動を成果としてまとめるため東京大学大学院に入学。さらに7月にはこれまでの活動が評価されて、未来社会をリードする女性に贈られる「第1回リカジョ賞」の準グランプリを受賞した。五十嵐さんは、ますます使命感に燃えている。

「最初は社会に貢献したい、という漠然とした思いでしたが、行動することで徐々にやりたいことが定まっていくイメージです。これからも個性を生かして科学の楽しさを伝える活動を、自分にうそをつかずに継続していきたいと思っています。そうじゃないと、実験教室に来てくれる子供たちに失礼ですしね。人生は一度だけ。そこだけは今後もブレないようにしたいです」


<2018年8月23日(木)配信の【後編】に続く>
大学院での成果が社会を変える可能性。科学×社会貢献=使命を形にした五十嵐さんが抱く夢の続きとは?

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