理系女子の履歴書

死ぬまでに実現したい学校設立!理系女子がもっと輝ける未来を創りたい

東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 修士1年 五十嵐美樹【後編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第8回は東京大学大学院で科学コミュニケーションを専攻する五十嵐美樹さん。後編では、彼女が大学院で学んでいることや、未来の理系女子を育てる研究について話を移したい。確固たる信念を持った五十嵐さんが考える、科学で生み出すコミュニケーションとは?

思い込みの力が女性をポジティブにする

実験教室やサイエンスショーを全国で行い、子供たちに科学の楽しさを伝えている五十嵐美樹さん。一度は就職し、エンジニアとして活躍していたこともある彼女だが、2018年4月に東京大学大学院に入学。情報学環・学際情報学府で科学コミュニケーションを専攻している。
※【前編】の記事はこちら

「今まで、あえて声を大にして言ってきませんでしたが、私は女の子に向けた理科教育に力を入れています。というのも、生物や化学の分野で活躍している女性は多いのですが、自分自身が選択してきた物理の分野やエンジニア職になると、とたんに女性がいなくなるんです。そんな状況を変えるべく、女の子が気兼ねなく科学に触れられる場を提供していく活動に注力しています」

そんな考えに至ったのは、自身が体験してきたこととも密接にリンクしている。

実験教室に大学院と、多忙な日々を過ごす五十嵐さん。今はオンとオフの境目がほとんどない生活を送っているという

「さまざまな分野の論文で書かれていることなのですが、少なからず女性は“自己効力感”が低のではないかと言われているんです。自己効力感とは、自分に対する信頼感や有能感のことで、これが低いと、何かできないとすぐに落ち込んだり、自分はダメだとふさぎ込んだりしてしまう。でもそれって、実態はただの“思い込み”でしかないんです」

そういった思い込みを払拭(ふっしょく)したいというのが、これまでの活動の裏にある大きな動機でもあった。何を隠そう、彼女自身も男性が多いエンジニアの世界でさまざまな体験をしてきている。

「今、実施している実験教室でも、『私にできるかな……』と不安そうにもじもじしている女の子がいることがあるんです。それが昔の自分を見ているようで、とても気持ちが分かるんですよ。私も昔は引っ込み思案でしたが、自分にはできる、と逆に思い込むことで克服してきました。今では人前に立つとテンションが上がってしまうくらいです。相手も人間なので、自分を精いっぱい表現したら失敗しても許してもらえるだろうって、そんなふうにポジティブに考えられるようになりました」

理想の上司像は「自分じゃなきゃできないことを、使命感を持ってやっている人です」

子供たちの生の声が新しい発見に導いた

いつも第一線で触れ合い、今の子供たちの持つ空気感を肌で感じている五十嵐さん。活動を進める中で一つ発見があったという。男子に比べて女子は理科に対してネガティブな反応を示す、ということが既存のアンケートなどから分かっており、実際に結果を示した論文も発表されているそうだが、一方で、五十嵐さんの体感では、必ずしもそうとは言い切れないということだ。

「それも自己効力感の話で、自分にはできないと思い込んでしまっていることが、アンケート結果に表れているのだと思います。でも実際の実験教室では、男子も女子も関係なく理科に興味を持ってくれています。私も最初、女子はネガティブな反応が多いと予想していたので、拍子抜けさせられたくらいです」

それならば、物理の分野やエンジニアとして活躍する女性が現代にもっといてもよさそうなもの。五十嵐さんはここにこそ、教育段階での大きな問題があるとにらんでいる。つまり、最初は理科が好きなのに、成長するにつれて、いつの間にか「理科は苦手」となってしまう。そこで、そうならない教育の在り方を模索するのが、彼女が東京大学大学院で取り組んでいる研究「初等教育段階の女の子における科学コミュニケーション手法の開発」なのだ。

「開催している実験教室は、先生というよりも、一緒に楽しもうよ!というスタンスで取り組んでいます」

「科学コミュニケーションとは、科学と社会をつなぐ役割を持っています。ですが今、それがうまく働いてない部分もある。それをどうしたら改善できるかというのが私の研究内容なんです」

つまり、理科に興味を持った女の子が、その興味を高めていけるような教育の在り方=科学コミュニケーションの手法を開発しようというわけだ。「今はそのために科学のお姉さんをやっているし、理系女子の進路選択を助けるボランティアもしています。メディア出演もその一環。実際の活動で得られた生の声を生かしながら、日々研究しています」

しかし、悩みもある。“いい音楽と売れる音楽は違う”というのと同じで、「実践で子供たちに響く教育と、学術的に評価される教育は違う」ということだ。このすみ分けをきちんとできないと、実験教室と研究の両立は難しい自分で実践したことを、自分でいかに体系的に評価できるかが、今後の大きな課題だという。

現在も、学校や企業などで実験教室を開催するために全国を回る。子供たちにウケが良いのは目で見て変化が分かる実験だそう

子供たちが自信を持って科学と向き合える環境を

「まだ研究は始めたばかりですが、予想していたよりもいろんな学問が絡んでくることも分かりました。理科教育の分野はもちろんのこと、心理学に統計学と大学時代に学んでいないことも多いので苦労することもあります。それに、このテーマって“生もの”だと最近思うんです。というのも、子供たちが考えることは千差万別ですし、時代によっても変わってきます。今まで積み重ねてきたものが、明日にはNOを突き付けられるかもしれない。そういう怖さは常にありますね」

しかし、研究を重ねれば重ねるほど、五十嵐さんの使命感は高まっていくばかりだ。最近は、日本の子供向け玩具の在り方に疑問を抱いているという。

「おもちゃ売り場に行くと、たいていは男女で棚が分けられていますが、女子向けの棚にはサイエンス玩具ってほとんど置いてないんです。女子向けのものは、例えば、おままごとや着せ替え人形といったおもちゃ。何を選ぶかは子供たちの自由ですが、サイエンス玩具を手にするきっかけくらいは平等にしていきたいと考えています。子供のうちからジェンダーで可能性を狭めなくてもいいじゃないかと、もどかしい感情を抱いているんですよ。もちろん、その方が売れるというのも理解はできるのですが……」

最近好きなことは、海外の科学絵本集め。女の子がエンジニアとして活躍し、人の役に立つというストーリーに共感するそう

「女子向けのサイエンス玩具を作り、おもちゃ売り場に並べたい」。そんな目標も新たにできて、少しずつ計画は進行中。自身のYouTubeチャンネル「ミキラボ」からサイエンス玩具の販売を開始している。こうした科学と女子の問題は氷山の一角に過ぎず、突き詰めればきりがないほど根深い問題だという。

「現時点で結論を出すことは難しいですが、まずは自分がこれまでに実践してきたことを、しっかりとアウトプットし続けたいと考えています。玩具作りもその一つですが、女の子たちに向けて、ちゃんとメッセージを伝えられるものや場をこれからもつくり続けたいですね。そうでないと、多くの方々に支えられながら自分が活動を続けてきた意味がなくなってしまうと思うんです」

人が集まっている場所に行くと、エネルギーをもらえるそう

最後に、そんな五十嵐さんが最終的に目指す、未来の自分を尋ねてみた。

「学校をつくりたいです。女の子が自信を失わずに、物理やエンジニアリングと向き合える学校を。今でもそういう“場”をつくり続けていますが、実践を通してみると、形があることでできることもあるんだなと思い始めています。いつか校長先生になって、みんなの身近な存在として、学生たちにからかわれながら死ねたらいいなって、そんなことまで考えています(笑)」

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