特集

ファンドで作る再エネ発電所の可能性

眠れる個人金融資産の新たな活用方法

再生可能エネルギーの今を見る本特集。今回は“再エネビジネスの現場”に着目するため、ファンドを活用して自治体の遊休資産から再エネを生み出すスパークス・グループという企業の取り組みについて、スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー株式会社(以下、SGET)の代表取締役社長・谷脇栄秀氏の話をもとに見ていこう。

官民連携ファンドがビジネスチャンス

「社会インフラを財政で造っていく時代は終わったと思います。日本には1700兆円の個人金融資産がありますから、この民間資金を活用して社会インフラを整備することで、資金循環サイクルを作り上げる必要があります。“社会の公器”であるファンドを使って社会インフラの一つである再生可能エネルギーを作り出すことは、日本のために役立つことだと信じています」

ファンドを「社会の公器」と表現する谷脇氏の言葉に違和感を覚える向きもあるかもしれない。日本では1996年に始まった金融ビッグバン以降、「貯蓄から投資へ」を合言葉に間接金融から直接金融への移行が政策的に行われているが、個人レベルではファンドはいまだになじみが薄い存在だろう。そして、谷脇氏には不本意かもしれないが、ファンドには“ハゲタカ”のイメージも付きまとう。

SGET代表取締役社長・谷脇栄秀氏。3名で立ち上げたという再エネ事業も現在では10名ほどに

「スパークス・グループ株式会社は、日本株を中心とする投資運用会社ですが、東日本大震災を契機に新たなビジネスを模索していた際に、固定価格買取制度(FIT制度)が誕生しました。そこでFIT制度が成長と安定が望める“キャッシュフローの泉”であり、社会貢献にもなると判断し、再生可能エネルギーによる発電事業に参入したのです」

同社は現在、建設中のものを含めて全国に24カ所、310MW(大型火力発電所1基に相当)の再生可能エネルギー発電所を運用している。この起点となったのは2012年6月に東京都が企画した「官民連携インフラファンド」で、同社グループ会社が運営事業者に公募選定され、都からの15億円の出資を基に88億円のファンドを集めて第1号投資案件として熊本県にメガソーラーを建設した。今では他のファンドや銀行融資を合わせて総額約1370億円の事業規模で全国に再生可能エネルギー発電所を建設・運用しているという。

「官民連携インフラファンド」の資金で建設された熊本県葦北郡芦北町のSGET芦北メガソーラー(8.0MW)

写真提供:スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー株式会社

東京都による「官民連携インフラファンド」とは、石原都政下の2012年に、更新時期を迎える社会インフラの整備に民間資金を活用する目的で開始された日本初の官民連携インフラファンド事業だ。この事業で都は30億円を出資し、このうち半分の15億円が第1号案件として同社に出資されている。

「これまでの社会インフラ整備では、財政が15億円を使ってできるのは15億円分の施設を造ることだけでした。しかし、15億円を投資の呼び水に回せば、さらに大きな資金を集めることができ、レバレッジを利かせた事業を行うことができます。そして、そこから生まれる利益は出資者である国民に還元される。これは新しい財政の活用方法だと思いますし、この資金循環システムを作り上げられることが、ファンドの力だと思います。とは言っても、東京の投資運用会社が『再生可能エネルギー事業をやりませんか』と地方の自治体に足を運んでも、なかなか理解してもらえません。そういう意味では、都がファンドに出資したことで、地方での信頼性が高まったことも事実です」

発電所は自治体から個人投資家の手に

先述の同社グループ会社は東京都の官民連携インフラファンド第2号案件の運営事業者にも選出され、他の民間ファンドからの出資と合わせ、現在では青森県新郷村で風力発電、新潟県三条市で木質バイオマス発電、秋田県北秋田市、富山県、千葉県、神奈川県などでメガソーラーと、再生可能エネルギーでの発電事業を行っている。

神奈川県にあるSGET中井メガソーラー。ここではメガソーラーの中央部分に公園スペースを設け、地域の子供たちに向けて、電力に関する課外学習も行っているという

写真提供:スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー株式会社

自治体と連携するファンド・ビジネスモデルは、こうだ。

自治体や銀行、民間企業などの投資家から資金を調達し、特別目的会社が再生可能エネルギー発電所を建設する。発電した電気を電気事業者に売電して収入とし、発電所の用地を提供した自治体には賃料を支払う。そこからファンドの管理料を除いた分が投資家に分配される。

このようにファンドで建設された発電所は、FIT制度の買い取り期間である20年は運用されるが、自治体などが出資したファンドは存続期間が過ぎると、他の投資家に売却されることになる。

「再生可能エネルギー発電所自体はSGETが管理・運用することに変わりはありませんが、ファンドへの出資者が替わります」

投資の世界で発電所は、売電にこぎつけるまでは収益を生み出さず、収益を生み出しても安定するまで予期せぬ事態が発生する操業リスクがあるため、草ぼうぼうの土地という意味合いから、“グリーンフィールド”と呼ばれている。

「しかし、その分投資家には売却益が期待できます。そして、安定した収益を生み出すようになった発電所からは、投資1年目からリターンが得られます。このような投資先は人の手が入ったという意味合いで“ブラウンフィールド”と言われ、年金基金や生命保険会社など安定・着実を求める機関投資家から好まれるんです」

つまり、ファンドの出資者である自治体は、少ない元手で再生可能エネルギー発電所を建設でき、ファンドの期限が来れば売却益を手にすることができる。しかも、20年間は土地の賃料も入ってくる。なんの価値もなかった山林や荒地が、キャッシュフローを生み出す資産に変身するというわけだ。

送電線網を全国に広げる!

だが、FIT制度の買い取り価格は太陽光(10kW以上)の場合、2012年当初40円だったものが、2017年現在21円にまで下がっている。果たして、このビジネスモデルは今後も展開可能なのだろうか。

実際に、FIT制度先進国であるドイツは固定価格での買い取りから市場価格に近い価格での買い取りに方針転換しており、またスペインは債務抑制のために再生可能エネルギーの買取り自体を中止している。

「FIT価格はグローバルで見れば、まだまだ高額です。例えば、アブダビ首長国では2.42米セント/kWh(約3円)なので、海外の投資家にとっては魅力的ではないでしょうか。しかし、国民負担で成り立っているFIT制度を国がいつまでも続けていくことはないと思います」

これを踏まえた上での再生可能エネルギーの次なるビジネスモデルは、当面は風力、地熱、バイオマス、水力の開発に注力していき、将来的には送電線網の拡充が考えられると、谷脇氏は続ける。

「北海道や東北は再生可能エネルギー発電のポテンシャルは大きいのですが、そこで生み出される電力を地元で全て使い切ることはできません。しかし、送電線網を拡充して別のエリアで生み出した電力を大都市に融通できるようにすれば、再生可能エネルギーのビジネスはまだまだ広がると思います。国はこのような広域連携システムの整備に着手していますが、送電線網の拡充にも民間資金を集めたファンドの導入を検討する時期に来ているのではないでしょうか」

SGET釧路メガソーラー。北海道の広大な土地を利用して生み出した電力を道外にも送電できるようになれば、と谷脇氏は期待する

写真提供:スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー株式会社

まだまだ可能性を秘めていると感じる再生可能エネルギーだが、多くの自治体では、大面積を被覆するメガソーラーについて環境や景観の観点から新設を事実上規制する動きが加速している。

静岡県富士宮市は世界遺産「富士山」の景観を守るためにメガソーラーと風力発電の新設を条例で規制しており、同様に富士山を抱える山梨県ではメガソーラーの面積が県土の0.2%にまで達したため、景観の問題に加えて土砂流出など防災面の問題から規制に乗り出した。

そして、地方創生と民間活力は経済活性化に向けた国の重点施策だが、同じく経済活性化の国策である外国人観光客誘致強化という政策との協調も求められるようになった。再生可能エネルギー分野においても新たな知恵が求められる段階に入ったのかもしれない。

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