特集

目指すのは小回りの利く“宇宙バイク便”サービス

部品からエンジンまでを自作する超小型ロケットの勝機

人工衛星の軌道投入用「超小型ロケット」の独自開発を目指し、小さな機体での打ち上げ実験を繰り返しているベンチャー企業が北海道にある。あの堀江貴文氏が資金面のバックアップを行い、2013年に設立されたインターステラテクノロジズだ。取り扱いが容易なロケットエンジンを独自開発し、将来的には年間数十機のロケットを打ち上げ、人工衛星を“バイク便”のように運ぶ計画だ。同社代表取締役CEOの稲川貴大氏が思い描く未来を取材した。

小型人工衛星需要に見いだした宇宙バイク便ビジネス

創業当初、漫画家や作家らによる民間の有志で行われていた宇宙ロケット開発に可能性を感じ、堀江貴文氏の資金提供により会社組織となったことでも注目集めたインターステラテクノロジズ。現在、その中心となって、東京のオフィスと北海道をせわしなく飛び回っているのが、代表取締役CEOの稲川氏だ。

自身もロケット製作の技術者の一人でありながら、堀江氏直々に経営のノウハウをたたき込まれているハイブリッドな人物。超小型ロケットの開発の目的はどこにあるのか尋ねた。

「現在日本の民間会社が人工衛星を打ち上げるには、国内ではJAXAのロケットに搭載してもらう必要があります。主力のH-IIAは大きなロケットなので積載量が大きいのですが、年間3回ほどしか打ち上げを行っていません」

ロシアなど海外のロケットに積んでもらう手段もあるが、打ち上げまで2年近く待たなくてはいけない場合も。民間の事業スピードから考えると、それではビジネスとして成立しない。

「そういったロケットを4tトラックに例えるなら、われわれが独自開発するロケットは“バイク便”です。積載量は小さいため、コスト効率という意味では少し割高になるかもしれません。でも、われわれはお客さんの依頼があれば、数カ月以内に打ち上げが可能となります」

現在のところ想定する顧客は、日本でいうと50機以上の人工衛星で地球観測を計画しているアクセルスペース社、スペースデブリ除去に取り組むアストロスケール社、小型人工衛星から人工流れ星を流すプロジェクトを進めているエール社といった超小型人工衛星を開発するベンチャーだ。

さらに、今のところ超小型人工衛星の輸送を事業化している企業はまだないため、独自に人工衛星の打ち上げを行いたい東南アジアといった途上国など、海外からの需要も見据えている。

「今年から来年にかけてロケット打ち上げサービスの事業化という企業は海外にはありますが、まだ始まってはいません。結構、開発が遅れるんです。それも2年とか。うちは事業化は2020年を考えていますが、どんどん実験を繰り返していて、かなり進んでいる自負はありますね。われわれが独自開発している炭化水素系のエンジンは価格面の優位があるのですが、きちんと作れる会社はなかなかないんです」

2006年に漫画家・SF作家・ジャーナリストらにより結成され、2011年~2012年にかけて実際に4機のロケットを打ち上げた「なつのロケット団」が同社の前身となった

©インターステラテクノロジズ

超小型人工衛星を、バイク便のように好きなときに、安価に打ち上げるビジネスモデルを目指す。打ち上げ費用は100kgまでなら5億円以下、20kgなら数千万円台前半という

©インターステラテクノロジズ

独自開発の炭化水素系エンジンほか内製率は7割以上!

このビジネスを実現させるには、これまでになかった超小型ロケットを製作する必要がある。インターステラテクノロジズでは、ほとんどを14人のスタッフによる内製で開発し、実験を繰り返してきた。内製率は7~8割という。

「電子部品や無線などは東京の作業場で製作していますが、オフィスの近くにある秋葉原の電気街で調達して組み立てることもあります。部品調達という意味では便利な立地です(笑)。思い付いたものをすぐに形にするには、内製で作る方が早いんです。技術も社内に蓄積できますし。エンジンは北海道大樹町の工場で製作しますが、エンジンに組み込むバルブなどの試作品は東京で手作りして実験しています。ここで削り出したり、半田付けしたり」

その独自開発するロケットの核となるのが、エタノール=炭化水素を燃料としたエンジンだ。

「ロケットの燃料として日本での主流は、H-IIAロケットも使用している液体水素です。“比推力”というクルマの燃費に相当する数値で見れば液体水素が最も効率的なんですが、パワーが出ない。それに対してわれわれの炭化水素系の燃料は、比推力では約半分と劣るけれど高パワーなのでブースターなしで宇宙へと運べます。しかも安価で取り扱いが簡単! 液体水素のように極低温に冷却する必要もなく、常温で保存できるんです。実際、小さな実験では、注入する際にペットボトルのような容器で直接注ぐんですよ」

炭化水素系エンジンに関しては、国内で実用化させている例は少ない。もともとその技術を持っていた同社は、去年1年間に約100回の燃焼実験を繰り返してデータを取り続けてきた。こうして技術を熟成させてきたことは大きな強みとなり、超小型ロケットの分野で今まさに最先端に立っているのだ。

その技術の集大成ともいえるのが、宇宙弾道飛行の初号機となる観測ロケット「モモ」だ。

全長9.9m、全備重量1000kgと、同社のこれまでの実験機に比べるとかなり大きい。それだけでなく、今回は高度100kmに到達することが目標。打ち上げは北海道の大樹町で、今春を目指しているという。資金はクラウドファンディングも活用して計2700万円を集めることに成功した。このクラウドファウンディングでは、サイバーエージェント社代表の藤田晋氏個人からも資金を得るなど、IT業界とも密接な関係がうかがえる。

「これを成功させて出資をもっと集め、工場を大きくしたい、人員を増やしたいという目論見があります。ビジネスとしてはスピード感が命ですから、開発のスピードももっともっと加速させなければなりません。ゆくゆくは100人ぐらいの会社にできたら」

このあたり、さすがホリエモン仕込みの経営者たる言葉である。

2013年11月11日11時11分11秒には、ポッキー&プリッツの日にちなみ江崎グリコとのキャンペーンで「ポッキーロケット」を打ち上げたこともあった。今回の「モモ」の打ち上げでは、外装へのロゴ掲載という形で、DMM.comというスポンサーの獲得にも成功。また、2016年1月19日には丸紅とロケット開発に関する業務提携も発表されている。

「丸紅さんとの業務提携については、主にグローバルに顧客獲得するための営業を担っていただくことになります。高度1000kmくらいの地球低軌道に高頻度に打ち上げたい超小型ロケットには、緯度があって海に囲まれている日本は地理的に有利なんです。衛星を開発されているベンチャーさんからは、国内からも海外からも“早く実現させてください”とせかされています(笑)」

(上)独自開発する炭化水素系エンジンの燃焼実験の様子。(下)その組み立てはもちろん、試作や制御用の電子部品まで内製で手作りされている

©インターステラテクノロジズ

インターネット黎明期のように新しい発想で世の中が変わる!

同社のビジネスが成功すれば、宇宙へつながるインフラ整備が加速していく。ではこれによって未来がどう変わるのか? そう稲川氏に尋ねると、「その答えは今は分からない」という。

「宇宙って、今は遠すぎる。でも、もし一般の人が誰でもアクセスできる宇宙になったらどうなるか。堀江さんも言っていることですがインターネット黎明期、最初の用途は真面目なものしか考え付く人はいなかった。でも、インフラが整うに従ってそれまで思いもよらなかったこと、エンターテインメントの分野でも次々にコンテンツが生まれ、ビジネスとなっていきました。宇宙もそれと同じ。今は思い付かないでしょうが、新しい発想や用途が生み出されて、どんどん世の中が変わっていくのではないかと思うんです」

確かに、インターネットの普及でここまで世の中が変わるとは想像だにしなかったことだ。ならば、宇宙バイク便が実現した先の世の中はどうなるか。今は分からないけれど、さまざまなプレイヤーが登場してワクワクする世の中を創っていく未来が、そう遠くないうちに訪れそうだ。

今春の打ち上げを予定している「モモ」のイメージ(上)と実モックアップ(下)。メインスポンサーとしてDMM.comが名乗りを上げたことでも、注目の高さがうかがえる。成功すれば、大きなマイルストーンとなるだろう

©インターステラテクノロジズ

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE