特集

クルマが「人」と「エネルギー」をサポートする時代へ

環境技術から自動運転まで、クルマと人が目指す未来を語り尽くす

第1回ではエコカー(EV/テスラ)の現状に着目したが、第2回は“エコカーの未来”についてクローズアップ。「ハイブリッド車(Hybrid Vehicle/以下HV)と電気自動車(Electric Vehicle/以下EV)と燃料電池車(Fuel Cell Vehicle/以下FCV)、未来の主流はどれか?」「自動運転で事故を起こした場合、責任はドライバー?それともクルマ?」など、次世代自動車に関する素朴な疑問を、大学院で工学を修めた技術系自動車ジャーナリストの川端由美さんに投げかけてみた。

現状は化石燃料、ガソリン自動車の独壇場?

2016年、全世界の四輪車生産台数は、乗用車が7210万5000台/年(日本自動車工業会発表)だった。依然として自動車産業は成長過程にあり、全世界の生産台数は7年連続で増加。ごく近い将来、1億台に達するだろうといわれている。

「ただし、内訳は変わりますね。EVに関しては、今年の6月に国際エネルギー機関(IEA)が発表した通り、これまでの累計販売台数が約200万台に達したにすぎません。それが生産台数で、1億台のうちの10~25%を占めるようになる、といわれているのです」

そう解説するのは、自動車ジャーナリストの川端由美さんだ。川端さんは国立大学工学部に進学後、大学院を修了。エンジニアとしてメーカーに就職するも、その後、自動車専門誌の編集記者に転職。現在はフリーランスのジャーナリストとして、自動車の環境やエネルギーを中心に取材活動を行っている。

フリーランスの自動車ジャーナリストとして、自動車の新技術と環境問題を中心に精力的に活動を行っている川端さん

「例えば、ドイツのフォルクスワーゲンは、2030年までに生産台数の25%に当たる300万台をEVにすると言っています。とても画期的な数字に見えますが、その中には全体的な成長分が見込まれています。現在のフォルクスワーゲンの年間生産台数は約1030万台。これを2030年には1200万台に増やし、そのうちの25%をEVにしたいということです」

ではなぜEVに、という流れなのだろうか。

「いつかは化石燃料が枯渇する、というのは変わりません。それがどれくらい先のことかは分かりませんが、準備は進めなければならない、ということです」

欧米にアジア、世界の最新EV事情

国内においては、この秋に「リーフ」をモデルチェンジさせる日産が、EV市場では一歩リードしているように見える。では、世界に目を向けるとどうか。

「メルセデスは、新たにEVだけのブランド『EQ』を立ち上げています。彼らには“プレミアム・ナンバーワン”というコンセプトがあるんです。しかし今、プレミアムカーの最大マーケットといえるカリフォルニアでナンバーワンはテスラ。メルセデスとしては、『EQ』というEV専用ブランドを新設してまでも“プレミアム・ナンバーワン”の地位を奪還したいのです。また、BMWは早い段階から『i』シリーズというEVをリリースしています。生産台数は多くありませんが、『iパフォーマンス』という、PHVシリーズを出すことで、サステナブルな社会作りに貢献するメーカーとして受け入れられ始めていますね」

9月6日(水)に発表予定の日産新型リーフのティザー画像。「e-Pedal(イーペダル)」と呼ばれるシステムを採用することは発表済み。アクセル一つで、発信・加速・減速・停止保持の全てを可能にするシステムだという

では、メルセデスを本気にさせたテスラの本拠地、アメリカはどうか。

「テスラそのものは年間生産台数8万台程度。ですが、メルセデスを意識させたというように“触媒”になっていますよね。ビッグ3メーカーでいえば、GMは早い時期からPHVをやっています」

しかしながら、アメリカには特有の問題があるともいう。

「広大な国土です。しかも、アリゾナやコロラド、ネバダ、ユタ州などの灼熱の砂漠地帯をはじめ、厳冬のアラスカ州など、特異にして過酷な状況があります。そんなところで電気がなくなったりしたら、まさに命取りになるわけです。まぁ、それはガソリンも同じではありますけどね。EVに関するインフラも、カリフォルニアなど進んでいるところもありますが、国全体で見れば、まだまだ時間が掛かると思います」

侮れないのは中国だ。

「かつては伏兵だったのが、巨人になりつつありますね。吉利汽車(ジーリー)という、フォードからボルボを買収した自動車製造メーカーがあります。ここはもともとエンジンさえも造っていなくて、世界中からパーツを買ってきて組み立てたクルマを販売するメーカーだったのですが、自動車メーカーとしての力をめきめきとつけてきました。そして『Lynk & Co』というEVブランドを立ち上げて、スウェーデンで設計・生産する予定です。さらに、ロンドンタクシーカンパニーも買収し、この春からEVでロンドンタクシーを造り始めました」

それぞれの国で、それぞれの問題がありながらも、着々と次世代自動車の準備は進んでいるというわけだ。

EVを普及させるポイントは?

テスラが登場したことに触発されて、世界中の自動車メーカーでEVの開発が飛躍的に進んだ。しかし、それでも爆発的に拡散した印象がないのは、やはり普及しきれない理由があるからだ。

「例えば、日本では給電の問題があります。急速充電器を新設しようとすると、アンペア数が高いので、電気代の契約料金が跳ね上がるんです。そのために、企業など設置できる場所が限られます」

海外に目を向けると、セキュリティーの問題がある。

「“EVの充電ケーブルをつないだまま、クルマを離れるなんて考えられない”という声が、ドイツでも聞かれます。盗難のリスクをそれほど考えなくてもいいのは、日本くらいかもしれませんね」

急速充電が可能となったとはいえ、ガソリンのように数分で終わるわけではない。この状態でクルマを離れることを懸念する声が、海外では特に多い

川端さんは、それらの問題をクリアする方法があるという。

「こまめに充電ができればいいんですよ。つまり“自動駐車”と“非接触充電”をセットにして普及するんです」

自動駐車は、ドライバーがいなくても指示された駐車スペースに止まるシステム。非接触充電は、コイルを備えたクルマを非接触充電施設の上に止めることで、バッテリーをチャージするシステムのことだ。※「世界初!道路から走行中の自動車へのワイヤレス給電に成功

非接触(ワイヤレス)充電・給電のイメージ

chombosan / PIXTA(ピクスタ)

「これはセットじゃなきゃダメ。なぜかというと、非接触充電は5cmでもズレると充電効率が下がるといわれています。そこまで手動でコントロールするのも難しいため、自動駐車がふさわしいのです。実用化は目前ともいわれているシステムですね」

さらに、この2つにコネクテッドカーの要素が加わってくればなお良し、と川端さんは言う。コネクテッドカーとは、ICT(情報通信技術)端末としての機能を有するクルマのこと。車両の状態や道路状況などさまざまなデータをセンサーによって取得し、ネットワークを通して解析、フィードバックするクルマのことだ。

「例えば、街中を走行中にバッテリーが減ってくると、ネットワークを介して、非接触充電設備のあるコンビニをクルマが自動的に探します。見つけたらクルマを止めて、ドライバーは買い物へ。そして、クルマは自動で非接触充電設備があるレーンに行って、充電する。EVは、たとえ10分でも充電すると効果があります。おなかが空いたら、ファミレスで同じことをすればいいんです」

クルマを充電するために場所を探すのではなく、ドライバーが休みたくなったら、その場所でクルマが勝手に充電してくれる。たとえ、それがこまめな充電だったとしても、そのようなインフラが整えば、確かに1日走行するくらいの充電はクリアできそうだ。

技術も使い方も!いまだ課題満載の自動運転

以前、EMIRA Topicsでも紹介した「最新の自動運転技術」について。

【レベル0】…ドライバーが運転に関する全ての操作を行う
【レベル1】…加減速・操舵・制動のいずれかを車両側が行う
【レベル2】…加減速・操舵・制動のうち、複数を車両が行う
【レベル3】…加減速・操舵・制動を全て車両が行う。ただし、緊急時やシステムの限界時にはドライバーが操作する
【レベル4】…完全自動運転を車両が行い、ドライバーは運転に関与しない。またはドライバーが存在しない
【レベル5】…レベル4に加え、走行に関する限定条件がない

これは、SAE(米国自動車技術会)が定める自動運転の定義だ。果たして現在、世界の自動車メーカーは、どこまでたどり着いているのだろうか。

「メルセデスは昨年3月に、そしてBMWは昨年の終わりにレベル2を取り入れました。そしてこの秋、アウディがレベル3を発表し、来年に販売を開始するとしています。これが実現すれば革新的なものになります。なぜかというと、レベル2までは“運転の責任はドライバーにある”んです。でも、レベル3からは、緊急時などはドライバーが操作するというエクスキューズはつきますが、“クルマの責任になる”のです。それが今のところ、最も進化したものだといえます」

ついにそこまで来たかと思うが、アウディのレベル3は限定的なものになる、ともいわれている。

「速度も決まっているし、中央分離帯がある高速道路でしか使えないのだとか。ただし、普通の人にとっては、かなり先進的なイメージが浸透するんじゃないかと思います」

メルセデスが実験を開始している自動運転トラック。今秋フランクフルトで開催予定のモーターショーでは、完全自動運転のスタディモデルも発表するようだ

その一方、自動運転はクルマの技術だけでなく、使用状況の見極めも大きな要素になる。

「日本でも、郊外など地域によっては、家から目的地まで擦れ違うクルマがないところがありますよね。一方、都心のような状況もあります。前者はレベル2でも対応できるかもしれないけど、後者は最低でもレベル4でなければ難しい。さらに、これは国によっても違います。アメリカの真ん中あたりの田舎町とニューヨークでは条件は違うわけです。同じ国の中でも、県や州によって状況は違うし、自動運転に求められるものも変わります。では、どこに基準を持ってくるのか、という議題が出てくるわけです」

そこで考えなければならないのは、人がどれだけ自動運転を求めているかということだ。例えば、どんなに運転が好きな人でも、お盆の高速道路の40kmもの渋滞を喜ぶ人はいないだろう。そんなときに自動運転で、車内を快適に過ごす方法がとれるのであれば、それを望むだろうし、それが自動運転を求める理由になる。

「恐らく、人は自分が運転していると早く目的地にたどり着きたいと思うけれど、もし自動運転で車内が快適だったら、渋滞を回避する遠回りのルートを走ってもいいかな、と思うのではないでしょうか。例えるなら、ダイソンの掃除機とルンバの違いですかね。ダイソンは人が操作するから早く掃除を終えたいので吸引力を求める。でもルンバは、人が他のことをしている間に勝手に掃除して、自分で充電もしてくれる。そうなると、掃除に要する時間は重要じゃなくなるんですよね。それと同じことではないでしょうか」

確かに…この掃除機のたとえ話は明快ではなかろうか。

川端さんは環境ジャーナリストとしても世界を舞台に活躍している

「自分で運転するなら早く着くことは大切かもしれません。でも、車内で他のことができるのなら、求めるものが変わってきますよね。これはもう、モータリゼーションのありようが変わるということだと思います。でも、本来はそういうものですよね。人って人生をいかに豊かにするか、ということをよく考えますよね?クルマについても、それくらいに大局的な視点を持って考えると、意外とその答えは簡単に見つかるかもしれません」

モータリゼーションの新たな波として年々注目度の高まるEVと自動運転。まだ、革新的で具体的な商品が登場していないということは、まさに変化の真ん中に現在のわれわれがいる、ということを意味している。

航続距離を気にしないで乗れるEVは登場するのか──。
クルマを100%信用して、運転を任せることができるようになるのか──。

今、自動車業界で興味深い革命が起ころうとしていることだけは間違いなさそうだ。

<次回、第3回は2017年9月4日(月)配信予定>

東京のド真ん中で自動運転を体験! 三菱電気が銀座東急プラザで開催中のイベント「METoA Ginza」から、最新のドライバー支援システムをレポート

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