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今始まる、海洋発電時代

現在の地球に適している!夢の海上都市計画を支えるエネルギー創出法

世界で推進される海上都市計画――その実態とエネルギーの関係

これまで本特集では、日本の“海の恵み”である海流、そして海藻を活用した海のエネルギーについてお伝えしてきた。では、今後海のエネルギーはどんな場面で使われていくのだろうか。特集最終回となる本稿では、すでに実現可能な技術レベルにある人工島での発電事情について迫る。

夢の海上都市実現への第一歩

フランス領ポリネシア政府は今年1月、「浮島プロジェクト(Floating Island Project)」の開発を可能とする法的枠組みを整備すると発表した。

このプロジェクトは、海面上昇による水没の危機にさらされている同政府と、海上都市の研究を手掛けるアメリカの非営利機関「シーステディング研究所(The Seasteading Institute/TSI)が共同で進めているもので、同政府が2018年末までに法改正すれば、2019年から着工できるという。空想の世界で描かれる夢の“海上都市”実現に向けて、いよいよ一歩前進した形だ。

この人工島建設プロジェクトは、以前EMIRAでも紹介した清水建設が構想する人工島プロジェクト「グリーンフロート」とイメージとしてはよく似ている。しかし、清水建設の海洋未来都市プロジェクトリーダー・竹内真幸氏は、2つのプロジェクトを比較すると、「規模とエネルギー生成の方法で大きな違いがある」と話す。

「今回発表された浮島プロジェクトとグリーンフロートは、人工島に都市を建設するという点は同じですが、当面想定されている規模が違います。前者は当初300人程度の街の規模と予想され、後者は5万~10万人の都市の規模を見込んでいるんです。

エネルギー生成の観点で見れば、浮島プロジェクトは、現在実現可能な太陽光発電を主とし、波や風を生かした再生可能エネルギーを利用するタイプになると予想されます。すぐに実現することを重視されているのでしょう。

一方で、グリーンフロートは、大型発電所に相当する都市規模の発電量を確保する必要があるため、未来の海洋エネルギーの一つである海洋温度差発電(佐賀大学で小規模では実現済み)と、宇宙太陽光発電(現在、JAXA中心で開発中)を併用しようと考えています」

ポリネシアの浮島プロジェクトが実現すれば、海上に“浮かぶ”都市としては世界初となる。しかし、各国の状況を見ると、海上での人工都市については他にもプロジェクトが進行していることが分かる。

世界中のセレブが集まるドバイの「Sabah Al Ahmad Sea City」や「Water Discus Hotel」、アメリカ・フロリダ州の「Freedom Ship」が、それだ。これら海に造られる人工都市の違いはどこにあるのだろうか。

「ドバイのSabah Al Ahmad Sea Cityは、公式サイトを見る限り、一見浮島に見えますが、セレブ御用達で知られるパーム・アイランドと同じく埋立地の上に造られています。エネルギー基盤は周辺都市と共有する火力発電、つまり産出している石油ではないでしょうか。

また、Water Discus Hotelは“海中都市”と報じられてはいますが、こちらもサイトを見る限り、浮いている訳ではなく、海底から海上に建ち上がっていて、建築技術的には陸上の建物と見れます。詳しいことは発表されていませんが、電力は陸上の電力系統と変わらないのではないかと思います。

そして、Freedom Shipは移動を前提とした大きな客船そのものなので、海に浮かぶ“島”とは根本的な造りが違うんです」

ドバイのSabah Al Ahmad Sea City

SAASC TV公式YouTubeより

つまり、世界中で現在進行している海での人工都市プロジェクトの多くは、新たな技術で海上や海中に都市を建設するというものではなく、従来の陸上での建造物や船舶と基本的には同じ造りだと考えれば分かりやすいだろう。

海洋温度差発電と宇宙太陽光発電

竹内氏の話を聞く限りでは、現在、各国で進められている人工島や海上での人工都市プロジェクトでは、海洋エネルギーを利用した電力供給プランは小規模でしか採用されてない。しかし、これまで特集で伝えてきた海流発電をはじめ、波力、潮流、潮汐力といった海洋エネルギーのポテンシャルは大いに期待できるはず。

ヒトが洋上に新たな生活の場を築くとき、海からのエネルギーをもっと取り入れることはできないのだろうか。

「厳密に言えば、各国で進んでいるプロジェクトは、ヒトが海に“移住”するような大規模なものではありません。そのため、新たな大規模電力源を設ける必要がないのです。しかし、“海への移住”と表現されるような数千~10万人が暮らす人工島を建設する場合、やはり、海洋エネルギーの利用を前提としていく必要があるのではないかと考えています」

同氏が“移住利用”を前提として例にするのが、清水建設が構想する「グリーンフロート」。

5万~10万人が生活する海上都市で、エネルギー生成に海洋温度差発電(佐賀大学で開発中)と宇宙太陽光発電(経済産業省、およびJAXAで開発中)を用いる予定であることは上述の通りだ。海洋温度差発電とは、海水の温度差を利用した発電方法。沸点の低い熱媒体を温かい表層水で気化させ、タービンを回して発電し、気体となった熱媒体を冷たい深層水で液体に戻す方法を指す。

グリーンフロートで使用が想定されている海洋温度差発電の仕組み

画像提供:清水建設

「グリーンフロートを浮遊させようとしている南回帰線と北回帰線の間の低緯度海域では、表層水と深層水の温度差が20度もあるので、海洋温度差発電が利用可能です。その発電量は生活人口が10万人のタイプで30MW(3万kW)を想定しています。

加えて、宇宙太陽光発電を併用すれば、原子力発電所と同程度の発電量が確保できると思います。宇宙太陽光発電と海洋エネルギーは関係ないと思われるかもしれませんが、マイクロ波やレーザーで送信される電力を受信するためには、周辺の環境への影響が少ない海上に受電設備を置く方がいいんですよ。

先を見据えれば、未来の海上人工都市は省エネやエネルギー制御が進むことが予測されるため、電力の消費量自体も大きく低下します。細かい数値は条件によって変わりますが、ざっと消費電力の10倍以上の電力を再生可能エネルギーで発電することができるだろうと試算しています」

清水建設が計画を進めているグリーンフロートのイメージ

画像提供:清水建設

同プロジェクトが海洋温度差発電で生み出そうとしている30MWとは、10万人都市の年間消費電力のおよそ3分の1にあたる。不足分を補うために利用しようという宇宙太陽光発電は、地上での太陽光発電と比べて5~10倍の発電量を得ることができるといわれている。

実際、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2030年の商用化を目指している実用システムは、原子力発電所1基分となる1000MW(100万kW)を発電する計画と発表されており、これは未来のスマートシティの10万人都市の年間消費電力の約10倍にあたる数字だ。

この膨大な電力が送電線を通さずに、宇宙空間からマイクロ波やレーザー波で届けられるのだから、人体や自然、通信への影響を考慮して、受電設備を海上に置くことが適切なことは容易に想像がつくだろう。宇宙太陽光発電においても、“海の恩恵”があることは明白だ。

海洋エネは今の地球に合っている

本特集第2週で話を聞いた国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の宮澤泰正氏も、海上都市での活用が期待される海洋温度差発電について、地球温暖化が問題となっている今の時代に、「理にかなっている」と言葉にしていた。

「地球温暖化の影響で、黒潮をはじめ海流の温度が高くなっているのは事実です。海洋温度差発電は、温かい水で沸点の低い媒体を気化させてタービンを回す発電方式ですから、温暖化によって表層水が温められた現代に適している方法だと思います。

温暖化という現象は地球に熱が加わる、つまり、エネルギーが加わっている状態なのです。であれば、ヒトが与えたエネルギーを、ヒトが取り出して使うことは、理にかなっていると言えるのではないでしょうか」

太陽光や風力など他の再生可能エネルギーと比べて、これまであまり注目を集めることがなかった海洋エネルギー。しかし、地球の表面積の7割を占める膨大な海は、発電という面でもわれわれに大きな恩恵を与えていることがお分かりいただけたのではないだろうか。

そして、日本にはこの恩恵にあずかることができる地理的優位性と、恩恵をくみ取ることができる技術力が備わっている。新たに幕を開けた海洋発電の新時代に期待していきたい。

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