特集

ロケットと人工衛星が切り開く宇宙ビジネスの未来

JAXAのキーマンを直撃。官民一体で加速させる「日本の宇宙産業」

「第3次宇宙ベンチャーブーム」と呼ばれるほど、数多くの民間企業が参入しつつある日本の宇宙産業。ロケット特集の最終回は、民間との連携を強化しているJAXA(宇宙航空研究開発機構)のキーマン、新事業促進部部長の松浦直人氏を訪ね、官民一体となった開発の先に見える「日本の宇宙産業の未来」を聞いた。

今、まさに変革期!

JAXAや企業が単独でけん引してきた日本の宇宙産業が、ここにきて大きく変わりつつある。

「2015年8月に内閣府で、官民一体となって海外からの受注を図る宇宙システム海外展開タスクフォースが立ち上がったんです。また、大型ロケットのアプローチも変わります。2020年の打ち上げを目指して現在開発されている次世代の大型液体燃料ロケット「H3」は、製造を担当する三菱重工が、最初から『売る』観点で研究開発しているんです」

従来、日本の宇宙開発事業は、JAXAが研究・開発をして民間企業に技術提供する、という流れだった。

だが、研究目的で開発された技術は“過剰に”ハイスペックとなりがちで、民間企業が営利目的に利用するためにはコストがかかり過ぎ、すぐには使えなかった。だが、「そのスタイルがここにきて急速に変わりつつある」と松浦さんは言う。

その一例が、前述の三菱重工に打ち上げ事業が移管されている、H-IIAロケットによる打ち上げ輸送サービス受注だ。

2016年3月には、2021年の建国50周年に合わせ“火星探査”を発表しているアラブ首長国連邦(UAE)から、三菱重工が火星探査機を搭載するロケットの打ち上げを受注したことが発表された。海外顧客からの受注はこれで4件を数えており、日本の宇宙開発の技術が官民一体となって輸出されている形だ。

2020年以降の日本の宇宙開発活動を支える大型の液体燃料ロケット「H3」イメージCG。国際競争力を持ち、事業としても確立できるロケットを目指している

写真提供:JAXA

超小型人工衛星で活気づく民間宇宙ビジネス

さらにロケットより民間の参入が加速しているのが「人工衛星」だ。

背景にあるのは技術の急速な進化。

搭載するカメラの能力や、光学系といったセンシング技術の進化により、10年前には大型衛星でないと難しかったプロジェクトが、超小型人工衛星でも実現できるようになってきた。

打ち上げに莫大なエネルギーを要する宇宙空間でビジネスするには、人工衛星は軽く、小型であるに越したことはない。宇宙ビジネスは今まさに「民間が手を出しやすいサイズ感」になりつつあり、宇宙への投資話も具体的なビジネスの俎上(そじょう)に載せられ始めてきた。

JAXAの取り組みも大きく変わった。

「コミュニティーの拡大」と「新事業の創出」を掲げ、“ニュー”と呼ばれる新世代の宇宙ベンチャー企業との連携を強化してきたのだ。

最近の取り組みを振り返ってみると…

・アストロスケール社/スペースデブリを検知するセンサー製作を受託(2015年7月)
・インターステラテクノロジズ社/将来ロケットエンジンに関わるコンサルティング(2016年7月)
・福井県民衛星技術研究組合/県民衛星プロジェクトに対する相互協力(2016年9月)
・アクセルスペース社/衛星画像の利用促進に向けた相互連携(2016年12月)
・ispace社/月における宇宙放射線環境データ取得に関わる共同研究など(2016年12月)

これらの中でも注目したいのは、超小型人工衛星による「地球観測網構築」を目指すアクセルスペース社との取り組みだ。

アクセルスペース社へはイプシロンロケットで2018年度に打ち上げ予定の「小型実証衛星1号機」の開発・運用を委託する。写真はイプシロンロケット2号機

写真提供:JAXA


アクセルスペース社との関係は、従来のJAXAにはなかったパートナーシップだ。

アクセルスペース社がJAXAの解析技術を利用して地球観測網をビジネスにつなげる一方、JAXAは災害時などに画像の提供を受ける。技術提供や受託など一方的な関係ではなく、対等な立場での協力を志向する。

また、2018年度中の打ち上げを予定する小型実証衛星1号機は、JAXAとしては初めて、設計・製造・運用まで包括的にベンチャー企業であるアクセルスペース社へ委託することを決定した。

「彼らは『JAXAがだめなら他をあたります』というスタンス。だから私たちも彼らから必要とされる形を考えて対応しています。一番苦しいのはスピードです。JAXAは国の予算が『年単位』で下りてきますが、民間は『数カ月の単位』で話が進む。そのスピードに追いつくことも、JAXAの課題であり、チャレンジすべきところなんです」

今こそ日本の実力を見せる時

これまでも、静止軌道など通信・放送を行う人工衛星に関しては、事業主体は民間に移りつつあったが、唯一不明瞭だったのが、アクセルスペース社が事業展開を狙っている地球観測衛星なのだという。

「これまで地球観測衛星は、気候変動などの環境データ取得のため、国が打ち上げてきました。ですが、今この地球観測衛星に民間から熱い視線が注がれているんです。地球をより細かく観測することで、農業や林業、物流などで新たなビジネスが生み出せるかもしれませんから」

例えばアクセルスペース社は、2018年に3機の小型の人工衛星を打ち上げ、2022年までにはこれを50機に増やし、自前の「地球観測インフラ」を整える計画を持っている。同社に限らず、現在宇宙ビジネスを志す多くのベンチャー企業最大の壁となってくるのは、人工衛星を宇宙へと届ける「ロケットの打ち上げ費用」だ。そのためにも、JAXAはロケットベンチャー企業や三菱重工などの大企業と広く協力し、ロケットのコストダウンに本気で取り組んでいるのだ。

人工衛星による通信・観測分野の利用イメージ図 。気象観測や災害対応に加え、穀物生産状況、植物生育状態、土地の利用状況といった、人工衛星のデータを活用したサービスの登場が待たれる

写真提供:JAXA


一方、松浦さんが日本の宇宙ビジネスで欠けていると考えるのは「ソフト面」だ。通信・放送に続く、新しいサービスがなかなか登場してこないのだ。

欧米では、国や他社が打ち上げた人工衛星による情報を利用して新たなサービスを生み出す多様なベンチャーが現れている。

「こういったサービスは初期投資がほとんどいらないし、無償で手に入るデータが山のようにあるんです。日本はその価値を正しく認識できていない。…でもね、そもそも日本ってそういう(サービス分野の)事業化は得意なはずなんですよ」

日本の宇宙産業の発展のためには、宇宙に携わる優秀な人材を増やしていかなくては――。松浦さんは現在、こうしたソフト面でのビジネスを耕すべく、IT業界などへの働きかけを強めている。

エネルギーの調達でさらなる加速を!

活気づく日本の宇宙産業にとって、さらなる未来を見据える“キー”はエネルギーの調達方法だと松浦さんは言う。

「世界的な今の宇宙産業の勢いからすると、2030年までには月に基地ができ、人が活動していると予想できます。そうなると重要なのがエネルギーの補給なんです」

基地への補給を、地球から持っていくのは効率が悪い。そのため、JAXAでは宇宙太陽光発電などの研究も進められている。

「宇宙空間では、何にも邪魔されず太陽光のエネルギーを得られるんです。…これを使わない手はない。技術的には既に実用化できる段階ですが、ネックは太陽光パネルを運ぶためのコスト面。だからロケット打ち上げがより低コストになれば、もっともっと宇宙での開発スピードは加速するはずです」

月面で水を採掘することも検討されている。飲料水になるだけでなく、水素と酸素に分離しておけばいつでも利用可能なエネルギーとなるのだ。

「宇宙開発をさらに先へ進めるためのこのような研究開発は、これからもJAXAが担っていきます。ロケットの打ち上げや人工衛星の開発にもっと民間企業が参入すれば、JAXAはより高度な研究に集中でき、月面基地の実現も近づきます。だから(民間の参入は)大歓迎なんです」

宇宙産業の最大のハードルであるロケットの打ち上げ。それが低コスト化することで、人工衛星などのハードが整い、宇宙インフラが整備され、そして新たなサービスや宇宙開発のプロジェクトが生まれていく――。

EMIRAが今回特集したベンチャー企業やJAXAによる取り組みで、そんな未来が見えてくるはずだ。

JAXAによる月の本格的な利用想像図。ロケットや人工衛星分野への民間参入により、JAXAはより高度な宇宙利用の研究に集中することが可能となる

写真提供:JAXA

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