特集

柏の葉で世界課題を解決する国際ビジネスコンテスト開催!新産業の創出なるか

第6回『アジア・アントレプレナーシップ・アワード 2017』DAY3レポート

去る10月下旬の3日間にわたり、柏の葉スマートシティで国内最大級の技術的な国際ビジネスコンテスト『アジア・アントレプレナーシップ・アワード 2017』が開催された。三井不動産、東京大学産学協創推進本部とTXアントレプレナーパートナーズ、日本ベンチャー学会による共催だ。 特集の最後に、世界課題を解決するという街の理念ともリンクした、本アワード最終日の模様をレポートする。

アジア発のイノベーションを柏の葉から世界へ!

今回の柏の葉スマートシティ特集公開期間中となる10月25~27日の3日間、柏の葉スマートシティの中核施設「ゲートスクエア」内の柏の葉カンファレンスセンター[KCC]、柏の葉オープンイノベーションラボ[KOIL]にて第6回『アジア・アントレプレナーシップ・アワード 2017(以下、AEA)』が開催された。

AEAは、産官学が一体となってアジア最先端のテクノロジーとアイデアを発展させ、世界的課題を解決するための新産業を創造する場として2012年に創設された、国内最大級の技術的な国際ビジネスコンテストだ。

毎年、アジア各国・各地域のノミネーション委員会(大学関係者やインキュベータなどで構成)により推薦された、社会的に影響力のある技術系スタートアップ企業が参加するが、6回目を迎える今年は、15の国・地域から選ばれた21社ものスタートアップ企業が柏の葉に集結。トルコ、ニュージーランドという新たな国からの参加者も加わった。

初日にはウェルカムパーティー、2日目にはメンタリングセッション(最終日のプレゼンテーションに向けメンターからアドバイスを受ける)やネットワーキングパーティーなどが行われていた。世界進出を目指す参加企業にとって、互いの国や地域のビジネス環境など有益な情報を交換したり、ネットワークを広げたりできるのは、入賞することと同じくらい大きな宝となったことだろう。

2日目には、AEA参加者を対象に「柏の葉スマートシティツアー」(第1回参照)のように街を巡るツアーも行われた

画像提供:AEA2017運営委員会

そして、いよいよ受賞企業が決定する取材に訪れた最終日、9時30分から始まった予選では21チームがそれぞれ、画像や動画などを駆使して10分間のプレゼンテーションを行い審査員に事業をアピール。プレゼン後には、審査員との間で突っ込んだ質疑応答がなされ熱を帯びた。

午前中いっぱい繰り広げられた予選の後、「新規性」「独自性」「社会への貢献度」「日本展開の実現性」「収益性」などを基準に審査員による選考が行われ、14時から発表されたファイナルセッションへ進出する6社はインド、シンガポール、韓国、中国から2社、ロシアという顔ぶれとなった。

予選(セミファイナルセッション)は、21社が[KCC]と[KOIL]の2会場に分かれ同時進行された

国際ビジネスコンテストという性質上、日本からの参加企業も含めてプレゼンテーションや質疑応答はすべて英語で行われた

5カ国・6社によるファイナルセッションがスタート

150名もの参加者、関係者、観客で埋め尽くされた[KCC]で行われたファイナルセッション進出企業の発表の場には、張り詰めた空気が充満していた。

そんな緊張感の中、発表を前にまずは共催各社・団体によるあいさつが行われた。

AEA運営委員会委員長を務めた東京大学 各務茂夫教授(産学協創推進本部イノベーション推進部長)は、「2050年にはアジアは世界全体のGDPの半分以上を占める重要な存在、アジアのイノベーションによって世界にインパクトを与えられるものを創出することがAEAの最大の目的」とAEAの意義や未来のアジアの可能性について述べる。

東京大学 各務茂夫教授(産学協創推進本部イノベーション推進部長)

続いて、会場でもある[KOIL]などのイノベーションオフィスを運営する三井不動産ベンチャー共創事業部の菅原晶部長、つくばエクスプレス(TX)沿線を中心に起業家やベンチャー企業を育成・支援するTXアントレプレナーパートナーズ理事の村井勝氏から、それぞれ組織の役割やAEAに懸ける意気込みが語られた。

登壇者も聴講者も多国籍なファイナルセッションでは、日英の同時通訳システムが用意されていた

あいさつの後、ファイナルセッション進出6社を順次発表。それぞれステージにて簡潔にコメントをすると、準備もそこそこに4人のファイナル審査員と観客に向け、最終プレゼンテーションが始められた。

トップバッターは、インドのClaro Energy社

インドでは多数を占める小規模農家に向け、太陽光による農業用灌漑(かんがい)ソリューションを提供。灌漑とは、農地にポンプで人工給水をすることで、これまでは二酸化炭素の排出が避けられないディーゼルエンジン式ポンプが用いられてきた。これに代わるこの太陽光灌漑ポンプを、導入資金が不要な従量課金方式で提供。従量課金方式を実現するために、リモートモニターなどのIoTで少額課金をオンラインで確実に回収できるシステムを構築。今後2年間で、インド国内のみならず世界各地にさらに3万台の太陽光灌漑ポンプを配備し、50万人の農村住民の生活に貢献する見込みだ。審査員から、今後のビジネスの拡張性などについて問われると、ケニアの企業との提携の例や、数百万ドルの資金投資の話が進んでいる企業の例など、同社の事業が安定してきていることを強調した。

次に登壇したのは、シンガポールのViSenze社

ファッションブランドなど小売業者向けに、特許技術のコンピュータービジョンと深層機械学習テクノロジーをベースとした画像認識システムを開発。ECサイトなどでキーワードではなく画像による商品検索を実現、検索手順を簡略化することで売り上げ増加や新規の顧客獲得に貢献している。現在、およそ2.5兆点の画像がシェアされており、90%以上の画像を探すことが可能だ。すでにユニクロや楽天市場、H&Mなど大手を含む70%の小売業が導入しており、売り上げを3.5倍以上アップさせたECサイトの実例などを紹介した。実績は十分なだけに、審査員からの質問もヘルスケアの分野にも応用できるかなど、高い関心がうかがえた。

3番手は、韓国のQUBIT SECURITY Aubit社

ハッキングの検出を5分程度と驚くべき短時間で可能にするクラウドプラットフォームを、世界で初めて開発した情報セキュリティーの専門会社だ。審査員からは、なぜリーズナブルな価格で提供できるのか、なぜ日本進出を目指しているのかという質問が寄せられた。

2社がファイナルに進出した中国からは、最初にBeijing Qingfan Yuanhang Networking Technology社がプレゼンに立つ

プロジェクトやワークショップなどをクラウドソーシングするための組織向けの管理ツール「Virtual Workshop」や「Business Intelligent」などモバイルアプリを開発している企業だ。アメリカのスタンフォード大学やオートデスク社、中国のアリババ社など300社・2万人以上の利用実績を訴求した。

もう1社は、Beijing Quality Technology社

北京大学で工学、経済、生産工学管理分野を学ぶ学生3名が起業したスタートアップ企業。ビッグデータと機械学習をベースに、小規模な大気質指標(AQI)予測システムおよび高性能空気清浄機と関連アプリを開発。現在、主に大学の宿舎向けにAIとIoTテクノロジーを基盤にした、高性能空気清浄ソリューションを提供している。

最後は、ロシアからWebgears WGT社

工業用アプリケーションやゲーム向けの3Dグラフィックスを扱う、ソフトウェアテクノロジー企業だ。製品であるグラフィックスエンジンは、インタラクティブ3Dモデリングをクラウドに移行できるため、Webブラウザ上でスマートフォンなどデバイスを選ばず使用可能。高度な3Dグラフィックが展開されるデモ動画には、会場内の随所から感嘆の声が漏れた。シンガポールやスウェーデンのスマートシティでの活用事例もあったことから、審査員からは課金モデルについて具体的な質問が行われた。

6社それぞれの熱のこもった最終プレゼンテーションの余韻を会場に残しつつ、ファイナルセッションが幕を下ろすころには午後5時を回っていた。

柏の葉のまちづくりとの関係性が強い特別賞も新設

こうしてAEAは3日間のプログラムを終え午後6時30分、受賞者発表というフィナーレへの華やかな雰囲気に装いを改めたKCCにてフェアウェルパーティーが始まった。

幕を切って落としたのは、地元の県立柏高校ブラスバンド部による生演奏。にぎやかに参加者たちをおもてなしした後、共催各社および審査員より最後のスピーチが行われた

県立柏高校ブラスバンド部の生演奏とともに、すしやスイーツなどでもてなされた

最初に登壇したのは、東京大学政策ビジョン研究センター副センター長 渡部俊也教授(大学執行役・副学長)。「AIなどの活用から新たな産業が次々に生まれ、第4次産業革命を迎えようとしている。新たなビジネスモデルが構築される中、アジアは産業の中心になっていくでしょう。東大もベンチャー企業を積極的に育てていきたい」と、未来への可能性と東京大学の役割について語った。

知財の戦略・政策の研究で著名な東京大学政策ビジョン研究センター副センター長 渡部俊也教授(大学執行役・副学長)

続いて、三井不動産代表取締役 副社長執行役員の北原義一氏からは、「AEAは人々の役に立つイノベーションで豊かな世の中を作りたいという志が強い人たちのインフラストラクチャーでありたい。三井不動産はスタートアップ企業のためにオフィスなどのさまざまな資源を提供し続けていくつもりです」と、今後もAEAを下支えしていく意気込みが述べられた。

CVCファンド設立を主導した三井不動産代表取締役 副社長執行役員の北原氏

そして、柏市長の秋山浩保氏による英語も交えたスピーチと乾杯の音頭の後、参加者たちは3日間を終えた達成感や充実感とともにリラックスモードに。おのおのが談笑を始めて間もなく、ついに各賞の発表が行われた。

3位(賞金30万円)は、ロシアのWebgears WGT社

「このアワードは、参加者同士が“競争”したのではなく“コラボレーション”したように感じます。皆さんも私たちもビジネスや利益のためだけでなく、世界をより良くしたいという目的のためにこのアワードに参加したのではないでしょうか。今後もその思いを持ち続けていきましょう」と喜びとともに思いを語った。

2位(賞金50万円)は、シンガポールのViSenze社

来場者からの投票で選ばれる「オーディエンス賞」(賞金・副賞はなし)とのダブル受賞となったこともあり、会場は歓声と共に一層の拍手が湧き上がった。「私が出会ってきた多くの人々と日本で学んだことをシンガポールにいる製品チームと共有したい」(代表者)。

栄えあるグランプリ(賞金100万円)は、トップバッターでプレゼンに立ったインドのClaro Energy社

「社会的にも利益をもたらすことができる事業であると認めてくれたAEAに感謝したい。この賞は私たちの事業を継続していく力を与えてくれる。非常に権威ある賞であり、信じられないくらいの名誉。私は主催国である日本が大好きです!」と感動をあらわにした。

入賞者には、会場から盛大な歓声と拍手が降り注がれたが、実はこの1~3位の発表に先駆け別の賞の発表も行われていた。今年から新設された、参加全21社を対象に選考される2つの特別賞だ。

一つは、柏の葉のまちづくりに役立つ技術などの採用を検討する「柏の葉賞」。もう一つは、柏の葉を拠点に新たな医薬品を開発するナノキャリア社によって、バイオ・メディカル・ライフサイエンス分野で成長する企業に贈られる「ナノキャリア柏の葉賞」。

どちらも、より柏の葉との親和性の高さがポイントとあって、この特別賞にも参加者たちの期待が寄せられた。

「柏の葉賞」(賞金15万円)に選ばれたのは、日本のゲノムクリニック社

がんなどの疾患の早期発見・予防を目的として、遺伝子的なリスクを判定するゲノム(遺伝情報の全体)の解析を一般でも受けやすい価格で提供している。代表者は、「AEAはコンペティションにとどまらず、起業家たちがネットワークを広げる貴重なフレンドシップの場でもあると感じます。ぜひこのアワードを楽しみましょう!」と会場にいる参加者たちに呼び掛けた。

「ナノキャリア柏の葉賞」(賞金30万円)に選ばれたのは、タイのAIM GLOBAL INNOVATION社

ロボット工学技術を基盤に、自閉症児向けのトレーニングプログラムを作成する際のアシスタントツールとして役立つロボットを開発。自閉症専門の療法士が、自閉症児に対して不足しているという課題解決に結び付くと期待されている。「タイにはたくさんのイノベーションが存在している中、このような賞をいただけて大変誇りに思う」と代表者は喜びを語った。

なお受賞企業には賞金のほか、三井不動産が運営する31VENTURESオフィスのコワーキングスペースを2年間・3名分使用できる副賞が進呈された。

晴れやかな受賞者たちの発表を終えるころには、時刻は午後8時に差し掛かっていた。最後に、審査員の総括のスピーチで熱い一日は締めくくられた。

フュージョン・システムズ・ジャパン社会長のマイケル・アラファント氏からは、「どのチームも素晴らしく、最後まで選定に迷った」とコメント。また、日本ベンチャー学会の松田修一氏からは、「今後の少子高齢化という課題に向かう日本にとって、ベンチャー企業の皆さんと協力していくことに期待したい」というコメントが述べられた。

新産業創出のエネルギー、柏の葉にあり!

第3回には、東大フューチャーセンター推進機構の特任研究員 佐藤知正氏より社会変革をもたらすイノベーションにとってのコンテストの重要性を伺った。

入賞した企業は今後、日本も一つの拠点に、世界的課題の改善に取り組む気鋭のスタートアップ企業として一層の成長を見せてくれることだろう。また、新設された柏の葉賞とナノキャリア柏の葉賞を獲得した企業と、柏の葉スマートシティとの新たな取り組みや事業展開にも注目していきたい。

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