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特集
生物エネルギーの真価

省エネ動物の体感時間に学ぶ高効率な生き方

ナマコのエネルギー効率の高さは人間の100倍以上だった!?

生物にまつわるエネルギーの真価を問う本特集において、あらためて見直すべきは、生物たちそのもののエネルギー構造についてだろう。われわれヒトよりもエネルギー効率のいい生物とはなんなのか?今回は東京工業大学名誉教授であり生物学者の本川達雄氏と共に、生物の可能性を考えていきたい。

ハツカネズミが必要とするエネルギーはヒトの10倍

日の出から次の日の出までが1日で、その長さは24時間。これが365日集まると1年となり、逆に1日の24分の1が1時間で、その60分の1が1分となる。

これは、小学生でも知っている常識だと思うだろう。だが、東京工業大学名誉教授であり、生物学者の本川達雄氏は、「時間の長さは生物によって異なる」という。

「ヒトは時間を感じ取れているつもりでいますが、実は感じ取れていないのです。光は目で感じ、音は耳で感じ、暑さ寒さは肌で感じますが、時間はどの器官が感じ取れていますか?日の出、日の入りで一日の始まりや終わりを感じ取れると思われているかもしれませんが、それは光の明暗を目が感じ取っただけの話で、時間を感じているわけではないかもしれないのです。

普通、時間は全てのものに共通のもので、同じ速度で一方向に流れていき、決してもどらないものと思っていますね。これが古典物理学における絶対時間という考えです。そういう時間があるかどうかを、私たちは自分の体で感じることはできないと(哲学者イマヌエル・)カントは述べており、それは正しいと僕は思います。

古くは(哲学者の)アリストテレスが時間について深く考えていますが、彼によれば時間には前後があり、その前後にはさまれた間に、変化がいくつ起こったかが時間の長さだとしています。たくさん変化が起これば時間がたくさん経ったと感じるのであり、その変化の数を数えている器官が心臓なのだと言います。心臓が時間の感覚器官という考えはどうかと思いますが、心臓の拍動が動物の時間と大いに関わっていると僕は考えています」

生物の体の大きさにかかわらず、2つの指標(例えば身長と体重)の間に成立する両対数線形関係「アロメトリー」を本川氏が分かりやすく解説した『ゾウの時間ネズミの時間』は、ベストセラーになった

「時間」とは、時の流れの一点から一点の間の長さを指すが、年や月、週、日、時、分、秒という時間の単位は、人為的に作られたものにすぎない。時間とは“誰しも平等に与えられたもの”という感覚からは、“生物学的な時間”は真新しい概念に映る。

「ハツカネズミの心拍数は平常時で1分あたり300回、興奮時には700回近くに達します。対してヒトの心拍数は60~70回/分。さらにその呼吸数も、ハツカネズミが60~200回/分なのに対して、ヒトは17~18回/分。つまり、ハツカネズミの心拍数はヒトの5~10倍速く、呼吸数は3~11倍多いことになります。

一般に、小動物の心拍数や呼吸数は小さければ小さいほど大きくなります。それは、体重当たりのエネルギー消費量が、体の小さいものほど大きくなるからです。エネルギー消費量、つまり代謝率ですね。体の中での化学反応の速度ということであり、これはアリストテレス的に考えれば時間の速度です。だから化学反応がすばやく起こっているということは、時間がすばやく流れているということに対応します。つまり、時間の速度とエネルギー消費量とが比例してくる。これが僕の考えです。

ハツカネズミが必要とするエネルギーはヒトのおよそ10倍です。すなわち、10倍のスピードで体内での変化も起きているということになります。となれば、ハツカネズミが感じている“時間”は、ヒトの10倍速いはずです。

時間は身体の外側で流れているものだけではなく、体内で流れている時間もあります。なぜ、このような話をするかというと、生物とエネルギーを語る上で、時間の概念は非常に重要になるからです」

その小さな体でヒトの10倍のエネルギーを消費するハツカネズミ

©@flickr_motoshi ohmori

「生きること」は「エネルギーを使うこと」

生物学の世界において、ヒトや動物などの多細胞生物の死は、細胞と組織、個体でそれぞれ区別されている。ヒトは約60兆個の細胞から成り立っているが、そのうち約3000億個の細胞が日々死に続けている。そして、その一方で死んでいく細胞とほぼ同じ数の細胞が誕生して、生体の恒常性が保たれている。

「生物の体は日々壊れているので、エネルギーを使って新しくしていかなければならない。この“エネルギーを使って続いていく”ということこそが、生きているということなのです。そして、生物は目的をもって生き続けています。“生き続ける”ということを目的としてきたからこそ、生物は38億年も存在し続けているのです。

“生き続ける”ということを考える時、『誰が生き続けているか?』ということが重要になります。僕は、生物とは『私』がずっと続くものだ思っています。続くことが生物の本質であり、生物が持つ目的と言えると考えているんです。体は使い続ければがたがきます。だから日々細胞を更新するのですが、それでもどうしようもなくがたがきます。そこで、がたがたになった体は捨てて、体をを全面的につくり換える、それが子をつくるという作業です。

こうして、子として生まれ変わって続いていくのが生物だと僕は思っています。もちろん、『子』は『私』そのままそっくりのものじゃないから、厳密に言えば『私』は続いていないわけですが、ここが生物の生物たるところ。なぜそっくりにつくらないかというと、環境が変わってしまうからです。今の私のままでは環境が変わったら生きていけません。

そこで、自分によく似てはいても、ちょっとだけ違う子をいろいろつくれば、どれかは生きていける。そういう戦略で生き続けてこれたのが生物です。生物の誕生以来38億年。そんなに続いているものなど、ありますか?生物は、泣く泣くではありますが、ちょっと違う子も私、孫も私とみなすことにより、私をずっと続けようとしてきました。こういう連続する私を『私』とすれば、『私』は不死なのです。

子をつくるには多大なエネルギーがいります。そこで世代交代の速いもの、つまり体の小さな動物はたくさんのエネルギーを使うことになり、結局、時間の速度とエネルギー消費量とが比例することになるのだと僕は理解しています。

地上で生息する鳥類と哺乳類などの恒温動物は、海洋で生息する魚類などの変温動物に比べて、10倍のエネルギーを使います。これは地上では日向と日陰、朝晩と昼で気温が大きく違いますが、外気温とは関係なく体温を一定に保たなければならないから。つまり、体内の化学反応の速度を一定にキープしているのですが、これは時間の速度を一定に、しかも速く保っていることを意味していると僕は解釈しています。恒温動物がこれほどエネルギーを使ってもそうしているのには、そうすればいつも予測通りの行動がすばやくできる大きな利点があるからでしょう。

一方で、外気温の変化に合わせて体温を変える変温動物のナマコは、ヒトの100分の1しかエネルギーを使いません。言い換えれば、栄養価がヒトの100分の1でもナマコは生存できる。つまり、非常に栄養価の低いものも食べものにできるということです。ナマコは砂を食べています。砂なら周囲にたくさんあり、食べものを探す必要がありません。ナマコはきわめて省エネの動物です。省エネに徹すると、食うに困らない楽園のような暮らしを実現できるんですね。

ほとんど栄養を必要とせず、エネルギー消費量も限りなく少ないナマコは、最強の“省エネ生物”と言えるのかもしれない

©@flickr_Kentaro Ohno

体の小さなものほど、体重当たりにすればたくさんエネルギーを使うと言いましたが、個体当たりのエネルギー消費量を比べれば、やはり体の大きなものほどエネルギーを使います。エネルギー消費量は体重の3/4乗に比例して増えることが分かっています。現代日本人は、体が消費する量の30倍ものエネルギー消費量を電気やガソリンの形で使っています。この消費量を、体重とエネルギー消費量の関係式に当てはめると、体重がゾウ並みだと計算できます。

僕は、人類はエネルギーの大量消費により、地上の楽園つくろうとしているとみなしています。でも、東日本大震災や地球温暖化という事態を考えると、今のやり方で楽園が実現できるのか、はなはだ疑問だと思うのですね。それに対して、ナマコは省エネに徹することにより、現実に楽園を実現しています。ナマコに学ぶことは非常に多いと僕は思っていますよ」

生物学とは別の話になるが、先端技術の世界には、生体の持つ優れた機能や形状を模倣し、工学や医療分野に応用する、バイオミメティクス(生物模倣)と呼ばれる分野が存在する。その模倣は、より速い、より軽く、よりなめらかにと、効率を意識しがちだ。しかし、時に速い必要はなく、遅く重いことの方が重要で、ぎこちなくともただただ長く動き続けることが必要なこともあるだろう。一見、一日3mしか動けないナマコよりも海を泳ぎ回る魚たちの方が優れているように思えるかもしれないが、実は、魚たちよりも省エネで、かつ長く生き続けるという点ではナマコの方が優れている。

われわれが目指すべき真のエネルギー効率とはなんなのか?彼らは今日も、じっとしたまま訴えかけてきているのかもしれない。

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