特集
“クルマ”と“人”が創る新たな社会

NTTドコモがカーシェアに参入する理由

Shared&Services(共有化&サービス)の今

クルマ社会が目指す未来を示す言葉“CASE”【「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Services(共有化&サービス)」「Electric(電動化)」】の3つ目のキーワード「Shared&Services」。時間貸し駐車場サービスのタイムズやレンタカー大手のオリックスなどが進めるカーシェアリング事業だが、2017年末にNTTドコモもサービスを開始。通信事業大手の同社がなぜクルマを扱うのか?その意味と意義を聞いた。

カーシェアリングとレンタカーでは何が違う?

そもそもカーシェアリングとは何なのか──。

クルマを共同使用するサービスだが、不特定多数のユーザーが利用できる「レンタカー」に対し、カーシェアリングはあらかじめ利用登録した会員が利用できる。

カーシェアリングの詳細画面。カーシェアリングは「15分単位」程度から借りることができるので、近所への買い物など“自分のクルマのように”使いたいだけ使えるのが特徴

画像提供:株式会社 NTTドコモ

一般的には、以下のような違いがある。

■レンタカー
・誰でも利用できる
・借りるときは事前に予約を入れ、当日レンタカー事業所に出向く。必要書類などに記入し、クルマを借りる
・借りる時間は3時間程度以上の長時間利用がほとんど
・自動車保険料をレンタル料金とは別途支払う
・返却時には、使用した分のガソリン代を負担する

■カーシェアリング
・事前にカーシェアリング事業者に登録する
・借りたいときにスマホなどで予約を行い、カーシェアリング用のクルマが止まる駐車場に出向いて利用する
・借りる時間は10分単位から設定されているところが多い
・自動車保険料、ガソリン代ともに利用料に含まれている

カーシェアリングの発祥はスイスといわれている。

クルマ社会が進展した1980年代、大量のクルマが都市部に流入すると環境問題や騒音問題が引き起こされた。その結果、人々は都市部から郊外へ出て行くことになり、街の荒廃が進んだ。これに苦慮した行政が公共交通機関の充実を図るとともに、整備を推し進めたのがカーシェアリングだった。

具体的には人々が住む郊外から都市部へのアクセスを、公共交通を中心としながらも、その補填にカーシェアリングを活用したのだ。整備が急成長したスイスでは、現在、国民40人につき1台の割合でカーシェアリング用のクルマがある。人口あたりの普及率は1%以上と世界でもダントツだ。※他国は0%台

このスイスでの成功事例を受け、さらに前述の“借りやすさ”や“お得さ”というメリットがサービスとして付加されていく中で、カーシェアリングはヨーロッパ全土、アメリカ、そして日本へと拡大しつつある。加えてカーシェアリングが普及することで自動車全体の数が減少し、都市の交通渋滞や駐車場問題が緩和。さらにCO2削減による地球温暖化防止といったこともメリットとして期待され、今後の動向が注目されているのだ。

なぜNTTドコモがカーシェアに参入?

クルマを共同利用するカーシェアリングだが、これに通信事業者であるNTTドコモが参入すると発表したのは、2017年10月に行われた新モデル発表会の席上だった。

サービス名は「dカーシェア」。NTTドコモが展開するdマーケットなどにアクセスするための「dアカウント」を使用し、専用のスマホアプリで車両の検索・予約・決済(レンタカーは除く)が行えるのがポイントだ。

「われわれにはライフサポートビジネス推進部という部署があります。コンセプトは、お客様の生活、人生に役立つサービスを提供していくこと。いくつもあるテーマの中で“シェアリング・エコノミー”に着目し、まずは2015年にドコモ・バイクシェア社を設立しました。東京都内で展開する自転車シェアサービスです」

そう説明するのは、NTTドコモ ライフサポートビジネス推進部モビリティビジネス担当の伴野聡主査だ。

NTTドコモ ライフサポートビジネス推進部モビリティビジネス担当の伴野聡主査(左)と中村誠氏

ドコモ・バイクシェアは現在、都内10区でサービスを展開。約400カ所のサイクルポートがあり、携帯電話料金やクレジットカード支払い可能という気軽さもあり、利用者数は増加傾向にある。

しかし、その成功事例があったとはいえ、なぜクルマを扱うことにしたのか。例えば、自動車メーカーがクルマの購買につなげるために“まずは乗ってみてほしい”とカーシェアリングを行うなら理解できる。

しかし、NTTドコモは通信事業者だ。

「NTTドコモ全体の思いとして、携帯電話事業でこれまで培ってきた顧客基盤や決済基盤を活用し、より多種多様なサービスを提供したいということがあります。それによってお客様により便利で、より快適な生活を過ごしていただくことを目標としているわけです。ドコモ・バイクシェアはその具体的な施策であり、dカーシェアも同じ。クルマを使えば生活はより便利になり、人生も楽しくなるということを伝えたい。そうして行動の幅が広がれば、その先のサービスにもつながっていきますから」

そして「将来的には公共的なインフラになっていければ」という。

「携帯電話自体、既にインフラのようになっています。同様にモビリティの分野でもインフラとして成長させていきたいと考えています」

携帯電話が現代人の生活になくてはならないものとなったように、カーシェアリングも成長していくことを期待しているという伴野主査。では、そのためにNTTドコモはどのような仕組みを作ったのか。

日本初の総合カーシェアプラットフォーム

カーシェアリングは、既に日本でもレンタカー大手のオリックスや時間貸し駐車場大手のタイムズが展開している。それらに対してdカーシェアの特徴を説明してくれたのは、同部署の中村誠氏だ。

「最大のポイントは、事業者所有のクルマを共用する“カーシェア”、個人所有のクルマを共用する“マイカーシェア”、そして通常の“レンタカー”と、3形態をまとめて使える日本初の総合カーシェアプラットフォームであることです。

dアカウントを一つ登録していただければすべて利用でき、スマホアプリで車両検索・予約から決済まで行います。NTTドコモユーザーであれば携帯電話料金と一緒に、他キャリアのお客様はクレジットカードで決済します」

3つの形態を一つのアカウントで管理し、利用できることがdカーシェアの最大の特徴だ

画像提供:株式会社 NTTドコモ

月額基本料金は不要だという。カーシェアリングを利用するには会員登録と月額基本料金を必要とするサービスが一般的だが、dカーシェアはその一つを不要とした。利用時間の料金は15分220円~となり、文字通り“乗る分だけの料金”とすることで、料金的なハードルを下げたわけだ。

サービス対象エリアは当初から全国に対応。レンタカーはオリックス、トヨタ、ニッポン、日産など全国のレンタカー事業所が使用できる。個人オーナーのクルマを共用するマイカーシェアは、全国でオーナーの登録が進んでいる。カーシェアについてはオリックスカーシェアとの協業だ。そのため現在は、同社のサービス範囲内での提供となる。

より使いやすくするために、スマホアプリの設計にもこだわった。

dカーシェアのアプリの検索画面。人の顔のイラストがマイカーシェアを、それ以外はカーシェアやレンタカーを示す。タップすると借りることができるクルマの詳細(マップ下の情報)を見ることができる

画像提供:株式会社 NTTドコモ

「カーシェア、マイカーシェア、レンタカーを一回の検索で全て表示し、お客様が選びやすいように工夫しました。ですので、普段使いのコンパクトカーはカーシェア、デートのときに借りたい高級車はマイカーシェア、旅行用に長くリーズナブルに借りたいときはレンタカーと、気軽に使い分けていただけます」

利用の際、レンタカーとマイカーシェアはクルマのキーの受け渡しが必要だ。しかし、カーシェアの場合はそれさえもスマホで行う。

「アプリで予約をしていただいたら、停車しているところを確認し、現地に向かいます。クルマに到着したらスマホを使って開錠していただき、車内に用意されているクルマのキーを使ってください。返却時は、その逆をしてもらえればいいんです」

総合カーシェアプラットフォームとすること。そして、スマホを使って予約から決済、さらにクルマの受け渡しまで一括してできるようにすること。そこまでこだわり、カーシェアリングに乗り出したNTTドコモ。その背景には、“まずは文化としてカーシェアリングを定着させたい”という思いがあった。

カーシェアリングのマナーについて理解してもらうためのガイドブックも作成。「マイカーシェアなら、利用の際には感謝の気持ちを伝えましょうというところまで書かせてもらいました」と伴野主査

生活をより豊かにするためのクルマ

「メインのターゲットとして捉えているのは、20~30代。いわゆるクルマ離れといわれている世代です。特に都市部に生活の拠点を持っている方々は、日常的にクルマを使う機会が少ない。でも、そういう方にこそクルマを運転してもらい、その楽しさや利便性を味わっていただきたいと思うんです」

クルマがある暮らしの快適さを知ってもらうことで、ライフステージ全体のアップデートにつながっていくという思いが、NTTドコモにはある。今回の特集のキーワードとなっている“CASE”のうち、「Connected(コネクテッド)」や「Autonomous(自動運転)」の分野においてもNTTドコモが積極的な関わりを持っているのはそのためだ。

「社内の別の部署では、AI(人工知能)タクシーやAI運行バスを開発し、実証実験も行っています。今後、ますます多様化していくモビリティの中で、コネクテッドカー推進室が開発したものをわれわれの部署で活用していくこともあるでしょう。また、他社様と連携していく可能性もあります。どのような運用ができるかはこれから探っていくことになりますが、ベースとなるのは“快適な暮らしを提供する”ということです」

カーシェアでクルマのドアを解錠する場合、このように車外から見えるところにあるリーダーにスマホをかざすだけ

画像提供:株式会社 NTTドコモ

そう語る伴野主査は、今はそこに向けて、それぞれができることをやるべきタイミングだという。

「まず目指すのは、カーシェアリングを文化として定着させることです。われわれが行ったアンケートでは、“カーシェアリングを知ってはいるが、使ったことはない”という人が大半でした。ただ、使った経験のある方からは“便利だ”という声が多く寄せられています。

なぜ、その利便性の良さが普及していかないかといえば、やはり使うまでのハードルが高いから。だからわれわれは月額基本料を無料とし、一つのアカウントで用途に応じた3形態から選べるプラットフォームを用意し、予約から決済まで一括管理できるシステムを作りました。

さらにいえば、24時間対応するコールセンターを用意し、カーシェアリングを利用いただく際のマナーについても提案しています。もちろん、それで十分だと思っているわけではありません。お客様の心理的なハードルを下げるための努力を、もっとしていく必要があるでしょう。

それをしてでも“クルマを買わなくても使う方法があり、それによって生活の可能性が広がっていく”ということを、より多くの人に伝えていきたいですね」

NTTドコモがカーシェアリング事業に参入すると発表してから約2カ月後。トヨタがカーシェアリングをはじめとする新たなモビリティサービスの開発と提供を目指す新会社の設立(2018年4月1日)を発表した。トヨタはその理由を、「従来の“所有”だけでなく、シェアリングなどクルマの“利活用”のニーズが高まる中、その変化に対応するのはもちろん、掘り起こす付加価値の高いサービスの提供が必要である」と説明している。

100年に一度の大変革期を迎えているといわれる自動車産業。新たなモータリゼーションの指針は、自動車メーカーはもちろん、NTTドコモのような異業種をも巻き込みながら生まれていく。

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