特集
5Gからの招待

5GがAIとロボットを進化させる

大容量データ解析、正確な送受信、通信革命が秘めるストロングポイント

本特集第1回では、都市や自動車などさまざまなモノの概念を変える新たな通信規格「5G」についてお伝えした。この5Gが実用化されることで、それら以上に恩恵を受けるのが、近年話題の人工知能(以下、AI)とロボットの分野だ。産業、ひいては社会のヒトやモノ、エネルギーの構造を変える可能性があるこの2大技術。今回は、5Gによって変わるAIとロボットの未来を、各国企業の開発技術を基に見ていこう。

世界が注目するNECの画像認識AI

「5G=通信革命」の到来は、昨今話題となっているAIやロボットにも大きな変化をもたらすことは明白だ。

そもそも5Gを実現しようという各国政府、通信各社の試みは、爆発的に増加するロボットなどのハードウェアやIoT端末同士を効率的に連携させたり、そこで生み出される膨大なデータを滞りなく行き来させたりすることを目的としている。つまり、AIやロボットを社会インフラの礎、もしくはキーテクノロジーとして活用するために、5G環境の実現が推進されていると言っても過言ではない。

実際、2018年2月に開催された世界最大の携帯電話見本市「Mobile World Congress 2018(MWC2018)」(スペイン)の会場では、5G自体に関する展示だけではなく、通信革命時代の主役になるであろうAIとロボット関連の出展も目立っていた。今回はそれらかのいくつかを紹介しよう。

まずは、MWC2018で大規模なブースを構えていた日本のNEC。自社が誇る世界トップクラスの「画像認識AI」を展示していた。

NECの画像認識AI は、米国立標準技術研究所が実施したテストで、4回連続の世界一を獲得。その実力は、今話題の「パブリックセーフティ」の面から大きな期待を集めている

NECが画像認識AIの活用を進めているのは、主に「パブリックセーフティ」と呼ばれる分野だ。パブリックセーフティとは、AIやビッグデータなど最新テクノロジーを駆使して、犯罪・事故・テロを防止しつつ、 街を災害や環境汚染などから守ろうというコンセプト、ビジネスを総称する言葉である。

NECが開発したAIを搭載した製品およびソリューションは、すでに実働している。海外の自治体や治安機関、大規模イベントなど70カ国、700システムに採用されており、その顔認証の精度は、米国立標準技術研究所から「世界で唯一99%以上」というお墨付きを得た優れものである。

例えば、約160万件の画像から、顔を認証して特定対象を見つけ出すのに要する時間はわずか0.3秒。また、「ペイント・整形」「障害物による見切れ」「多人種」「低解像度」といった不利な環境にも対応しており、解析した映像データから人々の動きを予測する「群衆行動解析技術」(行動検知AI)も持ち合わせている

NECによれば、同社の街中監視システムを導入したアルゼンチン・ティグレ市では、5年間で車両盗難が80%も減少。また、インド・スートラ市警察に導入されたシステムは、犯罪発生率を27%低下させ、約150の事件解決に寄与しているという。

AI技術を発展させる大容量データの扱い方

AI技術は、上記の画像認識、行動予測だけでなく、異常検知、運動の習熟(ロボティクス)、自然言語処理など、さまざまな用途での利活用が期待されている。

画像認識技術を例に挙げるならば、ウェブ検索における利便性の向上だけでなく、がん診断など医療用途、不良品検知などの産業用途、防犯・監視などのセキュリティー用途などで期待されており、さらに行動予測、ロボティクスの運動学習などを組み合わせることで、交通の混雑解消や物流の効率化など理想的な“スマートシティ”を実現するツールにもなりうる。

それらAIはもちろん、特に昨今話題のディープラーニング(深層学習)といった技術の発展を支えるものの一つが、「データ」だ。一概にデータと言っても、ウェブ上の画像など「デジタルデータ」、SNS上の「ソーシャルデータ」、町や施設、工場などに設置されたセンサーやIoT端末、ロボットから収集される「実世界データ」、自治体などが保有している「オープンデータ」、顔画像や指紋、虹彩など「生体データ」と、その種類は多岐にわたる。

当然、そのデータ量は非常に膨大であるため、効果的な処理のためにはCPUやGPUなどハードウェア部品はもちろんだが、通信技術の発展が非常に重要とされている。

韓国通信大手・KTの展示。KTは5Gのユースケースとして大規模なAI監視カメラソリューション「GiGAeyes」の展示を行った

MWC2018の会場で、特に多くの来訪者を集めた韓国通信大手・KT関係者は、AIとデータ、そして5Gが掛け合わさったときの可能性を、次のように説明する。

「5Gには低遅延という特徴があります。大容量のデータをタイムラグなしで送れるというメリットは、スマートシティやリアルタイム監視、コネクテッドカーなどを支えるAI技術を発展させる上で大変重要です。なお5Gには、送受信されるデータの不慮の消失が少ないという長点もあります。例えば、自動走行車が動く際に、さまざまなデータを吸い上げながら走行していると想像してみてください。もしそこで、急に何かのデータが消失してしまったら、非常に危険ですよね。そのように、存在するデータを正確に収集できるというのも、5Gの強みの一つだと思います」

通信スピードの低遅延がもたらすロボット市場の急拡大

一方、MWC2018では、日本の大手産業用ロボットメーカー・DENSOも展示を行っていた。同社が公開したのは、従来の産業用ロボットよりも小型化され、製造業以外の産業で使用を想定した「人協働ロボット」だ。DENSO関係者は言う。

「実は通信系のイベントに出展するのは、弊社で初めてのこと。ハードウェアやソフトウェア、もしくは通信という枠を超えていくことが、新たなイノベーション、ビジネス創出の源泉だと考えています」

DENSOが展示していた「人協働ロボット」。会場では小さいボールペンを器用に組み立て、来訪者の関心を集めた

5Gの実現など通信技術が発展すれば、産業用ロボットや協働ロボットにも新たな可能性が開ける。ロボットの小型化やポータビリティ性向上をもたらす「ワイヤレス化」、そして中小企業やコンシューマー向けの製品を可能にする「汎用化」が起こるからだ。

従来の産業用ロボットは、人間への安全性、また安定的な稼働を担保するため、太いケーブルでつながれていたり、柵で仕切って使用されたりすることが“常識”だった。当然、大規模な製造業以外の業種、また中小企業ではコスト的にも効率的にも運用が難しくなる。だが、5Gによって滞りない無線通信操縦が実現すれば、部品の多くを削減して小型化することができ、結果、近年需要の拡大が期待されている三品産業(食品、医薬品、化粧品)といった新たな市場への積極的進出にも現実味が帯びてくる。

さらに、MWC2018が予告した「5G時代」が到来すれば、AIやロボット製品が享受できる恩恵は、小型化や汎用化、ポータビリティ性向上にとどまらないだろう。前述した5G通信の特徴の一つである「低遅延」は、人間とロボットをより緊密にシンクロさせ、協業の範囲を広げてくれる可能性を秘めている。

NTTドコモは、その「低遅延」という特徴に着目し、人間の動きにリアルタイムで連動する「書道ロボット」を展示。モーションキャプチャー技術が活用されたこのロボットは、人間の頭や腕、足、腰など全身17カ所、両手24カ所に取り付けられたセンサーから1秒間に60回にわたって動作情報を受け取り、人間と同じ動きをスムーズに再現する仕組みだ。

NTTドコモが展示していた「書道ロボット」。人間のオペレーターの動きに指先までシンクロする高い機能を備えていた

5Gは既存技術に比べて、データの遅延を数分の1、数十分の1というレベルまで軽減できるとされている。NTTドコモ関係者は、「遠隔医療や災害現場で稼働するロボットに発展させる」と、その可能性と意義を強調していた。

各社が描く未来像から、5Gなど通信技術のイノベーションが、ロボティクス、データ、AIなど、あらゆるテクノロジーを支えるインフラとなることは容易に想像できるだろう。例えるならば、5Gはヒト・モノの情報を伝えるために張り巡らされた社会の強力な“神経網”。「人間」「機械」「社会」が一体化し、より有機的に結びつくような現実的なSF世界は、すぐそこまで迫っているのかもしれない。


<2018年4月30日(祝)配信の【第3回】に続く>
第3回:異次元のシンクロ率!NTTドコモが実現したリアルタイム連動ロボットの実状に迫る

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