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ロボットが隣人になる日

酒を酌み交わして“充電”するロボットとの生活

ロボットの未来を作るアルコール燃料電池…変わる動力源

ロボットを身近なパートナーに…そんな未来を実現させるため、ロボットをいかに効率的に動かすかという研究に期待が寄せられている。これまで2週にわたって「構造」や「素材」を改良する研究者たちの試みを紹介してきたが、第3回はロボットの新しい動力源として、燃料電池の可能性に着目する群馬大学理工学部環境創生理工学科・中川紳好教授の研究に迫る。

水素からメタノールへ!「燃料電池」はロボットにも使える

「われわれが理想とする燃料電池が完成すれば、人間とコミュニケーションを取るロボットの普及が、より一層進むはずです」

そう語るのは、群馬大学理工学部環境創生理工学科の中川紳好教授。教授の研究室では現在、燃料電池の基礎から装置開発まで、幅広い研究を行っている。

そもそも燃料電池とは、水素やアルコールといった燃料を電気化学反応させて電気を生み出す装置を指す。“電池”という言葉からは乾電池やバッテリーのような「電気をためる装置」のイメージが湧きがちだが、燃料電池は “発電設備”という定義がより正しいものとなる。

現在、自動車などの分野ですでに実用化が進む燃料電池には、主に水素が燃料として使われている。一方、中川教授らが研究を進めるのは、アルコールランプなどに用いられるメタノールを燃料として使った燃料電池だ。

「燃料電池に燃料として利用され始めている水素は気体。そのため、まずはタンクにためておく必要があります。しかも高気圧で圧縮してエネルギー密度(一定の燃料容積または重量あたりの発生エネルギー)を高めなければ、燃料としては効率的に使えません。当然、その圧縮水素をためておくタンクや、充塡(じゅうてん)する機器も作らなければならないのですが、それらのコストは決して安くありません」

話は少しそれるが、昨今、一部の都道府県では、ガソリンスタンドならぬ、水素自動車に燃料=水素を補充する、“水素スタンド”の設置が徐々に進んでいる。その数は、全国で約80基になるそうだ。ただ、水素スタンドはタイプによっては2億円ほどするそうで、なかなか普及には至っていない。

「一方、メタノールは液体で、簡単にためておける。しかも、エネルギー密度という観点から考えると、非常に高いという特徴があります。メタノールの場合、圧縮水素の約6倍、また電気自動車やPC、携帯端末機器などに搭載されているリチウムイオン電池の約10倍のエネルギー密度があると試算しています」

メタノールもアルコール分が分解されると水素を発生させるため、水素との違いはためておく形が「気体」か「液体」かの差だ

ブームから一転…まだ市販化されない理由

とはいえ、「メタノール燃料電池もまだまだ万能ではありません」と、中川教授は話を続ける。メタノール燃料電池は2002~04年ごろ、携帯電話などのバッテリーとして実用化できそうだという期待から、関係各所で研究が盛んに行われた。が、結果的に期待するほどの性能が得られないということで、多くの企業は開発から手を引いたという。

「問題は大きく2つ。1つは、燃料電池の主な要素となる膜、専門用語では電極接合体と呼ばれるのですが、それをメタノールが素通りしてしまうことです。簡単に言うと、電気を生まずに空気と反応して熱になるだけ。結果的にエネルギー効率が下がってしまうという問題があったのです。われわれはその現象を、メタノールクロスオーバーと呼んでいます。もう1つは、メタノールを燃料にすると、水素に比べて電極の反応速度が遅くなる。つまり、発生する電流が少ないという欠点がありました」

中川教授は、そのメタノールクロスオーバーと電極の反応速度を高めるため、燃料電池の構造や、使われる素材に改良を加え、その研究成果を基に現在、燃料電池にメタノールの液体を注ぐだけで発電できる「パッシブ型燃料電池」などの試作品を、企業と提携して開発している。現状の研究成果でも、「レジャー用小型電源、離島や海上などでの通信・観測機器電源、また災害時の非常用小型電源などとして利用できる」という。

「メタノールクロスオーバーや電極の反応速度の問題をクリアできれば、人間と生活を共にする家庭用ロボットにも搭載できるのではないかと考えています。しかも、相性は良いはず。人間の生活を支援するロボットは、まず無停電かつ無停止で動くこと、もしくは充電するのに時間がかからないという条件が必要になってくると思います。性能が良くても、使いたいときに使えないとなると、あまり意味がない。また、騒音が少ないというのも非常に重要。横にいるロボットがうるさいと、人間にとっては大きなストレスになるからです。メタノール燃料電池は、電圧や発電量さえが上がれば、それらの条件に適したものになるはずです」

空気を電極に強制送風するタイプの「セミパッシブ型」燃料電池。中心の黒い部分は、燃料電池の要素となる「電極接合体」を何層にも重ね合わせたもの

家庭用ロボットと酒を酌み交わす!?

現在、ちまたで利用されている「ルンバ」や「Pepper」、またドローンなどは、コンセントや充電機を通じてバッテリーに電気をためて使用するというのが一般的。しかし、もし今後メタノール電池の改良が進めば、ロボットを動かす燃料の選択肢が広がっていく可能性がある。

ロボットが家庭内などで頻繁に移動する未来を想像したとき、コンセントに接続するタイプは行動範囲が制限され、リチウムイオン電池などバッテリー搭載型だと充電に時間がかかってしまう。それらと比べると、メタノール燃料電池はロボット内に搭載された容器にメタノールをつぎ足せば、それだけで充電が完了するため、実用度が高いかもしれない。加えて、燃料漏れなどトラブルがあった際でも、燃料はアルコールなので、お酒が垂れたくらいの被害で済むと安全面でも信頼がおけるだろう。

「社会に登場してくるロボットにもいろいろなタイプが想定できます。倉庫や介護現場などで、人やモノを運ぶロボットを動かすには、相対的に高いエネルギーが必要になるでしょうし、現状のメタノール燃料電池では電圧がまだまだ足りません。しかし、見守りや通信など、限られたタスクをこなすロボットに搭載するのであれば、現状で開発されたものでも有効なはずです」

人間とロボットが共生する未来。燃料電池というテーマから、中川教授が見据えるそれは、非常に具体的かつユニーク。まるでアニメやSF映画のような面白さがある。

「個人的には、一日の最後に人間同士がアルコールを酌み交わすように、ユーザーがロボットにメタノールを注いで充電してあげるような未来を想像しています。そうなれば、ただの充電作業ではなく、人間とロボットの感情的な交流も生まれてくるかもしれません」

中川教授が開発中の各種燃料電池。手前は、(株)ケミックスと共同開発した「携帯電子機器充電用燃料電池」で、将来的にはロボットに…と構想を聞かせてくれた

現在、メタノールよりさらにエネルギー密度が高く、安全面でも人体に影響がほぼないエタノール燃料電池の研究も進める中川教授。ロボットが急速に普及する昨今、新しいエネルギー問題を解決するアイデアが生まれるのか。その研究の動向に注目したい。

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