特集
ビッグデータ・オブ・サッカー

NECが目指すサッカースタジアム中心の新たな街づくり

防犯とおもてなしを兼ね備えたスタジアムソリューションの未来

6月14日、「2018FIFAワールドカップ ロシア」が開幕した。4年前の前回大会では、治安が心配されたブラジルでの開催に際し、日本のNEC(日本電気株式会社)が試合会場となるスタジアムのソリューションを担当。犯罪や暴動を防ぐために、大きく貢献したという。そんなNECのスタジアムソリューションは、今なお進化を遂げている。現在、そして2020年に向けてNECがどのような取り組みをしているのか、話を聞いた。

サッカーの観客を守る世界一の生体認証

ついに開幕した「2018FIFAワールドカップ ロシア」。サッカーファンにとっては興奮で眠れぬ夜が続くこと必至だが、今回は視点をもう少し広げ、大会運営にフォーカス。このような大規模イベントに集まる人々が生み出すエネルギーのうねりを、テクノロジーでコントロールする“裏方”に目を向けてみた。

話を聞かせてくれたのは、NECでスタジアムソリューション事業を担当する東京オリンピック・パラリンピック推進本部の西條芳克氏と山際昌宏氏だ。

NECは過去に、ブラジル・ナタル市のドゥナススタジアムやコロンビア・メデジン市のエスタディオ・アタナシオ・ヒラルド・スタジアムといったサッカースタジアムをはじめ、英国、インドネシアなど10カ所の大型スタジアム建設において、ICT(情報通信技術)およびネットワーク設備を「トータルインテグレート」する事業を受注してきた実績を持つ。

トータルインテグレートとは、スタジアム運用に関する全てのシステムを設計・管理し、効率的に稼働させる業務。言い換えれば、自社や各メーカーの製品を組み合わせて最適なシステムを構築する、スタジアムづくりの“司令塔”だ。西條氏は言う。

「ICTとネットワーク(通信網)というのは技術的に近しいように思えるのですが、実のところ全くジャンルが異なるものなのです。両技術のバランスを備えている企業というのは、世界でもあまり多くありません。そのため、世界各国から弊社にお声掛けいただいている状況です」

東京五輪のスタジアムでの採用も目指したいと、その意気込みを伝えてくれた西條芳克氏

司令塔ではあるものの、もちろんスタジアムに設置できる個別ソリューションも独自開発している。中でも定評があるのが、世界最高レベルの画像認識AIを使用した「生体認証ソリューション」と、動画データなどから人や群集の行動を予測する「行動検知ソリューション」だ。これらの技術は、スタジアムの「防犯・防災」「ホスピタリティ向上」、またイベントの「円滑な運営」を下支えしている。西條氏は続ける。

「人間の顔の特徴は、シワが増えるなどありますが、20歳を過ぎるとほぼ変化しません。弊社の画像認識AIは、悪環境においても、その人間の顔の特徴を正確に見抜くことができます。顔認証技術と行動検知システムを組み合わせれば、観客席やスタッフに紛れた不審者を発見する防犯・防災用途にも使えますし、迷子の迅速な発見、VIPのスケジュール管理など『おもてなし』にも効果を発揮できると思います」

リオ五輪時に、東京および日本のPR目的に開設された「Tokyo 2020 JAPAN HOUSE」にNECの「ウォークスルー顔認証システム」が設置された。カメラの前で立ち止まらず、歩きながら顔認証ができる

写真協力:NEC

スタジアム内の犯罪を未然に防ぐ

スポーツ競技が行われているスタジアムでは、何か“こと”が起こってしまった後では取り返しがつかない。同時に、混雑具合を緩和してイベント運営を最適化するなどのサービスを提供するために、人の流れをしっかりと把握しておく必要がある。画像認識AIや行動検知システムは総じて、「人間の行動をいかに先回りできるか」に焦点が絞られサービス化が進められているのだ。

「サッカースタジアムで言えば、2017年に英国で行われた『UEFAチャンピオンズリーグ』への導入事例があります。当時、地元警察が会場で撮影した映像と約50万枚の容疑者・要注意人物などの写真データを照合する作業に、弊社のシステムが採用されているんです」

その前年、2016年のUEFA欧州選手権では、開催地となったフランスに、ロシアのフーリガン(暴力行為をいとわない過激なファン)が大挙して押し寄せた。彼らは対戦相手となったイングランドのサポーターと大乱闘を繰り広げることになるのだが、それにより大会側が被った実害、イメージダウンは大変大きなものだと言われている。

またフランス、イラクなど世界各国のサッカースタジアムでは、大規模な大会を狙ったテロ事件が相次いでいる。NECのシステムは、それら事件を過去に起こした犯人、容疑者の入場制限を行い、記者や関係者に扮したテロ犯などを事前に察知するために利用されている。

“ホスピタリティ”を向上させて試合観戦に付加価値を

将来的に、NECは自社テクノロジーやソリューションを活用して、防犯・防災、ホスピタリティ向上以上のスタジアムソリューションを提案していく構想を持っているという。それは、スタジアムを中心に安心・安全・快適な新しい経済圏を生み出し、地域の活性化につなげていくというものだ。

「日本のスタジアムは、サッカーならサッカーと、特定のスポーツイベントにのみ単発的に使われる傾向があります。競技を観戦したらそれで終わり、言ってみれば『運動場の延長』というイメージでしょうか。しかし、NECとしては、そこで終わるのはもったいないと考えているんです。試合が行われ、人々が集まってくるスタジアムの特徴を最大限に活用したい。AIをはじめとするテクノロジーと連動させて、サポーター、観光客、スタジアム運営者、地域住民の方々など、関係者全体の満足度やメリットを充実させていく方法を模索しています」(山際氏)

近い未来、NECのスタジアムソリューションが変える街づくりについても語ってくれた山際昌宏氏

現在、ICT技術を駆使することで、スタジアムおよびその周辺で起きているさまざまなデータを入手することができるようになっている。例えば、観客の性別・年齢・エスニシティ(文化的分類による民族性)などの「属性データ」、観客の交通手段、動線、店舗滞在時間、購買履歴、宿泊履歴といった「行動データ」、観客が楽しんでいるのか怒っているのかなどの「感情データ」、そしてその日の天気や気温、湿度などの「環境データ」と、収集可能なデータは実にさまざまだ。

それらの膨大なデータを、人工知能で解析すれば、新たな「価値」が生まれてくると山際氏は言う。混雑を予測し適切な誘導が可能になる「混雑緩和」に始まり、顧客の心理や環境によって入場料、駐車場料金などの最適化・収益最大化を図る「動的価格の設定」などがそれに当たる。

後者をもう少し具体的に説明するならば、雨の日や客足が少ない日は試合のチケットや交通機関、もしくは駐車場などの料金を安くする、逆にスター選手が登場する試合ならば普段より値段を高めに設定するというように、運営側と観客の価値をリアルタイムですり合わせることが可能になる。

さらにICTインフラとデータ、人工知能を結び付ければ、スタジアムおよび周辺エリアの潜在的な利便性や経済を刺激することもできる。

「試合後のスタジアム周辺は、人の波で非常に混雑します。観客には不便ですし、スタジアム側も事故に備えなければなりません。例えば、そのタイミングで近隣飲食店からクーポンが送られてきたとすればいかがでしょうか? 勝利チームのサポーターに余韻に浸る時間と場所を提供するというコンセプトを含めても良いかもしれません。そうなれば、店舗の売り上げは増え、時間に余裕のある観客は安くサービスを受けられる上、混雑も緩和される。スタジアムや地域住民にとっても多くのメリットがあるのです」(山際氏)

なお、NECはすでに、新たなスタジアムソリューションのコンセプトを、東京・六本木商店街で実展開している。街角に設置したカメラ映像から来街者の特性を分析し、デジタルサイネージ(電子看板)に個人にマッチした広告を表示するという試みだ。もちろん、カメラ設置場所に撮影告知を掲示するなど、プライバシーへの配慮は徹底されている(注1)。

「サッカーワールドカップ後には、東京五輪が控えていますが、そこでもNECの顔認証システムをはじめとする、スタジアムソリューションを提供していきたいと考えています。東京五輪を安心・安全・快適に楽しんでいただき、その集客力を地域にも還元していく。それが私たちの目標の一つです」(西條氏)

スポーツとその大会が社会にもたらすメリットは、ICT技術やそれを担う企業によって大きく変貌を遂げつつある。山際氏と西條氏が語ってくれたように、スポーツ観戦が生み出すビッグデータは、スポーツそのものの振興だけではなく、地域活性化にもつなげられようとしているのだ。それは、スポーツが生み出す熱狂や喜びというエネルギーを、街の隅々まで行き渡らせるための仕組みとも言い換えることができる。華やかなスポーツイベントの裏では、どのような新たなイノベーションが生まれているのか。ロシアでのワールドカップをきっかけに、ぜひ思いを馳せてみてほしい。


注1:総務省、経済産業省、IoT推進コンソーシアムが策定した「カメラ画像利活用ガイドブック」に準拠

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