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男性ホルモン解剖学

薄毛は治るのか? 治療現場の最前線

衝撃の原因と予防方法を第一人者に直撃

ミドルエイジの身体的変化にフォーカスしながら、男性ホルモンや皮膚ガスといったさまざまな体内メカニズムやエネルギーの流れをひもといてきた今回の特集。最後のテーマは「毛髪」。人はなぜ、髪の毛が抜けていくのか?そして抜けてしまった髪の毛は治療によって再生・復活するのか──。男性型脱毛症(AGA)治療の第一人者である東京メモリアルクリニック・平山の佐藤明男先生に原因と対処法、そしてこれからの薄毛治療の展望について聞いた。

体質?生活習慣?はたまた遺伝?…毛が抜けていく理由とは?

そもそも、人はなぜ年齢とともに毛が抜け落ち、生えてこなくなるのか──。

生活習慣が不規則だから? 仕事や私生活など何らかのプレッシャーを抱え、ストレスを感じているから? など理由は諸説取り沙汰されるが、佐藤先生は一言でズバリと言い切った。

「遺伝です」

それを裏付ける身近な例がある、と佐藤先生は言う。結婚式の記念写真だ。新郎側と新婦側の親族がそれぞれに分かれて集合撮影を行うと、きれいに髪の毛がある・ないの集団に分かれるときがあるとのこと。

「これこそまさに“遺伝”であることを物語っています──」

では、その遺伝とはどこから来ているのか?

「かつてのデータでは、母方の祖父からの影響が36%、実父からが41%という記録があります。それが最近では、母方の祖父が薄毛の場合、50%の確率で同じ道をたどると言われています。元々は男性が持つX染色体上にあるARレセプター遺伝子が大きく関与していると言われていたのですが、さらに研究が進み、最近では常染色体(性染色体以外の染色体)の中にも情報を引き継ぐものがあることが分かってきました。多因子遺伝というのですが、つまり単純に一つの遺伝子によって起こるものではない、というふうに遺伝因子が変わってきたのです」

7000人を超える「髪の悩み」を抱える人を診察してきた佐藤先生。膨大なカルテをまとめたデータベースを見学するために、海外から訪れる医療関係者もいるそうだ

そう解説してくれた佐藤先生が毛髪・薄毛に興味を持ったのは、イギリス・オックスフォード大学に留学していた1998年。ちょうどそのころヨーロッパで、男性ホルモンの一種を抑制することで抜け毛を抑える働きがある『フィナステリド(商品名:プロペシア。以下同)』が、薄毛の治療薬として認可される。それまで“薄毛は治らない”と思っていた佐藤先生だが、その薬の発売記念セミナーに出席。薬で治ることを知り、衝撃を受けたという。

「99年に日本に戻り、当クリニックの常勤医師となりました。そして院長に薄毛治療を持ちかけたのです。ただ、当時はまだ知名度もなく、『プロペシア』は日本で認可されていませんでしたから個人輸入です。医師ライセンスでアメリカの薬問屋から購入するのですが、FDA(アメリカ食品医薬品局)とFBI(連邦捜査局)にも登録する必要があったり、非常に手間がかかりました」

日本でようやく『プロペシア』が認可されたのは2005年。しかし、そのころすでに佐藤先生は5年以上『プロペシア』を扱っており、日本の薄毛治療のパイオニアとなっていた。

日本で最初の薄毛治療薬に注目が高まる中、佐藤先生のもとにもあらゆるメディアから「薄毛治療について語ってほしい」とオファーが入る。そうするうちに、2005年以前とは比べものにならないほどの人数の「薄毛に悩む男たち」が、佐藤先生のクリニックに殺到したのだった。

「さまざまなタイプの薄毛の方がいらっしゃって、そのカルテがたまっていく。そこでカルテをデータベース化したんです。初診の時から写真を撮り始め、だいたい3カ月ごとの受診のたびに撮影する。そうやって薬の効果を見ていきました。そして生活習慣や近親者の頭髪の状態など、さまざまなプロファイルと共に、その写真をまとめたわけです。現在は5000以上の症例をデータベース化しています」

ではそのデータベースから、どんなことが分かるのだろうか。

進行はいつ始まり、どうすれば止められるのか?

佐藤先生のデータベースによると、初診で訪れる人の年齢分布は20代前半から40代中ごろ。ボリュームゾーンは25歳と意外と早いことに驚く。

「25歳くらいの人が最初に訪れる段階では、なんとなく薄いかなというレベル。次の段階といわれる状態…M字形が奥に深くなり始めたり、頭頂部が薄くなったりするのが30歳。さらに先に進むのは35歳くらいというのがデータベースから見て取れることです。つまり、5歳ごとに1段階ずつ進行していくんですよ。だからこのデータベースを見れば、初診時の年齢と進行具合から、その後、自分の薄毛がどのように進行していくかが分かるわけです」

アメリカの皮膚科医であるノーウッドとハミルトンが整理した、AGAの分類型「N-H分類分布」。初期段階を「頭頂部」「生え際」「前頭部」に分け、それがどのように進行していくかを段階ごとに示している

その進行を止めるためには、どうすればよいか? それが『プロペシア』の投薬治療ということになる。

「10年間投与すると、N-H分類上、薄毛の割合が平均で1段階よくなります。初診時の平均は3.36段階なのですが、10年でだいたい2.4段階になります。1段階下がるわけですね。ただし何も対処しなければ、先ほどお話ししたように5年ごとに段階が進むわけですから、10年で2段階進むことになります。ということは、投薬治療を行った人と、何もしない人では3段階の差が生まれるわけです」

投薬治療は大きな効果が期待できるが、一つ言えるのは時間がかかるということだ。佐藤先生のデータベースには10年単位で経過観察をしている人が大勢いる。

「でも頑張る効果はあると思います。だって毛髪が増えた頭頂部の写真を見せると、50代のおじさんでも“きょうはスキップして帰ります!”というくらいに喜んでくれますから。他にも“彼女ができた”とか“結婚できた”とかね。薄毛治療が少子化対策にもつながっているんじゃないかと思うくらいです」

佐藤先生のデータベースの一例。39歳のときに初診を受け、10年にわたり『プロペシア』を服用。1年ごとの頭髪の様子を記録したもの。10年後の写真を見ると、髪で悩んでいたとは思えないほどだ

ただし、残念ながらこの投薬治療もすべての人に効果があるわけではないとのこと。

それは重症化してからスタートしようとした場合だ。

「それは他の病気でも同じことですよね。がんだって初期段階で見つけて早く治療を始めれば根治する可能性はあります。しかし、見つかった段階でステージが進行していれば、治癒は難しい。髪の毛も同様なのです」

投薬治療がかなわない、となってもまだ選択肢はある。それが植毛だ。

「例えば、『プロペシア』を1年間飲んでも髪の毛の生え際に効果が見られないとします。すると、次のステップを検討せざるを得ません。最もポピュラーな植毛は、自分の後頭部に生えている部分から毛包(毛を産生する皮膚の付属器官)を移植すること。およそ2~3年で定着し、毛が生えてきます」

植毛を世界で初めて実用化したのは日本。しかも太平洋戦争前のことだ。「ハンセン病の治療の一環として生まれたようです。英文で書かれた論文を、戦後アメリカが見つけたことで世界に広がっていきました」と佐藤先生は語る

しかし、それも難しい場合がある。範囲が広くて、植毛では追いつかない場合だ。

「2000本くらい植毛しても追いつかなければ、カツラに頼るか、再生医療が実用化されるのを待つしかありません」

その再生医療こそ、今、佐藤先生が取り組んでいる薄毛治療の最先端を行くものなのだ。

移植するのではなく、新しく作る

毛髪の再生医療が言われ始めたのは、1980年代に皮膚を培養することによって人工皮膚が作られるようになってから。90年代に入り、欧米で研究が本格化し、98年にイギリスで成功事例ができたことで研究が進んだ。

日本では、佐藤先生が99年から広島にあるバイオベンチャーと共同研究をスタート。2010年からは理化学研究所、北里大学、さらに慶應義塾大学と共に進めているという。

「分かりやすく言えば、新しい毛根(毛包)を作る研究です。もともと髪の毛というのは、上皮性幹細胞と間葉系幹細胞が情報交換をしながら、分裂したり、萎縮したりすることで生えたり、抜けたりします。ちょっと難しい話ですね。他の部位で言うと『歯』と似ています。歯は乳歯から永久歯に生え替わりますよね。髪の毛も同じように生え替わるんです。違うのは、歯は一生に1回だけですが、髪の毛の場合は2~6年で生え替わるということです」

毛穴から生えていた髪の毛が成長しきって抜けると、その毛穴から新しい産毛が生え、伸びる過程で太くなっていく。それが繰り返されることで、われわれの髪の毛の量は維持されるわけだ。

「そこで、その幹となる細胞を採取し、試験管で培養してそれを元に戻せば新しい毛穴が作れるのではないかというのが、僕らが取り組んでいることです。これがうまくいけば、爆発的に髪の毛を増やすことができます」

マウスに培養した毛包の細胞を移植し、経過観察を行ったもの。見事に毛が生えてきている

つまりわれわれの体が持つ、髪の毛を作ろうとするエネルギーを最大限に活用しようというわけだ。その実現に向け、ことし6月には理化学研究所が非臨床試験をスタートさせると発表した。

「まずは細胞の属性を見ること。培養する過程で発がん性が問題になることがあるんですね。そういったことが起こり得るのかを確認します。そして問題なければ、来年初めにも臨床試験をスタートさせます。経過観察を1年くらい行い、うまくいけば、この技術を販売することになると思います」

2020年の秋ごろをめどに施術開始を目指している、と佐藤先生は言う。気になるのが施術費だ。

「当初はやはり高くなると思います。やけど治療などに使われる人工皮膚が、現在5cm角でおよそ30万円。一般的には一度の治療で30~60枚程度が必要ですから、それだけで900~1800万円。だいたいそれくらいの費用になるのではないでしょうか」

しかし、この技術を研究しているのは世界中探しても佐藤先生が関わるプロジェクトだけ。ワールドワイドに展開することで汎用化され、大量生産できるようになれば、数百万円程度までに抑えることができるようだ。

薄毛予防はとにかく気にしないこと

佐藤先生が、数あるデータベースの中から印象的な症例を教えてくれた。それは、ある一卵性双生児を診察したときのことだ。

「高校を卒業するまでは実家に同居していて、大学進学で別々に暮らし始めた。そこからは就職、結婚とそれぞれの道を歩んでいるので、生活環境やストレスの要因は異なります。でも、同じように薄毛になって、一緒に診察に来られたのです」

そのときの2人は、同じように薄毛に悩みながらも、毛量に若干の違いがあった。なぜかと思い問診をする中で分かったことは、2人の性格の違い。片やズボラで髪の毛にも無頓着。もう一人は育毛剤を試したり、頭皮をたたいて刺激したりと薄毛に対して神経質な対処をしていたという。

「初診の段階で髪の毛が多かったのは無頓着な性格の方。もう一人は、髪の毛に対して過剰な、そして不適切な治療をすると進行が早まるという典型的な例でしたね。だから自分自身では何もしない方がいいんです。育毛剤や育毛シャンプーなどはあまり意味を成しえませんから。そして最初にお話ししたように、原因は遺伝。受け継いでしまったら、きっとどこかのタイミングで始まります。そこで、まずは『プロペシア』を飲めばいいのではないでしょうか」

原因は遺伝であり、自分自身ではどうすることもできない。どうにもできないことを気に病むよりも、きちんと治療を受けた方が長い人生にとってはメリットがあるはずだ

「髪の毛が増えているのを確認して、スキップをして帰ろうとした患者さんがいたとお話ししましたよね。つまり結局、皆さん悩んでいるんですよ。でも、悩みを抱えたままで毎日を過ごすのはつらいでしょ。逆に言えば、悩みを解決すると、人間にとってはプラスになるということです。薄毛を治すことで、明るくなったり、自信が持てるなら、その方がいいじゃないですか」

ストレスが薄毛の原因となることはないと佐藤先生は言った。しかし、髪の毛の悩みがストレスになっているのであれば、それを払拭(ふっしょく)することできっと人生が楽しくなるはずだ。

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