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大人の夏休み自由研究

実は超省エネマシン!ジェットコースターが秘めたポテンシャル

ジェットコースターの位置エネルギーと運動エネルギーに学ぶ省エネ移動の未来

夏に遊びに行きたい場所の一つ、遊園地。中でも人気アトラクションの筆頭は、急降下や回転をしながら猛スピードで走り抜けるジェットコースターではないだろうか。動かすためにはかなりのエネルギーを要するかに思えるが、実は優秀な“省エネマシン”だという。本特集第2回は、東京大学生産技術研究所の須田義大教授と共に、省エネで動く秘密と、その原理を応用した新たな活用方法に迫った。

ジェットコースターが省エネで猛スピードを出す方法

遊園地などで多くの人々を楽しませるジェットコースター。富士急ハイランドのFUJIYAMAやド・ドドンパ、ナガシマスパーランドのスチールドラゴン2000、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンTMのハリウッド・ドリーム・ザ・ライドにザ・フライング・ダイナソーなど、その様相は実にさまざまだ。しかし、「仕組みは非常にシンプル」と、東京大学生産技術研究所で車両制御動力学を研究する須田義大教授は語る。

「基本的にジェットコースターを走らせる動力装置は、人々が乗り込むキャビンには付いておらず、レール側に付いています。大抵はまず地上にあるモーターを駆動させ、ロープやチェーンによってキャビンを高いところまで持ち上げていく。そうして、一番高い地点から自由落下で降りてくると、最初に与えられた位置エネルギー(ある位置にあることで物体に蓄えられるエネルギー)をうまく活用して終点まで進むという仕組みです。

どんなジェットコースターもこの原理は同じで、レールを左右下の3方向から車輪ががっちりと押さえながら滑るように走行しています。レールの途中にはいくつもの山と谷、カーブがありますが、位置エネルギーは山を越えたりカーブを曲がったりするための運動エネルギーに変換されます。そのため、走行中は基本的にエネルギーを供給する必要がありません。ジェットコースターは、今風に言えばある種の“自動運転”と言えますね」

東京大学生産技術研究所の千葉実験所長を務める須田義大教授。よりスリルのあるジェットコースターを造るためのアイデアを持っているそう

位置エネルギーの大きさは高さに比例する。つまり、多くのジェットコースターでおなじみの、最初にゆっくりと高度を上げていくという趣向は、ジェットコースターそのものの推進力となる位置エネルギーを確保するために必要な工程だったのだ。

また、ゆっくりと進んでいくのは、スリルの演出であると同時に、物体を速く動かすのに比べ、遅く移動させる方がエネルギーの消費が少ないという理由もある。「ゆっくりと持ち上げて一気に下ろす」のが、一番エネルギー効率のいいスタイルということである。

空高く持ち上げられた物体を離せば、当然その物体は地面に向かって落ちていく。そのため、最初の勾配を越えたジェットコースターは、空気抵抗や車輪にかかる摩擦抵抗を受けながら、敷かれたレールに沿って少しずつエネルギーを消費してゴールまで駆け抜けていく。

コース設計やキャビンの重さにもよるが、最初に頂点に達した際の位置エネルギーは、走行距離に応じてエネルギーを消費し、最終的にゴールに到着するころにはほとんど残っておらず、乗降場にあるブレーキで止まるのだ。

動力を持たないだけに、重さが増えればスピードも上がりそうだが、ジェットコースターは1人で乗っても大勢で乗っても、その速度が大きく変わることはない。というのも、ガリレオ・ガリレイによる物体落下の実験(ピサの斜塔から重さの異なる物体を落下させる実験※実験の実施については諸説あり)で有名なように、自由落下における速度は質量の影響を受けないからだ。もちろん搭乗する人数によって摩擦や空気抵抗は変わってくるが、いずれも最後のブレーキで調整できるレベルなのだという。

ジェットコースターにエネルギーを追加すればスリルは倍増

一方、近年では海外を中心に、ジェットコースターの原理に手を加えたさまざまな形式のマシンが散見されるという。

「位置エネルギーを変換する仕組みでは、どうしても途中で減速してしまいます。そのため、長い距離を速く走らせようとすると、初動の位置をかなり高くするか途中でエネルギーを加えてやらないといけません。

これに対応して、アメリカやヨーロッパでは、発車時に空気圧の力でカタパルト(射出機)のようにキャビンを押し出すジェットコースターがありますし、レール側に電流を流すリニアモーターを作って、コースの途中で加速するものも登場してきています。位置エネルギーだけを比べれば、それ以上の距離とスピードが出せるでしょう。

スリルだけで言えば、日本でもおなじみですが、普通にキャビンに乗るのではなく、ぶら下がったり後ろを向いて座ったり。エンターテインメント性を高めた工夫はいろいろありますね」

須田教授によれば、ぶら下がるなど普通に座らない形のジェットコースターの場合、人体にかかる空気抵抗は大きくなり、乗客が感じる恐怖やスリルは変わってくるものの、エネルギーの観点からは一般的なものと大きな違いはないとのこと。

富士急ハイランドの名物ジェットコースター「FUJIYAMA」。1996年の開業当初は、最高速度、高さ、巻き上げの高さ、落差で世界一になった。高さと落差が大きいため、位置エネルギーは大きいといえる

©thecrypt/Flickr

「国内で一番エネルギー効率が良いジェットコースターはどれか?」という質問をぶつけてみると、須田教授は悩みながら答える。

「さまざまなスタイルのジェットコースターがあるので、一概には言えませんが……ただ、『スチールドラゴン2000』(ナガシマスパーランド)は最高部の高さが日本一の97m、走路全長は世界一となる2479mだそうです。長く走行できるということは、それだけ最初に得た位置エネルギーをうまく推進力に変えて進んでいることとなります。そういった意味では、かなりエネルギー効率が良いと言えるかもしれません」

ジェットコースターを応用した公共交通「エコライド」

ここまでで分かったように、仕組みとしては意外とシンプルなジェットコースター。実はアミューズメントの世界だけでなく、この原理を利用した新たな公共交通システムが実現するかもしれない。

「エコライド」と呼ばれるこのシステムは、10km圏内をめどにレールを張り巡らせ、位置エネルギーによって車両を動かして運用する“ミニ環状線型ジェットコースター”だ。須田教授はその第一人者として、アミューズメント施設のアトラクションを製作する泉陽興業と共に、目下実用化に向けて研究を続けている。

東京大学生産技術研究所の千葉実験所に設置されていたエコライドの実験線

画像協力:須田義大

エコライドのメリットについて、須田教授は次のように話す。

「レールを敷いた軌道系の交通システムというのは、専用の軌道を確保しているため、車などと比べると時間通りの運行が可能で、安全面でも非常にメリットがあります。

エコライドで使う動力は位置エネルギーなので、車両に推進力を得るためのモーターを搭載する必要がない。そうすると、車両自体の重量も減り、レールも非常にシンプルなもので済みます。コントロールシステムも、地上にオペレーターが最低1人いれば問題ありません。つまり、エコライドは位置エネルギーを利用して動く、非常に省エネでコストダウンされた交通システムになるのです」

緩い起伏があれば車両を進ませることができるというエコライドの原理図。徒歩には遠く、交通機関に乗るのはおっくうといった2km前後の移動に適しているそう

画像協力:須田義大

街中を走行するエコライドのイメージ。もしかしたら中国など、他の国で先に実現してしまうかもしれない

画像協力:須田義大

現在、学園都市のほか、大規模開発や再開発を行っている地域が実用化の候補地として挙がっている。また、中国をはじめとした海外からも相当数のオファーがあったそうだ。

しかし、大きな課題もある。「電車などを見ても分かる通り、通常であれば軌道系交通システムを造るには莫大なインフラ投資と建設に対するコンセンサスが必要」と須田教授も言うように、通常の鉄道に比べれば低コストとはいえ、イニシャルコストは膨大だ。

須田教授の研究室には、自動車やオートバイ、トラック、鉄道、バス、飛行機に至るまで、膨大な乗り物の資料が本棚に並ぶ

それでも省エネルギーで近場をスムーズにつなぐ“街中ジェットコースター”の魅力は失われていない。少子高齢化が叫ばれる日本でも、自動車を運転できない層からの需要は高まってくるのではないだろうか。

須田教授によれば、「安全基準の素案もできており、実用化まではあと一歩」というエコライド。新たな交通システムとして、今後の展開にも注目したい。

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