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ロボットが隣人になる日

日本のロボット革命はまだ始まったばかり

医療から外食まで…あらゆるシーンにロボットが登場する日はいつになるか?

これまで3週にわたって、ロボット開発に欠かせないエネルギー効率の問題を「構造」「素材」「動力源」の視点から見つめてきた。しかし、それらの研究はまだ始まったばかりで、われわれの手元に届くのはもう少し先の話。特集4回目では、一足先に一般用として普及し始めたドローンなどにも目を向けつつ、日本や世界の動向、ロボットたちが社会進出するための課題を洗い出す。

日本の“ロボット新戦略”の意味

ここ数年、日本だけでなく、世界各国でロボットに対する期待が高まっている。次世代の日本経済を担う重要な原動力として、ロボットというキーワードが頻繁に登場するようになった。

中でも今、注目されているのが、われわれの生活により身近な「サービスロボット」だ。

話は数年前に戻るが、現在の日本社会におけるロボットの存在意義を象徴するものとして、経済産業省が発表した「ロボット新戦略」というレポートがある。これは「日本再興戦略」の一環として設置された「ロボット革命実現会議」が、2015年1月23日に安倍晋三首相に提出したレポートだ。

内容としては、日本を「世界のロボットイノベーション拠点」、また「世界一のロボット利活用社会」にし、最終的に「ロボット革命」を達成しようという目標が掲げられている。つまり、ビジネス的に大きな潜在力を持ったロボット産業をリードする形で世界経済のイニシアティブを握りつつ、日本経済再生の礎にし、そこで新たに研究・開発されたロボットで日本社会の課題を効率的に解決していこうという趣旨だ。

レポートの提出を受けた安倍首相自身は、「2015年はロボット革命元年だ」と、並々ならぬ意気込みでその重要性を強調したのだが、意外にも“ロボット大国”と呼ばれてきた日本の政府が、ロボットに特化した長期戦略を練ったのはその時が初めてだったと言われている。

ではなぜ、日本で“今”ロボットが注目を浴びるのか。ロボット関連団体関係者の一人は、次のような話をする。

「政府がロボット産業に力を入れようという背景の一つに、少子高齢化による労働力の減少問題があります。例えば、高度経済成長期に建てたインフラの老朽化が問題となっていますが、これからスクラップ&ビルドしようとしても、現在の国の財政は難しい状況にある。ならば次善策として、メンテナンスをしっかりやろうという方針があるのですが、人口が減っていくなかでメンテナンス人材を抱えるのも簡単ではありません」

今、日本経済と関連したあらゆる問題が、少子高齢化による労働力の減少と密接な関係にあることは、周知の通りだろう。その解決策としては、「外国から労働力を呼び込むか、ロボット導入による自動化の2つ」だと、先の関係者は続ける。

これまで、人間の労働力を補完してきたロボットは、大規模な製造工場で稼働する「産業用ロボット」がほぼ全てだった。日本は産業用ロボットの普及率の物差しとされる「ロボット密度(労働者1万人あたりの産業用ロボット普及台数)」が2015年時点で305台、これは世界3位の数字だ。

トヨタ自動車などでは1970年代から産業用ロボットの開発を始めており、工場の自動化が進められてきた。また、ファナックや安川電機といった国内の産業用ロボット専門メーカーも、世界に広く名声をとどろかせている。日本がロボット大国と呼ばれてきたゆえんは、その産業用ロボットの開発・導入で強みを持っていたからだ。

しかし今後は、さらに多くの分野で労働力を補完すべく、ロボットの登場が期待されている。医療、介護・福祉、ヘルスケア、警備、受付・案内、荷物搬送、移動・作業支援、調理・接客、教育、防災、趣味に至るまで、その領域は幅広い。そして、こうした現場で働くロボットを「サービスロボット」と呼び、われわれとより密接な関係性を築くことが期待されている。

産業用ロボットの開発が推進されて早40数年。2015年をロボット革命元年とするならば、今世紀中盤には社会のあらゆる場面にロボットが進出しているということも期待できるか…?(写真はイメージ) 

©Rog01/flickrより

産業用からサービスロボット大国へ!

サービスロボットの市場規模については、今後十数年の間に、産業用ロボットのそれを凌駕するまでに成長するだろうという見解が、日本に限らず世界的に一致している。すでにおなじみのものとしては、掃除用ロボット「Roomba(ルンバ)」や、コミュニケーション用ロボット「Pepper(ペッパー)」などがあるが、その他にも実用化されようとしているサービスロボットは枚挙にいとまがない。

倉庫内で積み荷や配荷を支援する倉庫ロボットは、アメリカ・アマゾングループや、日本のニトリグループなどで活用され始めようとしているし、欧米ではピザやタコスを届けてくれる配送用ロボットのテスト運用が一般道で開始されている。一般的に“ラジコンの一種”という印象が強く、すでに普及期に入ったドローンも、データ取得や高所作業など、人間の作業を代替してくれる“飛行型ロボット”としての発展を、強く期待されている。

フランスのAldebaran社が開発した自立型ヒューマノイドロボット、NAO。世界で最も普及しているコミュニケーションロボットであり、国際的なロボットコンテストでは標準機として採用されている

©AvB - RoboCup 2013 – Eindhoven/Flickrより

また、中国のロボット関連団体関係者は、国内のサービスロボットの需要について次のように言う。

「中国では60歳を超える高齢者が、すでに2億人に達している。高齢化のスピードも上がってきて、現在では毎年800万人以上のペースで増え続けており、2020年までに2億5500万人、2050年には4億8000万人に達するとも言われています。しかしながら、この時期に介護ができる年代層には一人っ子が多く、自分の子供の世話や仕事で手一杯。そのため、高齢者のパートナーとして家庭用ロボットのニーズが高まっているんです。同時に、中国では7000万人ほどの留守番児童がいると言われており、親子のコミュニケーション不足が深刻。家庭用ロボットが児童の孤独感を減らし、情感を与え、同時に親の仕事と家庭の両立を手助けする。そういう未来像が家庭用ロボットに期待されています」

中国の場合、労働力不足という要因以外にも、単純なビジネス的展望からサービスロボットへの需要が高まりつつあるという背景もある。しかし、2035年にはおよそ3人に1人、2060年には2.5人に1人が高齢者(65歳以上)になると言われ(平成28年版「高齢社会白書」より)、共働き世帯が1000万世帯を超えてなお増加し続けている(平成27年版「国民生活基礎調査の概況」より)というわが国も、他人事ではないだろう。

“少エネ”で“長時間稼働”

これまで工場に稼働を限定されてきたロボットが、家庭など社会のあらゆるシーンに登場してきたらどうなるか。ここでエネルギー問題が浮上するのはほぼ間違いないだろう。

日本の一般家庭における電力消費量は、1970年代から2010年ごろまで右肩上がりで増加し続けている(2013年電気事業連合会調べ)。中でも、家電・照明による電力消費量は、冷暖房や台所に使用されるそれより増加率が大きく、全体の約35.2%(70年代には15~20%)を占めるほどになった。

現在、サービスロボットのエネルギー源は、電気、もしくはそれを蓄電したバッテリーなのだが、見守りロボットやコミュニケーションロボット、介護支援ロボットなど、あらゆるシチュエーションに対応するロボットが増えれば、家電・照明分野の電力消費量は、ますます増加していくはずである。

一方で、人間の労働力を補完することをロボットの主なタスクとする場合、エネルギーの効率や使いやすさも問題となってくる。すでに普及しているドローンを例に挙げれば、リチウムポリマー電池などバッテリーを搭載しているが、最大飛行時間が30分あればかなり“優秀”とされているのが現状だ。遠隔地で長時間にわたり作業をすることを条件にしたとき、さらに飛行時間を延ばす必要が出てくるだろう。

そのドローンの最大飛行時間を延ばす試みについては、世界各国の企業や研究機関が少しずつ成果を出し始めている。昨年、スペインの企業・クオタニウム社は、ガソリンとバッテリーを併用して飛行するハイブリッドタイプのドローン「HYBRiX」を発表。最大飛行時間は4時間という触れ込みだ。一方、韓国・ジャイアントドローン社も昨年、水素燃料電池を利用したドローンのテスト飛行を敢行。1時間以上飛行させることに成功している。

YouTube「Quaternium Technologies」公式チャンネルより 引用

ただ、ドローンにリチウムポリマー電池以外の動力源を利用しようという動きは散見されるものの、課題も少なくない。代替燃料を積むことによってどうしてもドローンの重量が重くなり、サイズも大きくなってしまう。重量やサイズが大きくなれば、その分、制御が難しくなり、運べる荷物(最大積載量)にも影響が出てきてしまう。そうなれば1回の飛行あたりのコストや、周辺機器などの値段も高くなり、当然、普及は難しいということになる。

ドローンにとっての最適なエネルギーは何かという研究・開発もまた、今まさに始まったばかりというのが現状だ。となれば、ドローン以外のロボットにも、今後同じような課題が浮上するだろう。

戦いはまだ始まったばかり

特集第3回で、「人間と共生するロボットには、エコで安全、そして利用しやすく効率的なエネルギーが必要になってくる」と、群馬大学の中川紳好教授は言及している。また「電力を生む際に騒音が出ないエネルギー」についても、新しいロボットの普及を考えるとネックになるかもしれない。

同時に、立命館大学の馬書根教授が開発しているヘビ型ロボットのように、限られたエネルギーを効率的に利用するハードウェアの構造、また東京工業大学の鈴森康一教授が開発する人工筋肉など、素材の研究も必須になるだろう。

後者に関して言えば、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も、次世代人工知能・ロボット中核技術開発というプロジェクトの中で、従来にない高いエネルギー効率を持つ「革新的なアクチュエータ(駆動装置)」を研究していく旨を発表している。国の方向性も、ロボットの研究・開発・普及を目指す中で、「エネルギー効率の向上」を解決すべき課題の一つとして、研究を進めているのだ。

家庭用ロボットやドローンをはじめとするサービスロボットが普及していくためには、まだまだ解決されなければならない課題が多い。特にエネルギー問題をどう解決していくかという側面は、間違いなく一つの大きなターニングポイントになる。

しかし、研究者たちはこれまでも実用化を目指して、試作と失敗、改良を繰り返し、わずかに前進して今に至っているというのが現実だ。人間とロボットが共生する未来に向けて、われわれが享受できる革新的な成果がすぐに生まれることはないかもしれない。それでも近い将来、研究の場や民間企業から想像だにしなかったイノベーションが生まれることを期待したい。

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