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スポーツマネジメントの極意

観察、分析、そして起用――DeNAのA.ラミレス監督が実行する勝利のルーティン

横浜DeNAベイスターズ監督 アレックス・ラミレス【後編】

トップアスリートを率いる監督やコーチなどから、チームの能力・エネルギーを最大限に引き出すマネジメントの方法論を学ぶ新連載。第1回は、横浜DeNAベイスターズの指揮を執るアレックス・ラミレス監督。一見大胆に見えて、計算し尽くされた作戦をとり、選手時代にあった陽気なキャラクターから、辣腕(らつわん)を振るう監督というイメージに変貌を遂げた。チーム内外に海千山千がひしめくプロ野球界において、結果を出し続けるのは容易ではない。まして、結果を出さなければすぐにクビを切られる世界。そのような状況の中、結果を出し続けるために実行したこととは何か。ラミレス監督が抱くチームマネジメント論の核心に迫った。

【前編】DeNAのA.ラミレス監督が考える理想のチームを作る方法


外国人監督による純日本スタイルの野球術

野球が盛んな南米・ベネズエラ出身のラミレス監督は、もちろん野球のキャリアを母国でスタートさせた。やがて16歳でアメリカのメジャーリーグ球団と契約、マイナー、メジャーの両リーグを経験したのち来日。ヤクルトスワローズ、読売ジャイアンツ、横浜DeNAベイスターズ(以下、DeNA)で選手として、独立リーグ・群馬ダイヤモンドペガサスで打撃コーチ兼任選手として活躍、その後DeNAの監督に就任している。

南米、アメリカ、日本といった言語も国民性も違う国々で野球キャリアを重ねた彼は、どのような感覚で日本の野球になじんでいったのだろうか。各地域のストロングポイントを取り入れた、ハイブリッドな監督像が想像できるが…。

「それは違います。私は日本で長くプレーし、日本の野球で育ったおかげで選手としての数々の成績を残すことができました。また、監督に就任する際にも球団やGMから、『日本の野球を変えてくれ』と言われているわけでもありません。なので、日本の野球チームをいい方向に持っていくために、南米やアメリカの野球のエッセンスを取り入れてチーム作りをするということは考えていませんし、やってもいません」

独立リーグを含めると、14年間も日本でプレーしているラミレス監督にとって、自分の野球スタイルはすなわち日本の野球スタイル。そのため、最もなじみのある日本の野球で、日本の球団であるDeNAを強化するという考え方だ。一方で、いわゆる“助っ人外国人選手”として来日した当初、日本の野球スタイルに戸惑った経験が、監督になったことで生きていることもあるという。

「外国人であるということで、同じ外国人選手の使い方、扱い方に関して、私は他球団の監督よりたけていると思います。日本で長くやっているので、日本人監督よりも彼らの扱い方が分かるのです。例えばホセ・ロペス。彼とはジャイアンツ時代に同僚でしたが、そこでロペスは7番を打ったり、ときには代打を出されたりしていました。その後、DeNAに移籍して、2016年シーズンで30打席ノーヒットというスランプに陥ったことがあります。

普通であればスタメンから外したり休養を取らせたりしますが、私はあえて使い続けました。その結果、彼はやがてスランプを脱して大爆発し、月間MVPを取るなど大活躍してくれました。これは私が外国人だからこそ、彼らの使い方を熟知しているという結果の一例です。彼らとうまくコミュニケーションがとれ、最適なコントロールができるのです」

監督にパフォーマンスは必要ない

ラミレス監督と言えば、選手時代に「アイーン」や「ゲッツ」といった、日本のお笑い芸人のネタを取り入れたパフォーマンスでも人気を博していたイメージを持つ人も多いだろう。ところが監督となった今、そういったパフォーマンスは行わない。

「ご存じの通り、選手のときの私はパフォーマーであり、エンターテイナーとして知られていました。ただ、選手はエンターテイナーである必要がありますが、監督には必要ないと考えています」

もちろん就任当初は、選手時代同様にパフォーマンスを求められる場面も多かった。しかし、それらには確固たる信念のもと応じなかった。選手と監督ではその役割が違うと考えているからだ。

「自身のプレーや考え方に関して私は頑固です。これまで自分が信じた道を進み、人からのこうした方がいいという助言はあまり聞かないできました。それはなぜか? 自分自身で準備をしっかりとし、ルーティンを持ち、それを変えずに続けることで、結果を出してきたからです。そして今は監督という立場。選手全体を見て、さらに分析をしなければなりません。それが今、私がすべきルーティンになっているのです。このルーティンにエンターテインメントは必要ではありません」

ルーティンとコミュニケーション能力を武器に「ビジネスでも成功する自信がある」

ラミレス監督の言うルーティンとは、選手それぞれの細かい成績を数値化し、そのデータを毎日確認することだ。この数字やデータによる選手の分析こそが、“ラミレス野球”を支える大きな礎となっている。投手の継投も、代打のタイミングも全ては毎日のルーティンによって蓄積されたデータに基づいている。

つまり「8番投手」に代表される一見奇策に見える作戦も、全てはデータと分析によって導き出された最適解であり、だからこそ選手やコーチにも納得させるだけの根拠を持っている。このルーティンこそ、ラミレス監督がチームの能力やエネルギーを最大化できる根幹なのである。

「マネジメントとは、常に学んでいくもの。野球であれば、私は試合など全てのエリアで責任を負い、その責務を果たすための勉強をしている。それが準備であり、ルーティンなのです。選手の長所と短所を学んで分かっていれば、正しい起用ができます。それによって『DeNAの選手はすごい!』、『すごい選手の使い方をするな』、『チームとしてうまくいっているな』と思わせるための準備、つまりデータ分析をしっかりやって、選手を正しく使うことこそが、私にとってのマネジメントです」

データ分析を徹底することで、現場での判断が即座にでき、適材適所の人材活用が可能になる。これは、そのままビジネスシーンにも通用するものだ。そこで、ラミレス監督に最後の質問。これまで影響を受けた経営者やビジネスパーソンの存在について尋ねた。

「ずっと野球をやってきたので、理想とするビジネスマンや経営者はいません。ただ、私はいろいろな人に合わせ、コミュニケーションをとることがとてもうまい。ビジネスをしたとしても、うまくアジャスト(=調整)できる自信があります」

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