スポーツマネジメントの極意

千葉ジェッツの躍進を支える組織力強化の絶対的法則

千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 島田慎二【前編】

男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」に所属する人気クラブの一つ、千葉ジェッツふなばし。試合結果はもちろんのこと、観客動員数など2016年のリーグ開幕からあらゆる「日本一」を手中に収めてきた。その組織力の強さの根底には何があるのか。チームの代表取締役社長を務める島田慎二氏に、勝てるチームを作るために必要なエネルギーの使い分けについて聞いた。

千葉ジェッツふなばしという会社

男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」において、唯一の1試合平均観客動員5000人オーバーを達成するなど、千葉ジェッツふなばし(以下、千葉ジェッツ)はリーグ随一の収益力を誇るチームだ。また、今シーズンは5月26日に行われたB.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18で惜しくも優勝は逃したものの、第93回天皇杯優勝、リーグ東地区優勝と、試合においても見事な成績を収めている。

今では競技面、ビジネス面の両方でリーグをけん引している千葉ジェッツだが、チーム発足当初は経営不振にあえぎ、一時は倒産寸前まで追い込まれている。そのチームを立て直し、7年間で日本を代表するプロバスケットボールクラブに育て上げたのが代表取締役社長を務める島田慎二氏だ。今のような高い収益力を誇る球団となる前、島田氏にとって最初の難関となったのが、スポーツチームならではの特殊性だった。

「一番、大変だったのは顧客、ステークホルダーなど対峙(たいじ)しなければならない範囲が広いということです。例えば、小売メーカーなら何か商品を開発し、プロモーションをして売りにいく。そこでターゲットをどこに絞ろう、こういう層にも売り込んでいこうという形になると思います。しかし、スポーツチームは、会場に来るファンだけでなくスポンサー、株主、選手、行政、商工会議所などくまなく対応しないといけないんです。しかし、そもそも収益が低いので人をほとんど雇用できない。人的リソースが足りないのに、見なければいけないところが多い。これは最初、戸惑いましたね」

島田氏は千葉ジェッツと関わりを持つ前、もともと法人向け旅行代理業の会社を経営していた。若かりしころから経営には慣れ親しんでいたものの、大きな差異を感じたという。

「今でもそこが大変なのは変わらないですが、大変さが和らいだ部分はあります。経営として少し良くなってきて、私が代表(当時)となった当初は5人だった社員が、今は25人くらいと雇用が増えています。それによって、くまなく対応するリソースが増えた意味ではだいぶ楽になりました」

株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長の島田慎二氏。同社内会議室にはリーグ優勝賞金や観客動員数を示すパネルがズラリと並ぶ

バスケットボール選手に対するコミュニケーション法

スポーツチームならではの特徴として外せないのは、選手とコーチングスタッフとの関わりだ。チームを管理するバスケットボールオペレーション部門、会社の経営部分を担うビジネスオペレーション部門と、組織が両輪に分かれる中、選手やコーチたちとはどのように接しているのだろうか。

「やはり選手らはスペシャリストですから、ネガティブなことを言いづらいですね。ビジネス部門の社員ですと多少悪くても、次をいい方向に導くために叱咤(しった)することを優先しますが、選手は褒めて伸ばす、ポシティブに励ますことを重視します」

「能力、メンタルのしっかりした選手をとって、ちゃんとコントロールできる監督がいれば、私がそもそもバスケットボールの現場に何かを言う必要はありません。昔に比べれば、今は大野(篤史)ヘッドコーチがうまく現場をコントロールしてくれているのでだいぶ楽ですね。もちろん、どの選手をいくらでとりにいくか、というチーム作りには関与していますが、メンバーが決まってシーズンがスタートしたら、後はコーチに一任。『最近、どんな感じ?』と近況をちょっと聞くくらいでしょうか」

一方で、ビジネス部門とバスケットボール部門で共通していることもある。

「現場のリーダーが重要であること、これは同じと言えます。私は球団自体のトップですが、バスケットボール部門のトップはヘッドコーチであり、ビジネス部門のトップはまた別にいます。球団としての考え、ビジネス部門の考え、バスケットボール部門の考え、これらを“一気通貫”させ、組織全員が理解しないと絶対にうまくいきません」

バスケットボールとビジネスの両輪をつなぐことこそ、島田氏がエネルギーを最大限かけるの部分なのだという。

「重要なのは、日頃から言っていることに一貫性があることです。プロスポーツチームには少ないですが、千葉ジェッツは、『うちの経営理念はこうだ、こういう会社だ』ということを強く打ち出しています。社員にはもちろんですが、選手と交渉や契約をするときも説明しているくらいですから。選手とは、それを前提に、普段からなるべくコミュニケーションをとるように心掛けています。いわゆる“飲みニケーション”は意識的によくしますね」

「自宅に選手を招いて食事したり、監督と飲みに行ったりはよくあります」。富樫勇樹選手のような主力より、モチベーションを上げさせるためにも、控え選手や調子の悪い選手を誘うことが多いそう

プロ球団の代表ゆえに、毎年の選手との契約交渉は大きな仕事となる。結果が全てのプロスポーツ選手との交渉だが、これに飲みニケーションも一役買っているそうだ。

「気を付けているのは良いところも悪いところもきちんと評価してあげるところです。『ここがダメだったよね』ではなく、『ここを変えたらもっといいね』と。ポシティブな方向に持っていく。選手が最も不安なのは、自分がどう思われているか。選手の大半は1年契約で、一般企業でいえば1年間の契約社員のようなものですから、球団としてはドライになる部分ですし、選手サイドもいざとなったら1年で出ればいいやと、若干、寒々しくなりやすいものなんです。

だからこそ私は、チームとして一緒にやっている間だけでも、かなり近い関係になりたいと考えています。それもあって選手やコーチとは、年に1度の契約交渉の席だけではなく、食事や飲みの席でも金額や待遇面といったナイーブな話をざっくばらんにしています。これらは全てモチベーションアップにつなげるために意識的に行っているんです」

「千葉ジェッツふなばしを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」という千葉ジェッツの経営理念をまとめた図。全ての人とチームを盛り上げ、サービスを創造し、感動を味わい、夢を見ることのできる運営会社を目指す。チームの公式サイトでも、その理念を見ることができる

60%を超えるスポンサー料を何で返すか

スペシャリストに対して、島田氏はある意味で優しさと包容力に満ちたリーダーシップを見せていた。そのエネルギーの掛け方は、ビジネス部門の社員に対しても同じなのだろうか。

「全く違いますね。やはりそこは私の本業なので、目標や実績など出てくる数字、見た目から振る舞いまで、さまざまな面でかなり厳しくしています。それは、“会社として勝つ”ため。収益を上げて、そのお金でいい選手を獲得し、エンターテインメントへの投資に力を入れることで、お客さんが増える。それで収益がまた増えて、という循環でチームを回したいからです」

チームが試合に勝つことこそ経営をいい方向に向かわせるという考えもあるだろうが、島田氏は、まずしっかりと稼げるチームになることこそが好循環を生み出す第一歩と考えているのだ。この稼げるチームという点で、最も重視しなければならないのがスポンサーだ。「多くのスポーツチームとって、売上構成比の60%以上がスポンサー収入」と言うほど、その比重は大きい。

「スポンサー企業は、もうかっているからこそお金を出してくれているんですが、その会社で働く従業員は、きっとそのお金をボーナスとして支給してもらった方が喜ぶはずです。会社がチケットを渡して試合観戦を促すよりも、ボーナスをあげるからそのお金でバスケでも見に行ったらと言った方が従業員の満足度は確実に上だと思います」

B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18のクォーターファイナル、セミファイナルが開催された千葉ジェッツのホーム、船橋アリーナ

一般企業同士の取り引きならば、例えば建設会社が製鉄会社から鉄鋼を買うのは、柱を造るために必要不可欠。しかし、スポーツチームのスポンサー料は必ずしもそうではない。

「会社の努力によって生まれた利益を従業員に還元することなく、全く関係ないスポーツチームにお金を出すことは、ものすごく尊いことです。なので、営業担当のスタッフには、『わざわざスポンサーになってくださる神様みたいなお客様がいなかったら、あなたたちの給料は出ない』とはっきり伝えています。そして、その収入に対しては、試合に勝つことではなく、スポーツビジネスにおけるサービスでお返しするようにしています」

例えばある企業に対しては、社員募集告知などに割いていた費用を転用して、千葉ジェッツの看板に企業名を掲出させ、人材を集めるきっかけづくりを行っている。チームの看板に企業名を入れることはよくある話だが、費用はもともとある予算から捻出してもらい、なおかつ人材登用の新しい方法を提案。プロスポーツチームを利用した経営ソリューションを与えられるような営業をするよう指示しているそう。

5月26日、横浜アリーナで開催されたB.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18ファイナル。アルバルク東京に対峙する富樫勇樹選手

「本当はチケット収入で賄うのが理想ですが、現実的にそうなってはいません。スポンサー制はスポーツ業界の慣習ゆえに、組織に“甘え”を生むことにもつながります。だからこそ、スポンサー企業の従業員の方が、同社社長に対して疑念を抱かず、『千葉ジェッツを応援してくれてありがとう』と言ってもらえるようなサービスを提供しなければならないんです。これこそが本来、シビアにビジネスを理解して実行しなければならないことで、担当部門のスタッフには徹底的に教え込んでいます。そうすれば、必然的にスポーツ産業として上がっていくはずです」

ビジネスにおいては当然とされる思考を、スポーツ業界に浸透させたことは大きな価値を生み出し、千葉ジェッツは現在、大きな収益を上げながら、試合にも勝っている。選手と社員に対するコミュニケーションを差別化することは、チームとして、会社として、勝つことにこだわった結果だろう。


<2018年5月31日(木)配信の【後編】に続く>
最強チームが次に目指すステップ、それを実現させるためのエネルギーとは?

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