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土壌を汚染しない「土に還る電池」が未来のスタンダードになる?

無害なレアメタルフリーの電池が低環境負荷センサーを実現させる

あらゆる物がインターネットとつながることで、われわれの暮らしをより便利に変えるIoT(モノのインターネット)。まもなく毎年1兆個を超えるセンサーを活用した“トリリオンセンサー時代”の到来がささやかれる一方で、ばらまかれる膨大なセンサー、それに用いられる電池の交換・回収については疑問符が残されている。この課題に対する日本企業のアプローチとは?

自然由来の材料で電池を開発

日本電信電話株式会社(NTT)は2月19日、電池部材を生物に由来する材料や肥料成分で構成した、環境に優しい新たな電池「土に還る電池<ツチニカエルでんち(R)>」を作製し、電池動作を確認したと発表した。

これまでの電池は、耐久性と高出力が求められるため、その構成材料に希少なレアメタルのほか、水銀や鉛などさまざまな人体に有害な物質が用いられてきた。これらの中には、フッ素など本来土壌に含まれていない成分も少なくない。

トリリオンセンサー時代では、建物や生物、植物などあらゆるものにセンサーが装着されることが想定されるが、その全てを回収することはもはや現実的とはいえないだろう。 “回収⇒再利用”というエコシステムが破綻する危険があるのと同時に、これらの電池を用いたセンサーが放置された場合、土壌や生物に対して少なからず悪影響を与え、重大な環境問題を引き起こすかもしれないのだ。

この課題に向き合い、解決する要素技術として、NTT先端集積デバイス研究所(神奈川県厚木市)が、生物由来の材料や肥料成分という低環境負荷素材を材料に着目し、開発したのが「ツチニカエルでんち(R)」だ。

「ツチニカエルでんち(R)」は新たに生物由来のカーボンを開発。従来電池とは異なり、フッ素系樹脂を使用しないことで環境負荷低減の実現に寄与する

例えば、電池の電極には空気中の酸素が拡散できる3次元の導電性多孔体構造が必要とされる。従来の電池は、結着材によっては粉末状のカーボンを固形化して使用するが、結着剤はフッ素系樹脂などであり、燃焼時に有害ガスが発生することもある。また、土壌などに含まれていない成分でもあるため、無害・レアメタルフリーの低環境負荷な材料とはいえない。

その点「ツチニカエルでんち(R)」は、生物由来の材料に前処理を施すことでスポンジのような多孔体構造を備えたカーボンの生成に成功。結着剤自体のないカーボン電極を実現した。

従来電池と「ツチニカエルでんち(R)」との構成材料の比較図

加えて、センサーの筐体(きょうたい)や正極と負極を隔てるセパレーター、電解液に至るまで、あらゆる電池部材が低環境負荷素材で構成されるため、仮に回収が難しい状況に陥った場合でも、土壌や動植物に影響を与えることなく“土壌へと還る”のだという。

環境への影響を防ぎ、電池としての機能はしっかりと

今回の発表にあたり、同研究所では電池としてきちんと動作するか、そして自然に与える影響の有無について実証実験を行った。

「ツチニカエルでんち(R)」の試作品(左)とその電池性能を示す図

まず電池の動作確認を行ったところ、測定電流1.9mA/cm2(ミリアンペア毎平方センチメートル)において電池電圧1.1Vという電池性能を実現。本電池を数個直列につないで、市販のBLE温度センサーモジュール(いわば無線温度計)に接続したところ、センサーモジュールから発せられる信号を受信した。

つまり、電池として正常に動作することが確認されたわけだ。

土壌に粉砕したそれぞれの電池を混合して、小松菜の成長を比較。その成果は一目瞭然だ

次に、環境に与える影響を確認するために肥料検定法に基づく植害試験を実施。

土壌に粉砕した使用済み電池を混合し、鉢に植えられた小松菜の発芽状態で評価する手法を用いたその実験結果では、ほぼ発芽しなかった従来電池のように植物の成長を妨げる影響は確認されなかったとのこと。これは「土に還る」という開発コンセプトの実現を意味している。

NTTでは、引き続きさらなる電池の性能向上に努めると共に、同社の強みでもある半導体技術と「ツチニカエルでんち(R)」を融合したセンサーサービスの提供を行い、IoT社会の発展に向けた貢献を見込んでいる。

豊かな暮らしと引き換えに、センサーや使用済み電池を放置することが正しいとは誰もが思わないところ。しかし、トリリオンセンサー時代の到来が現実味を帯びる中、現実と向き合う必要が生じているのもまた事実だ。今後、人々がさらに知恵を絞ることで、便利な暮らしと自然との共生が実現した“われわれが目指すべき”未来の訪れを期待したい。

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