理系女子の履歴書

昆虫の脳を調べる理系女子!世界の研究者をとりこにするミツバチの謎とは

東京大学 大学院理学系研究科 博士課程 Reina+Worldさん【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第15回は、東京大学 大学院理学系研究科の博士課程に通うReina+World(レイナワールド)さん。シンガーソングライター、タレント、サイエンスコミュニケーターなどさまざまな顔を持つ彼女だが、本業はあくまで研究。前編では現在進めるミツバチの脳の遺伝子に関する研究と、そこに至った経緯にフォーカスする。

がんをもたらす遺伝子を解き明かすために進学

Reina+World(以下、レイナ)さんは、本連載史上、最も多くの顔を持つ理系女子だろう。東京大学大学院 理学系研究科の博士課程に通う大学院生でありながら、シンガーソングライター、タレント、モデル、サイエンスコミュニケーターとしても活動しており、本人いわく「よくキャラが渋滞していると言われます(笑)」とのこと。

しかし、やみくもにいろいろと手を出しているわけではない。根っこにあるのは、心から科学を愛し、分子生物学(細胞より小さい分子レベルで生命の現象を解明しようとする学問)の研究に打ち込む研究者としての純粋な気持ちだ。現在、昆虫に関する研究をしているのも、幼少期から思い描いていた夢なのだという。

「研究者で虫好きな父の影響もあると思うのですが、小さいころから虫が大好きだったんです。図鑑を全部覚えたり、近所のおばさまを捕まえて『むしむしクイズ』なるものを出題したり、虫の生態をまとめた手書きの新聞をご近所に配ったり……。今考えても迷惑な子供だったと思います(笑)。そんな感じだったので、小学生時代のあだ名は昆虫博士でした」

「幼稚園の卒園文集には、既に『わたしはせいぶつのけんきゅうをする』と書いていました」

そんな過去を持つレイナさんだが、つい最近まで目指していたのは、虫とはかけ離れた分野だった。

「小学5年生のときに祖母をがんで亡くしたことで、がんを研究したいと思うようになったんです。細胞レベルでどういう遺伝子ががんをもたらすのか、という基礎研究に興味を持つようになり、将来は東京大学の附置研究所である分子細胞生物学研究所(現:定量生命科学研究所/生命の仕組みを実験と数学で解き明かす最先端の研究施設)か、国立がん研究センターで研究したいという夢を抱いていました」

「虫は好きでしたが、好き過ぎたがゆえに趣味でいいかなと思っていたんです。ちなみに、一番好きなのはチョウです」

共に東京大学大学院生を研究者として受け入れているものの、どちらも国内屈指の研究所。当然狭き門だが、大学院入試で、なんとその両方に合格した。当時の分子細胞生物学研究所を選択したレイナさんは、在学中だった千葉大学卒業後、晴れて東京大学 大学院へ進学する。

ミツバチの頭部を解剖!脳内の遺伝子を研究する日々

「当時所属していたラボ(研究室)では、マウスの心臓を使って、心臓幹細胞や、いわゆる万能細胞、酵母を使用した遺伝子修復と寿命の関連性についての研究を行っていました。しかし、先生の退職などのやむを得ない事情で、博士課程の途中だったのですが、急にラボを移籍しなければならなくなってしまったんです」

一般的には途中で研究室を変えることはあまりなく、当然、博士号を取得するまで最低5年間は通うつもりだったという。複雑な事情で転換を余儀なくされただけに、その後の身の振り方には相当悩んだという。そんな彼女を救ってくれたのが、小さいころから好きだった昆虫だ。「生き物を好きになるきっかけをくれた昆虫という原点に返ってみようと思って」。そう語る瞳に、迷いは感じられない。

「昆虫は、私に夢を与えてくれました。だから、やっぱり一番好きなことをするって決めたんです」

分子生物学を専門とするレイナさんが現在、テーマに据えているのはセイヨウ(西洋)ミツバチの脳。ミツバチ社会における役割(カースト)を決定する遺伝子の研究だ。

「ミツバチ社会は、一匹の女王バチ、数千匹の雄バチ、数万匹からなる働きバチ(雌バチ)で構成されています。また、働きバチもエサを採る個体、子育てをする個体というふうに役割が分かれていて、ミツバチ社会はすごく統率が取れているんです。このカースト制度を決定付けるものは何なのか。その謎を解くために世界中でいろいろな研究が進められていて、私が所属する研究室では、この役割を決めている遺伝子が脳の中で働くのではないかと考え、研究しているんです」

研究のため、ミツバチの頭部を開き、脳(左囲み内)を取り出して遺伝子の分析をする。

研究を始めて数カ月足らず。「まだ何の成果もないんですけど……(笑)」と言いながらも、他の昆虫から見つかった遺伝子の脳での働きを見ていく中で、ミツバチの謎を解くカギになるかもしれない発見があったという。これから、それを確かめる研究を進めていくところだ。

“真実は何か”それを見つけるために前進!

大学時代から分子生物学の分野を学んできたとはいえ、これまで扱ってきたのは哺乳類や酵母などで、昆虫とは異なる分野だったレイナさん。身に付けてきた知識や技術が生かせないわけではないものの、昆虫を扱うのには苦労もあるようだ。

「これまでの実験で扱ってきたマウスとは勝手が違うので、解剖にはまだまだ慣れません。例えば、マウスは皮膚が柔らかいので解剖しやすかったのですが、ハチは表面が硬くて……力加減が難しいんですよね」

「少しでも気を抜くと、重要な部分を傷つけてしまい、サンプルとして使えなくなってしまうんです」

しかし、良いこともある。マウスや人など哺乳類よりも生体の構造がシンプルなだけに、結果が分かりやすいのだ。さまざまな要素が複雑に絡み合う哺乳類での実験は、データが得られたとしても、結果に対する理由がはっきりしないものも多い。しかし、昆虫はもう少しシンプルな生物である分、明瞭な実験データが得られるという。

「ミツバチの謎を解くための仮説は、既に立てているんです。今進めている研究が、もしそれに即していれば、他の研究者たちを驚かせられるような結果が得られる可能性があるので、とてもワクワクしています。同時に、しっかりと再現性のある研究データが得られるよう、慎重に進めていきたいです。たとえ仮説に即さなかったとしても、新しい知見は得られるはずですし、大切なのは驚きよりも、“真実は何か”ということ。このテーマはさまざまな議論がなされている分野なので、真実を明らかにすることが私の使命だと思って研究しています。結果を発表できる日を、ぜひ楽しみにしていてください!」

「今は毎日の研究がとっても楽しいです。好きな虫を扱っていることだけじゃなく、研究をのびのびできる環境にいられることに幸せを感じています」

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