理系女子の履歴書

バレエジャンプを解析する理系女子!モーションキャプチャでケガ予防の方法論を導く

東京工業大学 環境・社会理工学院 社会・人間科学系 修士課程1年 黒丸愛美さん【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第16回は、東京工業大学で「人間の動き」を研究する黒丸愛美さんだ。文学部だった学部時代から一転、バイオメカニクス分野の理系大学院へと進学した彼女。全く違う道に進んででも探求したかったこととは。

ケガで諦めたバレエ…踊ることから研究対象に

センサーとカメラで人間や物体を捉え、動きをデジタルデータにする「モーションキャプチャ」技術。CGを用いた映画などで一般にも広く知られているが、生物の構造や運動を力学的に探求するバイオメカニクス分野などの研究でも積極的に利用されている。東京工業大学の黒丸愛美さんが自身のテーマとして掲げる「バレエダンサーのジャンプにおける障害予防の研究」においても欠かせない技術だ。

「モーションキャプチャを使って動作を解析すると、人が体をどう使って動いているのか、本人すら気がつかない細かな動きまでまる分かりになります。これを利用して、バレエダンサーのケガ予防の研究をするため、現在所属する研究室に入りました」

「ケガ予防の研究という形で、小さなころからやってきたバレエにずっと関わっていきたいです」

4歳からクラシックバレエを習い、週6日の厳しいレッスンを受けてきたというバレエ経験者。しかしケガによってバレリーナへの道を諦めざるを得なかったことが、この研究テーマに至った最初のきっかけだという。

「中学3年生のときにケガで足の手術をしました。最初は捻挫だと思っていたのですが、なかなか治らなくて。病院を転々として、ようやく原因が判明したときには、もう手術しなければならないレベルになってしまっていたんです」

真剣にバレエに取り組んでいた彼女にとって、とても残酷な宣告であったことは間違いない。リハビリをしても、以前のように踊ることができなくなってしまったそうだ。

「バレエではないですが、今もダンスは続けていて、コンテンポラリーダンスをやっています」

「あのときは身体的にも精神的にもつらかったですね。でも、バレエの世界では珍しいことではないんです。私の知り合いにも、プロを目指してアメリカ留学したけれど、ケガで断念した方がいて。これから先も、そういったバレエダンサーがどんどん出てくると思うんです。同じような理由でせっかくの才能が生かされなくなってしまうなんて、すごくもったいない。それに、踊りたいのに踊れないなんて思いは、誰にもしてほしくないですから」

ケガをしやすいバレエのジャンプを追究

自分のような人を、これ以上増やしたくない——。そんな思いから今に至っている黒丸さん。「先行する研究などを調べてみても、バレエの動きからケガを予防するというアプローチはあまり例がないようなので、この研究はやりがいがありそうです」と語る彼女の表情に曇りはない。

一般的にバレエダンサーは、つま先立ちや開脚といった動きの中で、足首や腰などの関節を壊しやすいと言われる。しかし、彼女が進める研究は、どういった“ジャンプ”がケガにつながるのか。なぜジャンプに着目したのだろうか。

「学部時代に、『バレエダンサーの障害の実態』という卒業論文を書いたんです。当時は文学部(現、現代教養学部)だったので、調査の手法は主にバレエダンサーへのアンケート。回答を統計すると、ジャンプから着地の瞬間に一番ケガが発生するということが分かったんです」

人間の動きを捉えたモーションキャプチャの解析画面。計8台のカメラで全身360度を映している

実際の“声”を集めたことから見えた、一般論とは違う原因。そこから彼女は、両足跳びと片足跳び、2種類のジャンプをモーションキャプチャで解析すると共に、スポーツ歴や過去のケガなどについてアンケートを行うという手法を考え、現在研究を進めている。それらを統合し、バレエダンサーにおける“障害予防”の方法を導き出そうとしているのだ。

「バイオメカニクスの研究では、10人以上の被験者が必要とされていますが、私はもう少し範囲を広げて、20人ぐらいで実施しようと思っています。対象は、幅広い舞台経験を持っていて、10年くらいのキャリアがある方。それなら、安定したデータが採れるのではないかと考えています」

専用スーツに専用の反射マーカーを付ける。モーションキャプチャはその動きをカメラなどで追い、人間の動きをデジタルデータ化する仕組み

バレエに限らず、芸術やスポーツは感覚がものを言う。微妙な動きの修正も、頭ではなく“体で考える”のが主流だろう。フォームが完成されている経験者であれば、信頼性の高いデータになるのではないかと期待しているという。

サッカーやバスケットボールにも応用したい

黒丸さんが今の研究室に所属したのは3カ月前。学部時代に前段の結論を出したとはいえ、実質的な研究はまだ始まったばかりだ。さらに文学部から“理転”してきたため、新しく覚えなければならないことがたくさんあるという。

「基礎的な研究実験の授業はもちろん、モーションキャプチャに関わるグラフの見方や、人体の構造についてなど、今は基本から学んでいます。文学部出身ということで苦労もありますが、その半面、とても充実しているんです。数値やデータから何かを読み解くということが新鮮で、すごく面白い。そのたびに、この道に進んでよかったなぁ、と実感しています。それが今の自分にとってエネルギーになっていますね」

モーションキャプチャで得たデータを示したグラフ。数値から被験者の動きのクセなどを読み解くことができるという

新たな知識が増えていけば、おのずと知りたいことも増えていく。短い時間ながらも、自身の研究で明確な目標が見えてきたという。

「ジャンプという動きはいろいろなスポーツに共通する動きですから、野球やサッカー、バスケットボールなど、さまざまなスポーツに応用していけるような研究にしていけたらと思っています。そもそも私が、スポーツで体を動かすことが好きだっていうのもあるんですけど(笑)」

その先には、さらに大きな未来像も描く。スポーツ選手だけではなく、見据えるのは超高齢社会に突入した日本人全員だ。

「健康寿命を延ばすためにも運動は欠かせないものですよね。そういうところで、ケガを予防する、リスクを減らす、といった形で、私の研究が役に立てられるのではないかと。もちろん、まだまだ先の話です。まずはバレエダンサー、スポーツ選手を対象に研究をしていって、ゆくゆくはいろいろな人の役に立つことが最終目標。多くの人に、他人事ではないことなんだと思ってもらえるように、頑張っていきたいです」

「大学院での同期は、当然ながら工学系や情報系など理系出身者ばかり。負けず嫌いな性格をポジティブに捉えて、日々のエネルギーにしています」

<2019年8月1日(木)配信の【後編】に続く>
研究を始めるまでに歩んだ大きな回り道。心の支えであったバレエに抱いていたという彼⼥の葛藤とは?

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