理系女子の履歴書

夢は「動作解析」のスペシャリスト!遠回りして手にしたバレエ研究の舞台

東京工業大学 環境・社会理工学院 社会・人間科学系 修士課程1年 黒丸愛美さん【後編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第16回に登場してくれたのは、東京工業大学で人間の動きを研究する黒丸愛美さん。前編では現在の研究内容と見据えるゴールについてお伝えしたが、その入り口にたどり着くまでには大きな遠回りがあったという。常にそばにあったはずのバレエに抱いていたという、彼女の葛藤とは。

バレエのジャンプを研究した体育の授業が原点

日本でも有数の理工系大学として知られる東京工業大学の修士として、「バレエダンサーのジャンプにおける障害予防の研究」を行っている黒丸愛美さん。前編で聞いた通り、大学では初等教育を学んでいた黒丸さんを、“バイオメカニクスの世界”に興味を抱かせるきっかけとなったのは、さらにそれ以前。高校時代の体育の授業だった。

「東京工業大学附属科学技術高等学校という、東京工業大学の附属校に通っていたのですが、体育が少し独特で。一般的には、学校側が用意するカリキュラムに沿って実技を実施するのですが、生徒に種目を選ばせ、授業計画も生徒がそれぞれに考えて行うというものでした。全8回の授業があるとしたら、その中でどうしたら上達できるかを、考えてレポートにまとめるんです」

「高校では舞台建築に興味があって、建築デザインコースに通っていました。絵心がなくて諦めましたけど(笑)」

その授業の一環で、バレエのグランジュッテ(大きなジャンプ)についてレポートにまとめたことがあった。最新の撮影技術で物事の不思議に迫る『アインシュタインの眼』(NHK BSプレミアム)というテレビ番組で、世界的なバレエダンサー・中村祥子氏の動きを取り上げた回があり、それに影響されたからだという。

「ある大学の研究室の協力のもと、バレエの動きの美しさを科学的に解析していこうというもので、初めて見たのは中学2年生のとき。当時は科学的にバレエを研究することもできるんだなぁ、と漠然と面白がっていただけでしたが、その後、何度も見るくらい好きな番組になって。高校生になり、体育のレポートがいい機会だったので、見よう見まねで同じことをやってみたんです」

自分をカメラで撮影し、理想とする中村祥子氏のグランジュッテと比較することで相違点を解析。腕や脚の高さ、上半身の姿勢などを意識して繰り返し跳んでみると、明らかに改善され、さらなる課題も見つかったという。このレポートで行った“動きの解析”こそが、今につながる原体験となっているのだ。

高校時代の体育の授業で実際に作成したレポート。左の写真が改善前で、右の写真が改善後のグランジュッテ

教育学から理工学へ!先生への道をやめて研究者になる

そんな体験から、大学でもバレエを科学的に研究してみたいと思うようになっていた黒丸さんだったが、進学したのは聖心女子大学 文学部(現、現代教養学部)の教育学科だった。専攻は、初等教育学。つまり小学生の先生になろうとしたのだ。

「高校生のとき、すごく進路に悩みました。家族や先生と相談していく中で、『そんなに体育とバレエが好きなら、経験を生かせる教育系に進んでみたらどうか』とアドバイスをもらったんです。小学校の先生なら、バレエはできなくても、ダンスは必修科目なので続けられるし、しかも、それを子供たちに教えることができる。それはすてきな道だなぁ、と当時は思ったんです」

「お休みの日は、ほぼ外出しています。買い物、映画、美術館、ミュージカルなど、視野を広げるためにいろいろなことを経験したいんです」

それでも、「やっぱりバレエへの執着心があったんだと思います」と黒丸さんは振り返る。中学時代のケガで、高校生以降は本格的にバレエに取り組むことができなくなっていた。心のどこかで、踊ることができる人と比べてしまい、大学に入ってからも2年ほどは、もやもやとした気持ちで日々を過ごしていたという。そんな彼女を救ったのが、研究者の道だ。

「思い出したのは、中学2年生のときに見た『アインシュタインの眼』です。番組内で中村祥子さんの動きを解明する実験を行っていた大学の研究室なら、自分のやりたいことができるかもしれないと思って。すぐに研究室見学のアポイントを取りました。それが、私が今所属している『丸山剛生研究室』なんです」

「今は研究中心の生活をしています。今が一番、夢に近い場所にいるはずです」

文系の大学から理系の大学院へ。それがどんなに難しいことなのかは容易に想像がつくだろう。理系科目は積み重ねの学問とも言われるが、文学部で初等教育を学んでいた彼女にとってはいばらの道だ。

「中学時代から憧れていたこと。自分のように将来を諦めてしまう人を少しでも減らしたいこと。面接のときは、そういう思いを伝えて丸山剛生先生を説得しました。正直、受かるとは思っていなかったので、とてもうれしかったです」

大好きなスポーツに恩返し!夢は動きを解析するスペシャリスト

一度は違う針路をとった将来像を軌道修正し、心からやりたいことができる場所に身を置いた黒丸さん。

「遠回りをいっぱいしてきたけど、ようやくここまで来られたという気分です。あとは自分がどれだけ頑張れるか次第ですね」と意気込む。そんな彼女が描く夢とは。

「格好いいなと思う理系女子は、自分のやりたいことをどんどん追求していける人。その上で、社会の役に立つ人になれたらいいですね」

「“動き”の視点から、ケガをしない方法を導き出せるスペシャリストになりたいと思っています。例えば、“動きの病院”みたいなことができるといいなと思っていて。どんなスポーツでも突然スランプになることがあるんです。バレエだと、昨日までできた回転が全くできなくなってしまうとか。そのときはすごく悩むんですけど、本当にちょっとしたきっかけで直るんですよね。“動きの病院”は、スランプに陥った人の不調の理由を分析してあげて、解決策を提案する。とってもいいと思いませんか?」

「バイオメカニクスの分野は女性がまだまだ少ないので、女性ならではの視点も大切にしていきたいです」

まだ研究室に所属して3カ月。時には同期の仲間たちに勉強を教えてもらいながら、貪欲に、そして驚くようなスピードで多くを吸収できているという黒丸さん。いつか彼女にしか導き出せない答えを見つけるために、今日も忙しい日々を送っている。

「たぶん大学院進学のタイミングが、本当に自分がやりたいことに向かって舵を切れる最後のチャンスだったんだと思います。やっとスタートラインに立てました。ここでイチから頑張っていきたいと思います」

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