理系女子の履歴書

高分子好き理系女子が解明したい燃料電池効率化につながる原理

上智大学 理工学部 物質生命理工学科 4年 宝田唯以さん【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第17回は、上智大学 理工学部 物質生命理工学科に通う宝田唯以(ほうだゆい)さん。分子の配列によって機能が変えられる「高分子」という存在に魅了された彼女。現在励む燃料電池関連の研究は、社会的に大きな意義が生まれる可能性も。その研究内容とは?

燃料電池の効率化とコスト減を目指せ!

世界的なエネルギー需要の高まりを受け、環境負担の少ない新たなエネルギー資源の早期実用化が求められている。中でも、次世代のエネルギーシステムとして期待されているのが「燃料電池」だ。

水素と酸素の化学反応によって電気を生み出す燃料電池は、ガソリンエンジンなど従来の燃焼エンジンよりもエネルギー効率が高く、二酸化炭素の排出もない。そのため世界中で研究が活発に行われているが、普及に向けて立ちはだかる壁は少なくない。上智大学 理工学部 物質生命理工学科 4年の宝田唯以さんは、そんな燃料電池研究の一端を担う理系女子だ。

「上智大学にある理系学部は一つしかないんです。その中で、高分子を専門に扱っています」

「特に燃料電池が求められている分野は自動車ですが、なかなか普及に至っていないのが現状です。理由はいくつかあって、一つには製造コストが高いこと。電池の性能を高めるために良い素材を使うと、どうしても高価になってしまうんです。でも、研究開発によってコストが大幅に下がれば、今よりもっと使われるようになるはず。地球環境のためになることに携わるのが夢だったので、今は毎日楽しいです」

宝田さんによれば、理論上、現在世に出ている燃料電池よりも性能が高いものを作ることは可能だという。しかし、そこに使われる技術や素材にかかる費用が高過ぎる、というのが大きな課題なのだとか。例えば、宝田さんが研究する「固体高分子型燃料電池」の「電解質膜」もその一つだ。

「昔から、理系科目は得意で、好きでした。勉強しているうちに化学に興味を持つようになったんです」

「燃料電池は、陽極に水素、陰極に酸素が供給され、その間に電解質(電子を通さずイオンのみを通す物質)があるという構造です。水素イオンが電解質を通って陰極に移動すると電子が流れ、電流が発生するという仕組み。そのとき電解質膜を通過する水素イオンの動き方によって発電効率が変わってくるんです。私の研究する燃料電池は、電解質膜に高分子を使っています。発電効率の良い膜を作るために、その膜の中で水素イオンがどういう動きをしているのかを調べているんです」

“高分子“への興味から夢に描いた研究者への道

宝田さんの研究素材となる「高分子」。原子の集合体である分子は、分子量の大きさによって「低分子」「中間分子」と分類されており、その中でも特に分子量の大きなものが「高分子」または「ポリマー」と呼ばれている。自然の中で生まれる天然ゴムやタンパク質、人工的に合成されるプラスチックなどが「高分子(化合物)」の仲間だ。

宝田さんが日々熱い視線を送る「固体高分子電解質膜」というのは、つまり高分子の素材でできた膜のこと。最終的にどのような高分子で膜を作れば、またはどのような作成方法をとれば最も発電効率を上げられるのかが、研究の先に導きたい答えとなる。なかなか難しい内容だが、この道を志したのは、高校時代に受けた化学の授業がきっかけだったという。

「高分子という存在を初めて知ったのは高校生のとき。衝撃でした!」

「高分子って、化学的に分子の構造や配列を変えることで、さまざまな機能を持たせられるんです。例えば、ビニール復路とプラスチック製ケース、素材はほぼ同じ構造の分子なんですが、分子配列によって柔らかくも硬くもできるんです。高校の授業で面白いなと思って、大学生になったら専門的に勉強したいと漠然と考えていました。それと、どうせやるなら環境に良いことがいいかなと。上智大学を選んだのは、そういった研究ができると思ったからです」

宝田さんにそう感じさせたのは、学部のカリキュラムというよりも、現在所属する「高分子研究室」の存在だった。進路を決める段階で個人的に見学しに行ったそう。志望大学の選択で研究室にまで足を運ぶのは、かなり珍しいことだろう。そこで初めて見たのが燃料電池だったという。

「たまに…というかそこそこの頻度で実験器具を壊してしまうことが悩みです。ちょっと不器用なのかもしれません…」

「環境にもいいし、やってみたいと思いました。ただ、燃料電池ってすごい!という気持ちが先行してしまって、研究室に入ってから、『そういえば自動車に使われるものだったのか』って(笑)。でも、それくらい燃料電池って魅力的なんですよ。簡単に言えば『水の電気分解』の逆の反応を利用したものなんですけど、それ自体は中学生で習うことじゃないですか。そんな基礎の応用から、新しいエネルギーを生み出せるなんてすごいですよね」

大学院に進んでさらなる燃料電池探求に没頭!

宝田さんが所属する高分子研究室では、燃料電池に関する総合的な研究がなされており、彼女の研究テーマも正式には「ブロック電解質膜の輸送原理の解明」と銘打たれている。具体的にどのようなことを行っているのだろうか。

「NMR装置(Nuclear Magnetic Resonance=核磁気共鳴)を使って得られるデータを分析しています。この装置は、化合物の化学構造が解析できるというものですが、私はちょっと違う使い方をしていて。拡散係数から水素がどういう動きをしているかを測定しているんです」

「高分子研究室には環境エネルギー、生体・医用高分子、機能デバイス・ナノサイエンスという3つの分野があって、研究もいろいろです。人数が多いので、理系女子もたくさんいますよ」

拡散係数とは、固体高分子膜内に水素が広がっていく“具合”を表す数値。より速く拡散する材料であれば、電池の性能を高められる、ということになるそうだ。

「毎日研究室に行っては、実験して、データを取って。そこから何が読み解けるのか、他の論文を読み込んで、参照しながら考えて・・・。正直、始めたばかりなので、読まなきゃいけない論文がまだまだたくさんあるんです。慣れたことと言えば、早起きくらいですね(笑)」

「研究室のコアタイムは9時30分からなんですが、心配性なので1時間前には到着するように家を出ています。だから朝が早いんですよね(笑)」

研究室に配属されたのは、ことし4月。確かにまだ始まったばかりだが、既に大学院への進学も決意した。というのも入学試験は9月と、もう目の前に迫っている。

「大学3年生までは講義を聞いてテストを受けて、というある意味で単純な毎日でしたから、やっと研究ができるようになって今はとても充実しています。大学院でもこのテーマを続けていくつもりですが、まだどんな方向に進んでいくか分からないし、不安がないわけではありません。でも、研究者への道は自分自身で切り開いていくものだと思うんです。難しいことももちろんありますが、それが楽しさでもあるのかなと。あ、ちょっと格好つけましたかね?(笑)」

<2019年8月29日(木)配信の【後編】に続く>
燃料電池関連の研究は楽しいけれど、将来は別の道に?「高分子」と歩む彼女の未来像とは

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