理系女子の履歴書

【東工大 理学院・伴沙弥果】世界にまだない未知の物質を作りたい

半導体を進化させる物質の合成に燃える理系女子【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第19回は、東京工業大学 理学院 化学系で有機化学を専攻している修士課程1年の伴沙弥果(ばんさやか)さん。日夜研究に励む彼女の目標は、世の中にまだ存在しない有機化合物を作り出すこと。その研究内容とは?

あらゆる電子機器を動かす半導体の進化のもとに

パソコンやスマートフォン、テレビに冷蔵庫など、世の中のあらゆる電子機器・電化製品に使われている半導体。中でも今後、その活用の幅が期待され、さらなる高性能化や低コスト化が求められているのが、有機ELや有機太陽電池に利用される「有機半導体」だ。

東京工業大学 豊田(真司)研究室に所属する伴沙弥果さんは、そんな有機半導体の材料の一つになると期待されている「ルビセン」という物質を研究している。

「私の研究テーマは、『ショール反応による新規ルビセン誘導体の合成』です。簡単に言えば、ルビセンを使って、まだ世の中に存在しない新規化合物を作ることを目標としています。基礎研究ですから、すぐに何かの役に立つわけではありませんが、作り出した化合物がいずれ世の中のためになる可能性があることにワクワクしながら、日々研究しています」

「新しい化合物を作るときの作業は、まるでパズルみたいな感覚です」

彼女が所属する研究室では、これまでもルビセンを扱う研究を行ってきた実績がある。そもそもルビセンは合成するのが難しいとされてきた物質だが、その簡便な合成方法を発見したのが伴さんの先輩。論文は2017年にドイツの学術誌『Synthesis』にも掲載された。

「その方法とは、『ジフェニルアントラセン』(下写真の左の構造式)という物質に対して、炭素同士が結合するショール反応を用いることで、ルビセンを簡単に作ることができるというものです。先輩が発見したその手法を応用すれば、ルビセンからさらに新しい物質を作ることができる可能性があるのです。そこで、私が2019年4月からそのテーマを受け継ぎ、試行錯誤をしながら実験を進めているところです」

先輩が発見した「ルビセン誘導体の簡便合成法」を表す構造式。左がジフェニルアントラセン(サイリウムなどに使われる炭化水素の一種)、右がルビセンの構造式

実験結果が分かりやすく目で見えるのが面白い

「ルビセンは固体の状態では赤色ですが、液体に溶かすと橙色になり、UVライト(紫外線)を当てると黄色に発光するという特徴があります。顕微鏡を使ったり、データ解析したりしないと変化が分かりにくい研究も多いですが、そういった変化を肉眼で見ることができるのが、この実験の一番面白いところだと思います。ルビセンから新規化合物を作ることができれば、それもまた違う色をしているはず。何色になるかは分かりませんが、楽しみですね」

ルビセン。粉末状の人工化合物で、赤色をしている

まだ世の中にない化合物を生み出そうという伴さんの研究。しかし、修士課程1年の彼女がこの研究に携わるようになってから、ようやく半年が過ぎたところ。最初は右も左も分からず、いくつもの困難が立ちはだかった。

「実験で作った混合物から目的物(抽出を目標とした物質)であるルビセンの化合物を取り出す作業は、特に苦労しました。シリカゲル(乾燥剤などに使われる吸着力の高い物質)が入ったカラムという装置で混合物を分離させるのですが、そのシリカゲルとの相性が悪く、私が作った混合物が分解されてしまったのです。それを回避するためにカラムにアルミを巻いて遮光するなどいろいろ試して、ようやく前駆体にまでたどり着くことができました」

「小学生のころから理科や算数が得意で、自然と化学も大好きになりました」

前駆体とは、ある物質が生成される一歩手前の段階の物質のこと。つまり、あと一回、ないしは数回の反応によって、目標とした物質が完成するということだ。

そしてつい先日、伴さんは目的物“らしき”物質を作ることに成功した。“らしき”と言わなければならないのは、それが目的物であるかどうか、まだ実証できていないからだ。解析の結果、分子量が正しいことまでは判明。ただ、決め手となる構造解析が難航しているという。

「通常ならNMR装置(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)で構造を調べることができるのですが、目的物らしき物質の溶解性が低く、溶媒がうまく作れませんでした。検討の末に、なんとかNMR装置で解析することはできたものの、それでもまだ完全に目的物であることが決定できたわけではありません」

「どうしたら目的物にたどり着くのか、その道のりを逆算して考えていくのも面白いですね」

いつかはゴールに! 膨大な結晶化作業に挑戦中

なんとももどかしいこの状況。打開するにはX線で構造解析することが定石となるのだが、そのためには「目的物らしき物質」を結晶化させなければならない。

「これがまた難しいんです。原理としては、塩を水に溶かして蒸発させると結晶ができるのと同じなのですが、先ほども言った通り、溶解性が低く、有機溶媒に上手に溶けてくれません。さらに、有機溶媒自体にもさまざまな種類があるので、一つずつ検証するのにも時間がかかりますし、途方もない作業です」

さまざまな化合物を溶かしたサンプル。このように化合物の違いによって色も異なる

何度、結晶化を試みても、モヤがかったように粉末状になってしまったり、X線が当てられないほど細い結晶になってしまったり。そんな作業を繰り返す毎日は、まるで出口のないトンネルを歩き続けるようだが、彼女はいたってポジティブだ。

「トライ・アンド・エラーを続けていけば、いつかは出口にたどり着けるはず。世の中にないものを作り出すって、すごいことだと思います。ルビセン自体、その昔に誰かが作ったもので、それを先輩が簡単に作れる方法を解明して、そうやって世の中にないものが生まれていくのですから。ロマンがありますよね」

「来年の修士論文に向けて、もっと研究のスピードを上げたいです」

自分も、いま世界に全く存在しない新しい物質を作ることができるかもしれない。そう思うと、自然と実験へのモチベーションは高まる。

「実験が成功すると、やっぱり楽しいんですよ。成功しないと、つらいだけですけど……。前駆体だって新しくできた新規化合物ではあるので、これを作るのに苦労したぶん、少し前進したな、という実感はあります。成功の楽しさを少しでも味わってしまったので、もう研究からは離れられそうにないですね」

<2019年12月9日(月)配信の【後編】に続く>
生活を豊かにできる研究開発がしたい! 化学好き理系女子が目指す仕事とは?

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