理系女子の履歴書

精密加工する理系女子!次世代デバイスに必須の微小光共振器を研究中

慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科4年 葉山優花【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第11回は、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科4年の葉山優花さん。彼女が現在取り組んでいるのは、望遠鏡やカメラのレンズなどに使われる光学結晶材料の超精密加工。情熱を傾けているという研究内容を聞いた。

未来の生活に絶対に必要になる光共振器を研究中

「生活を豊かにする身近なロボットを作りたい」という思いから理系の道を志し、現在、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科に通う葉山優花さん。彼女は、実用化が近い研究を企業と共同で推進する事業プログラム「慶應義塾イノベーションファウンダリー(KIF)」の柿沼研究室(柿沼康弘准教授)に所属し、「高性能微小光共振器(ひかりきょうしんき)の開発に向けた単結晶蛍石(ほたるいし)の超精密加工」をテーマに研究を行っている。

「研究テーマを聞いても全くピンとこないと思いますが、光共振器というのは、簡単に言えば光を閉じ込められる器のようなもの。例えば、携帯電話は電気によるデジタル信号で動いていますが、連続で使用すると熱を持ちますよね? これはジュール熱というエネルギーロスが発生しているからなのですが、光は理論上そのロスがないため、省エネルギーを実現することができるんです。私の研究テーマは、この光共振器を作るのに最適とされている単結晶蛍石の加工精度を高めることなんです」

柿沼研究室に所属してまだ数カ月の葉山さん。学部卒業までは、あともうわずか

かつてインターネット通信が光回線に代わったように、昨今さまざまな分野での“光化”が期待されている。デジタル信号処理を光信号処理に置き換えることができれば、省エネルギーにつながる。この次世代の光信号処理を成立させるためには、光を一定時間、一定の場所に閉じ込める役割を持つ光共振器が不可欠になるという。

この光共振器は、決まった周波数の光のみを閉じ込めて、取り出すことができるため、さまざまなものに応用できるそう。従来よりも高精度に距離や時間を測定することができたり、体内に埋め込んでウイルスなどの異物を検出したりと、未来を感じさせるデバイスへの活用の可能性は多岐にわたる。しかし、それらを実現するためには、もっと性能を高める必要があるのだという。

「光共振器は、光の反射によって光を閉じ込めますが、まだまだロスが多く、実用化するのは難しいのが現状です。ロスを少なくするためには、加工面をいかに滑らかにするか、形状を真円にどれだけ近づけられるか。ナノ単位の超精密加工を実現できれば、その性能は飛躍的に高まります」

普段、実験は「慶應義塾イノベーションファウンダリー」の実験室で行っている。加工面を高性能な顕微鏡で確認しながら進めていく

数十年後の実用化を思い描いてトライ&エラー

とは言っても、単結晶の蛍石はデリケートな素材であり、加工は非常に難しいとされる。トライ&エラーを繰り返しながら、地道に加工の精度を高める方法を模索していくというのが日常だ。切削のスピードや刃の角度など、さまざまな観点からのアプローチで探り続けている。現在、光共振器の性能を測る上で指標となるQ値(Quality Factor/値が大きいほど性能が高い数値)は10の7乗ほど。どの分野に応用するか次第で求められる精度は変わるものの、10の9乗ほどなければ実用化するには厳しいという。

「全反射によって光を閉じ込めるので、少しでもクラック(ひび割れ)があったり角度がズレたりしてしまうとダメなんです。この研究は7~8年前から代々受け継がれてきた研究ですから、そういった意味でも簡単にいくものではないんですよね……。使っている加工機械は数千万円するようなものなので、そこだけを見れば派手に感じるかもしれませんが、実験自体は地味なもの。少しずつ条件を変えながら、地道にコツコツやっていくしかありません」

「先輩いわく、実⽤化できるのは数十年後と言われているそうです」とのこと

この研究に関わるようになってからは、まだ8カ月ほどしかたっていない。現在は同じ研究テーマを共有している修士2年の先輩の下で、必要なことを学んでいる時期でもある。

「このまま修士課程に進んであと2年はこの研究に携わっていくつもりでいますが、先輩は来年には卒業してしまうので、あと数カ月でもっといろいろなことを吸収しなければなりません。切削加工自体はぱっと理解しやすいものなんですけど、背景にある光周波数コム(特殊なレーザー光源)とか、使い道となる技術のことを理解するのに苦労しています」

純度の高い単結晶蛍石を加工して作った光共振器。鉛筆形の先端に当たる0.5mmほどの部分が光共振器になっている

柿沼研究室で過去に研究内容をまとめたポスター。光共振器を拡大すると、そろばんの玉のような形に加工されている。ここに光を全反射させて光を閉じ込める仕組みだ

実験では長らく思うような結果が出ない時期が続いていたが、ここ最近になって少し光が見えてきたという。

「具体的な検証はこれからですが、研磨のやり方を少し変えてみたら良い結果を得ることができたんです。ずっと苦しかったんですけど、希望が見えてきたので今は楽しいですね。それに、幸い今は先輩と2人なので、苦しみを分かち合うじゃないですけど、アイデアを出し合うことで救われている部分もあります。けど、来年からは引っ張っていく立場になるかもしれない。これからが大変ですね」

研究はつらいこともあるが、研究室に来るのは楽しいのだそう

広範囲な知識を吸収して自分の武器に

卒業論文の提出期限を1月半ばに控え、これからますます忙しくなっていく葉山さん。先述の“良い結果”によってモチベーションは上がっている。

「まだ学部4年なので成果を発表するような機会はありませんが、来年か再来年には、例えば、研磨の精度を上げる加工方法を確立するとか、何かしらの成果を出して国際学会で発表したいというのが大きな目標です。研究室で代々受け継いできた研究テーマだからこそ、少しでも進歩させて次へバトンタッチできるとうれしいですね」

慶応義塾大学 矢上キャンパスの入り口にて。葉山さんの研究はまだまだこれから

志の原点である「ロボットの開発」と、目下手掛けている「光共振器の超精密加工」。共通項は少ないように思えるが、「実用化されていない分野に関われることなんて、この先ないと思うので、むしろ貴重で、ありがたいです」と前向きだ。

ひいては、「身近なロボットを作る」という夢にもつながっていくと葉山さんは信じている。

「それに、加工ばかりしているわけではなくて、実験で必要な加工機械を作るために、ロボット設計でも使うCADを使うこともあるでんすよ。しかも、これが結構得意で。私が通うシステムデザイン工学科は、機械工学、電子工学、情報、建築など、さまざまな分野の教授たちが集まってできた横断型の学科なので、その環境を生かして幅広い知識を身に付けていくことが、今後、自分の武器になっていくんじゃないかと思っています」


<2018年11月22日(木)配信の【後編】に続く>
偏差値40台から猛勉強!モチベーションになったのは部活動?

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