理系女子の履歴書

一級建築士を目指す理系女子!大阪の高架下から見えたあるべき建築の姿

近畿大学大学院 総合理工学研究科 建築デザイン専攻 2年 米村侑希子【前編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第13回は、近畿大学大学院 総合理工学研究科 建築デザイン専攻 2年の米村侑希子さん。建築士になるという夢を実現させるために、実直に積み重ねてきた6年間の成果とは。

建築模型作りから背景にある必然性が分かる

「建築って面白い。初めてそう感じたのは、中学生のころでした。当時、実家からすぐ近くの保育園が建て替えられることになり、それがきっかけで建築を意識するようになったんです」。近畿大学大学院に通う米村侑希子さんは、当時を思い返しながら静かな口調で語ってくれた。

「それまでは、クライアントの要望と法律に基づいて建てるだけだと思っていた」という彼女。しかし実際には、周辺住民や環境への配慮、コストといった多くの制約があり、それらをクリアできるよう綿密な計画を基に、建設されている。日々、建物ができ上がっていく様子を見ていると、中学生ながらもその一端を感じることになり、「建築物はいろいろな角度からデザインされているんだ」と、その奥深さに引き込まれていったという。

「図面を引くときにCAD(Computer Aided Design)などを使うので、パソコンは必需品です」

米村さんは、中学生時代に抱いた気持ちを大事に温め、高校卒業後は近畿大学 建築学部 建築学科に進学。現在は同大大学院の2年生として、建築デザインを専攻している。

「大学では建築工学を専攻していて、人間の行動や心理に基づいた美しく使いやすい建築を考える『計画』を中心に、強く安全な建築を建てるための『構造』を学んできました。大学院に進んでからは、『デザイン』を専攻しています。特に力を入れたのが研究室。繰り返し繰り返し、既存の建物の模型を精巧に作ってきました」

その研究室というのが、「設計・デザイン論研究室」。現代建築における建築設計と、その背景にあるデザイン論について研究している垣田博之准教授が主宰する研究室だ。ここで米村さんたち学生が主に行うのは、既存の建物を詳細に模型で再現すること。実際の図面から模型を作ることで、手を動かしながら、その背景にある必然性を読み取っていく。建築設計に対する理解を深めていくのが狙いだ。

「模型は、カッターで厚紙を切って作るのが基本。研究室では2年間で大小10個ほどの模型を作りました」

「書籍から学べることはたくさんありますが、実際に図面を見ながら模型を作ってみると、多くの発見がありました。例えば、等間隔に並んでいるように見える部材(建造物の骨組みを造る材料)も、実は間隔が一定でなかったり。なぜそうなっているのか、その意図を知識としてインプットするためには大切な作業なんです」

高架下を調べ尽くすために大阪環状線を一周!

建築の分野は、とにかく覚えなければならないことが多い。設計と一口に言っても、素材の特性、強度の計算、建築法などのテクニカルな部分に加えて、見た目のデザインという美的センスまでも含んでいる。米村さんはその点、大学と大学院の6年間で、意識的に幅広く学び、自分の力を総合的に高めてきた。現段階でその集大成を発揮する場といえば、やはり修士論文だろう。

「テーマは『大阪環状線の高架下に関する研究』です。東京では既に、さまざまな取り組みで高架下が幅広く活用されていますが、東京に比べると大阪ではまだまだ進んでいません。そんな中、これから大阪でも高架下を活性化させていく計画があると聞いて、大阪環状線の高架下の現状を多角的に調べてみることにしたんです」

「高架下とその周辺環境の関連や影響も含めて実態を調査するために、高架下建築の向かいにある建物の用途なども詳細に調べました」

東京では、秋葉原〜御徒町間の「2k540」や中目黒の「中目黒高架下」などの商業施設に代表されるように、遊休地を活用する“高架下ビジネス”は数年前から盛り上がりを見せている。大阪でもJR西日本グループが進める「大阪環状線改造プロジェクト」の一環として、高架下の開発が計画されているなど、特に都市部においては非常にタイムリーなテーマだ。

「調査の方法はシンプルです。大阪環状線の高架下がどんな用途で使われているか、そしてどんな構造になっているかを、一軒一軒歩いて統計を取り、図に落とし込んでいきました。全てを回るのは大変だろうと思っていたのですが、実際にやってみると思っていた以上に建物に多様性があって面白く、あっという間でした」

「実地調査を基に、論文では建物を用途によって色分けして、区間ごとにまとめました」

一周21.7kmとされる大阪環状線。高架下をつぶさに調べながら歩くのは容易ではない。それでも1カ月以上を費やしたという実地調査の結果をまとめると、さまざまな気付きがあったという。

「高架下の建築は、倉庫や事務所、店舗として活用されていることが多いことが分かりましたが、さらに、その高架下建築とそれに沿った道の関連性を詳しく調べると面白いことが分かりました。建築に対して道が両側にあるのか、片側だけなのか、その裏側には何があるのかといった建物の“街路への開き方”(道と開口部の関連性)が、大まかに分けて23ものパターンがあったんです。高架下はスペースが限られている分、自由度も低いのでもっと少ないだろうと思っていましたが、意外でしたね」

米村さんがまとめた高架下建築における街路への開き方のパターン

地道に積み上げた知識が確かな自信に

さらに米村さんが、今回の研究で最も面白いと感じた発見は、高架下のデメリットをメリットに変えている活用例だったという。

「例えば、高架下ならではの問題に“騒音”がありますが、ビリヤード場や音楽スタジオなど大きな音を出さざるをえない業態であれば、逆に高架下の方が気兼ねなく店舗を構えられることが見えてきました。一部ではありますが、悪条件でも、そういった環境に適した用途というのは、今後高架下の活用を考えていく中で検討されていく必要がありそうです」

「修士論文の研究も模型作りもそうですが、昔から地道に続けることが好きなんです」

今、この修士論文がようやく一段落し、少し時間に余裕ができたという米村さん。

「大学生活は、友達としゃべりながら課題の模型を作る日常も楽しかったですし、調査のために歩き回った修士論文も楽しかったです。あらためて振り返ってみると、何か派手なことがあった学生生活ではないですが、地道に勉強をして知識を積み重ねられたことが、自分の身になっているな、と感じています」

「4月から公共施設や水族館を設計する大阪の建築設計事務所に就職します。不安もありますが、それ以上に楽しみです」

大学院卒業の日までは、残りわずか。近畿大学で過ごした6年間を顧みたとき、最後に、一つのテーマを深く掘り下げる研究ができたことを、うれしく感じているという。もちろん夢の実現はその先にあるが、きっと学生生活の締めくくりに相応しい経験となったことだろう。

<2019年2月22日(金)配信の【後編】に続く>
夢は「生きた建築を造る」こと。彼女が考える“生きる建築”とは?

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