理系女子の履歴書

睡眠の質を改善する成分発見か!? 天然素材から薬の種を探す理系女子の未来

近畿大学 薬学部 創薬科学科 4年 サリタ・シュレスタ【後編】

美しき理系女子学生の現在と、夢を実現するためのエネルギーに迫る「理系女子の履歴書」。第14回は、近畿大学 薬学部 創薬科学科 4年のサリタ・シュレスタさん。後編では、睡眠の質を改善する効果が期待されるという、彼女が手掛けるチャボトケイソウの研究にフォーカス。1年以上かけて研究してきた中で見いだした発見とは?

体内時計を整える成分を見つけ出せ!

母国ネパールで創薬研究者として活躍することを夢見て日本に留学し、現在は近畿大学 薬学部 創薬科学科で学んでいるサリタ・シュレスタさん。3年次から所属している食品薬学研究室では、「チャボトケイソウにおける時計遺伝子調節作用成分の探索」というテーマを扱っている。

※【前編】の記事はこちら

チャボトケイソウとは、一般にハーブとして知られるパッションフラワーの一種で、北・中南米の熱帯および亜熱帯地方を原産とする植物のこと。観賞用に世界中で広く栽培されており、原産地やヨーロッパでは、古くから緊張や不眠に効果のあるハーブとして利用されてきた歴史がある。つまり、ここから睡眠の質を改善する成分が見つかるのではと期待されているのだ。

「チャボトケイソウがなぜ効果的なのか、詳細なメカニズムはまだ明らかになっていないんです。だからこそ面白い!」

「時計遺伝子というのは、簡単に言うと体内時計を調節している遺伝子のこと。これが狂うと不眠症などになるとされていますが、チャボトケイソウにはその時計遺伝子の働きを調節する成分が含まれていることが近年分かったんです。しかし、実際にどの成分なのかまではまだ解明されていません。私がやっているのは、それを突き止める研究なんです」

そもそもこの研究自体は、食品薬学研究室と企業の共同研究によるもの。この研究室では1人に対して1つのテーマが与えられるのが恒例で、この成分探索をサリタさんが担当することになった形だ。ちなみに食品薬学研究室では、過去にもこうした共同研究を行っており、ローズヒップやサラシアなど、特定保健用食品や機能性表示食品として商品化されている天然素材の研究・開発に貢献してきた実績がある。

「最近は、週6日は研究、週4日はアルバイト。完全に何もない日は祝日くらいですが、毎日楽しいです」

「食品薬学研究室の目的は『世界各地の天然素材から薬の種やサプリメントになる素材を探し出す』こと。まさに私が将来やりたいことをやっているので、一番入りたかった研究室なんです。大変なことも多いですが、実験をしているときはとても楽しいですね」

1年以上にわたる実験の日々に差した光

時計遺伝子という、何ともロマンを感じる言葉は出てくるが、研究を進めるための実験はかなり地道なものだ。チャボトケイソウに含まれる成分を分離・精製(混合物の抽出エキスから、特定の純物質のみを取り出すこと)し、分析することで、どれが時計遺伝子の調節に役立つの“活性寄与成分”なのかを一つずつ探っていく。

「具体的には、まずチャボトケイソウの抽出エキスを水を加えて溶かし、有機溶媒(酢酸エチル)と混ぜて含有成分を抽出し、さらに大きなカラム(物質を分離する装置)に通して分離して……を繰り返し、酢酸エチル層、メタノール移行部と水移行部の3層に分画します。この時点では、まだいろいろな成分が混在しているので、さらにそれらを分析装置で単離(たんり)させて細かく調べていくんです。その作業を続けていった中で発見がありました。メタノール移行部に含まれていた2種類のフラボノイド(天然に存在する有機化合物)のどちらか、またはその両方が活性寄与成分であるかもしれないことが分かったんです」

こうして言葉にするとたった数行だが、植物を構成する成分は数十から数百にも及び、その作業は膨大だという。まだ未確定の結果ではあるが、それを発見するまでに、研究を開始してから実に1年3カ月もの時間がかかっている。

「抽出したサンプルを小分けにする作業は、単純だけど面白いです。このサンプルを、成分ごと分離するために高速液体クロマトグラフィーといった分析機器にかけます」

特に大変な作業だったというのは、分析装置から上がってきたスペクトルデータを読み解くことだそう。どのような成分が入っているのかはコンピューター任せではなく、自分で判読しないといけないだ。「スペクトルが複雑で見分けるのが難しかったです」とサリタさん。この発見は大きな前進と言えるが、まだ細胞レベルの結果のため、同時に不安もあるという。

「次の段階は、実際にこの2つの成分をマウスに投与したときにどうなるかという動物実験をしていくことになります。ただ、そこでまた結果が変わるかもしれないんです。というのも、まだ検討していない分画に本当の活性寄与成分が含まれている可能性も十分にありますから」

チャボトケイソウに含まれていることが分かったフラボノイドの化学構造式

近大発!睡眠の質を改善できる薬やサプリが生まれる可能性

睡眠の質を改善できる薬やサプリメントの実現をゴールとすると、現在の研究の進捗は何割程度なのだろうか。聞けば「全然進んでないです。まだ、3割ぐらい」と返答が。

「マウス実験で期待する結果が得られなければ、2つの成分には効果がないことが分かってしまいます。それはまた振り出しに戻るようなものなんです。並行して他の分画の分析にも取りかかる予定ですが、正直ドキドキしています」

「一番好きなことは、毎週日曜日に教会でしているボランティア。子供たちに英語を教えたり、工作をしたり。本当にかわいくて癒やされます」

ただ、うれしいこともあった。この研究の中でもう一つ、副次的な発見があったのだ。

「研究過程で、チャボトケイソウの中に、中性脂肪を低減する効果を持つ成分があるかもしれないことが分かったんです。今、研究室の別のメンバーに細かく調べてもらっています。このように、一つの植物でもいろいろな可能性があることが、この研究の面白いところです」

マウスを用いた実験は今後、進学する同大の大学院で実施していく予定だ。そこで良い結果が得られれば、将来、睡眠の質を改善できる薬やサプリメントが生まれるかもしれない。そうなれば、生活リズムを乱しがちなビジネス層にとっては大変ありがたい。

「植物に含まれる成分をヒントに作られた薬は、意外とたくさんあります。皆さんが服用している医薬品の中にもあるかもしれませんね」

「例えば、睡眠導入剤など不眠症に処方される医薬品はたくさんありますが、副作用が少なからずあります。眠気が続き過ぎる、吐き気や頭痛が起こるなど、それらに悩んでいる人も多いでしょう。私の研究がうまくいけば、そういった副作用を軽減できるようなものが作れるかもしれないと期待しています」

こうして、ほぼ毎日研究に没頭し、それを楽しいと感じることができるのも、全てはその向こう側に見ているネパールの人々の存在があるからだろう。母国に薬を届ける、夢の実現を思えば頑張れる。そのために、今できることを精いっぱいやろうという彼女の決意は固い。サリタさんならば、きっとやり遂げられるはずだ。

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