2017.5.30
軍艦にも搭載されたメイドインジャパンの技術力
中村工業株式会社 代表取締役社長 中村哲也
後世に残したい職人技。伝統工芸といった分野だけでなく、日本のものづくり技術は産業の根幹をなす製造の現場においても評価が高い。ワイヤーロープを手掛ける大阪の中村工業も、その一つだ。町工場からイージス艦や巨大つり橋の建設などに関わり続け、日本のみならず世界を陰で支える、その技術力について話を聞いた。
世界が買い求めたワイヤーロープ
ワイヤーロープ。鋼線をより集めて作られたロープで、鉄製でありながら柔軟性が高い。主に建設や運搬の現場で、動力の伝達、固定するために用いられている。
中村工業は、太さ50mm以上の太径製品を得意とするプロ集団だ。国家資格のロープ加工技能士10人を含む従業員25人で、年間約1000tという全国トップクラスの加工量を生産している。
加工には、大型のプレス機を用いる。ワイヤーロープの両端に作る輪の部分や、円形にしたときに使用するアルミや鉄の管を圧縮するためだ。新たに稼動を始める神戸工場に導入した6000tプレスの前で中村哲也社長が語った。
「以前から使っている3000tプレスの2倍のパワーがあるんです。これなら100mm以上の太いロープを作る際に、プレス機にかかる負担を抑えることができる。でき上がる製品自体の強度は変わりませんが、製造効率がグンと上がります」
同社が作り出した製品は、海外の軍艦や自衛隊にも採用され、その名を世界に広めた。120mmのロープはサルベージ船が巨大つり橋の橋桁自体を持ち上げるために、また65mmのロープは米海軍の「イージス艦」に採用されている。
そもそもワイヤーロープは、鋼線の集合体だ。素線と呼ばれる細い鋼線数本をより合わせて、ストランドという太いワイヤーを作り、さらにそれを繊維心という軸となるワイヤーに縄のようにより集めて作られている。
構造は至ってシンプルなのだが、日本のみならず海外でも同社製品への評価が高いのはなぜだろうか。
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つり橋を持ち上げる強度を持つ120mmワイヤーロープの加工作業
「コンテナや、橋桁など大きなものを引き上げる現場では、強度はもちろんのこと、取り扱いやすいようにロープ自体に柔軟性が必要なんです。ストランドを作る際に素線の本数や強さを調整することで、柔軟性と強度を持たせることができます。この調整は限られたメーカーじゃないとできない。たぶん日本の技術力じゃないとできないんじゃないかな(笑)」
職人の経験と知識がものをいう、緻密な編み込みが必要なのだ。
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スパイキと呼ばれる大きな針でストランドを編み込んでいく。熟練の技が光る
プロが最後に泣きつく技術力
ロープには、カーボン素材のものや高強度の繊維を用いたものなどさまざまな種類がある。
カーボン素材を使ったものは強度があり素材が軽いため、橋をつるすケーブルなど直線で使用するものに非常に適しているが、輪を作るのは不得手なのだそう。
「鉛筆の芯と一緒です。ぽきっと折れてしまうんですよ」
また高強度繊維ロープは、鉄よりも柔らかく加工しやすい上に、さびない、軽いという利点があるが、作業中にコンクリートのとがった部分などに当たって切れてしまうもろさがある。
「それぞれ優位性はありますが、ワイヤーロープと同じ強度を求めると、かなり高価になってしまう現実があります」
柔軟性を持っているとはいえ、ワイヤーロープは鉄の塊。重く、かさ張る。それを少しでも扱いやすくするために、中村社長は約10年前、ロープ製造の大手である東京製綱に修業のため3年間ほど勤務。そこで、より軽量で強度のある「ハイクロスロープ」という新たな高強度玉掛け用(荷吊りに用いる加工を施したもの)ワイヤーロープの開発を行った。
「どこまでコンパクトにできるかが、これからの時代のポイントだと思ったんです。開発したハイクロスロープは、1平方ミリメートルあたり160kg級だった耐久性が220kg級に。さらに25%の軽量化が実現でき、柔軟性も増しました。加工サイズでいうと、75mm必要だったロープの太さを、65mmまで縮小させることができるようになったんです」
この製品を開発したことにより、中村工業のワイヤーロープは他社と比べてよりコンパクトで軽量化されたものになり、国内外のライバルを圧倒する要因になった。
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ワイヤーロープの断面。太さが変わったとしても構造は同じ
ワイヤーロープはまさに産業の“命綱”
中村工業は、自ら営業をしない。決してあぐらをかいているわけではなく、ロープを扱う専門商社や企業が、こぞって声を掛けてくるからだ。
「ロープの専門家が納期の短さや加工に困っているとき、それをいかにして作るかを考えるのが、また楽しいんです」
当然ながらワイヤーロープは巨大なモノをつり上げる。そのため切れた場合には大損害や大事故にもつながる。国内外の企業は、安全、安心のために同社の技術力を買っている。
建設、製造、運搬など産業活動の礎には、“つる、動かす、固定する”という作業が必ず発生する。
「ワイヤーロープは産業の命綱とよく言われているんです。ロープがなければビルは建たない。ビルができればロープで動かすエレベーターで人が上り下りしていく。そんな産業活動を支える一端にわれわれがいる。それを感じられることこそが、この仕事の一番のやりがいですね」
日本の産業が一歩前進するとき、テクノロジーの発展だけでなく、ものづくりの技術にも改めて目を向けていきたい。
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text:野村博史(デュアルクルーズ)photo:デュアルクルーズ