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非電化区間の走行も可能!電車の蓄電・ハイブリッド化で鉄道網が変わる

東日本旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部 運輸車両部 担当部長 車両技術センター所長 照井英之

日本の原風景を走る気動車──。のどかなイメージが強いローカル線も、バッテリーを動力として搭載した革新的な電車の実用化が始まるなど、その姿を変えつつある。これまで多くの最新車両の開発に関わってきた東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)車両技術センター所長の照井英之氏に鉄道の未来を聞いた。

走って充電、駅でも充電!バッテリーで走る新しい電車

近年、駆動用蓄電池(バッテリー)を搭載し、ハイブリッド(HV)化やFCV(燃料電池自動車)化が進む自動車同様、鉄道車両においてもバッテリーを搭載した新世代の電車「蓄電池車」の開発、導入が始まっている。

栃木県の宇都宮(宇都宮市)─烏山(那須烏山市)駅間を結ぶJR烏山線や、秋田県の秋田─男鹿(男鹿市)駅間を結ぶ男鹿線に導入されている「ACCUM(アキュム)」などがそうだ。

美しい緑の中を走る2両編成の烏山線EV-E301系。非電化区間のためパンタグラフを下げている状態

「男鹿線での営業運転開始直後に乗ったのですが、車内でもこの電車の話題が飛び交い、地域の方々からとても歓迎されているのが分かりました。旧車両はキハ40系という国鉄時代に導入された古い気動車で、それが一足飛びに最新の蓄電池車へと替わったわけですからね」

蓄電池車導入時の印象をこのように語るのは、JR東日本の照井英之氏。

長年、車両の設計・開発に携わり、現在は運輸車両部車両技術センター所長を務める第一人者で、蓄電池車においても試験開発からACCUM(EV-E301系)として旅客営業に至る過程を見守ってきた。

エンジニアとしてさまざまな車両の開発、研究に携わってきた照井氏

蓄電池車とは、架線から集電した電気やブレーキから回生された電気を車両に搭載したバッテリーに蓄電し、その電力でモーターを回して走る電車のこと。充電して走るという仕組みは、電気自動車と同じだ。

蓄電された電池を動力とするため、架線が引かれていない非電化区間も走れるほか、エンジンで走る気動車のように排気ガスを出さないメリットもある。ちなみに愛称の「ACCUM」はアキュムレーター(蓄電池)から命名されたものだ。

「ACCUM」に搭載されたリチウムイオン電池への充電は電化区間を走行中や、ターミナルにある専用の急速充電設備も利用して行われる。

急速充電装置には路線の架線で使われているトロリー線ではなく、より大きな電流を流せる剛体架線を採用。そのため、充電に要する時間はわずか十数分程度で済むという。

外見は一般的な電車とあまり変わらないが、革新的な技術が詰まったまさに次世代の電車といえる代物なのだ。

EV-E301系の急速充電システム概念図。烏山駅にある急速充電装置では交流6600Vを直流1500Vに変電し、剛体架線から車両に充電する仕組み

車両に設置されたモニターでは、架線と蓄電池どちらの電気で走行しているのかが確認でき、充電量も表示される

ローカル線で電化が進まないという切実な事情

都市圏の鉄道はほぼすべて電化されているが、地方ではまだまだ非電化の路線が少なくない。路線長において全国の約3割程度がまだ非電化であり、そこを走るのはディーゼルエンジンを動力とする気動車だ。

JR東日本の管内は電化が進んでいるが、それでも路線長で約2割、車両数にして500両以上の気動車が現役で走っている。CO2、NOX、PMの排出量低減など大気汚染対策としては電化が望ましいが、地方路線ではなかなか難しい現実がある。

「一番の要因はやはりコストです。車両をすべて入れ替えるだけでなく、電柱を立てて架線を引き、変電設備などを新規導入するのに莫大なイニシャルコスト(費用)がかかります。さらに架線や設備はメンテナンスが必要ですから、イニシャルコストだけでなく運用コストも小さくありません。ローカル線の電化は利用者数からして採算が合わないのです」

それでもJR東日本は、排出ガス削減という社会的責任を果たすためにはコストを掛けてでも新たなことにチャレンジする必要があると考えた。そこで非電化区間を効率的に電化するために出した答えの一つが蓄電池車だったのである。

2009年に試験車両E995系、愛称「NE Train スマート電池くん」で蓄電池車の研究をスタートして以降、試験を重ね、2014年にEV-E301系として烏山線の一部に導入。

そして今年3月には烏山線の全車両が気動車から蓄電池車に置き換えられた。

交流で走る蓄電池車として開発されたEV-E801系。なまはげをイメージした赤と青のカラーリングは男鹿線ならでは

また、JR東日本の蓄電池車はこのEV-E301系とは別に、奥羽本線・男鹿線に導入されたもう一つのACCUM、EV-E801系もある。これには一体どのような違いがあるのだろうか。

「EV-E301系は直流、EV-E801系は交流という大きな違いがあります。EV-E801系はJR九州が『DENCHA』(でんちゃ/“D”UAL “EN”ERGY “CHA”RGE TRAIN)という車両で設計開発した技術をベースに、当社で保安装置や耐寒耐雪性能などをカスタマイズしました。

九州と東北では気候などの開発要件がまったく異なりますからね。すべて自社で開発するのではなく、良い技術であれば他社からも積極的に取り入れていく、また逆に当社の技術も外部に提供していきたい、という考えです」

加えて、発電所で排出されるCO2を考慮しても、ディーゼル気動車を蓄電池車に置き換えることでCO2排出量を約6割も削減できるという。駆動に要するエネルギー量も気動車を100%としたとき、蓄電池車は67%(一次エネルギー換算)と省エネ。

走行中の騒音や振動などの面でも圧倒的に有利だ。

電化以外の選択肢もある

この蓄電池車があれば、非電化の路線を全て電化することも可能なのでは?と考えたくなってしまうが、事はそう単純ではないらしい。

「バッテリーの電力だけで走れるのは満充電で50kmほど。走行以外に冷暖房や車内照明などにも電力が必要ですし、余裕を持たせたダイヤにしなければなりませんから、実際の運用では非電化区間は20~30kmが限界なのです」

EV-E301系が運行している東北本線─烏山線の走行区間

烏山線、男鹿線とも非電化区間は25~30km、しかも走行線区の一部に電化区間があるため走行しながら充電できる。

蓄電池車にとってピッタリの線区。むしろこの線区を走るために蓄電池車が開発されたとも思えるが、非電化区間が100km以上も続くような線区では難しいのだろうか?

「非電化区間を走行させる手段は蓄電池車以外にもあります。たとえばハイブリッド車両もその一つで、エンジンで発電した電気をバッテリーに蓄えてモーターを回す方式です。バッテリーももち、ブレーキ時に発生する電力を畜電することもできます。2007年に当社が世界で初めて営業運転を開始しました。

そしてもう一つ、現在開発中の『電気式気動車』という手段もあります。これはディーゼルなどのエンジンで発電し、その電力で直接モーターを駆動させる方式です。ハイブリッドからバッテリーを除いたバージョンと考えれば分かりやすいでしょう。

実はこれが今後、地方路線のスタンダードになると考えています」

JR東日本では、蓄電池車以外にもさまざまな手段で車両の電動化を模索している。それは前述の環境負荷低減、エネルギーの節約が主な目的だが、メンテナンスの効率化も理由の一つだ。

「エンジンがシャフトを回し、車輪を駆動する気動車は電車と構造がまったく異なり、摺動(しゅうどう)部分(部品が擦れ合う箇所)が多く、部品は全て専用のものを使うため、整備に独特の技術が必要です。

それに対して蓄電池車やハイブリッド車、電気式気動車は、何によってエネルギーを得るかが異なるだけで、モーターで駆動するという仕組み自体は一般的な電車と変わりありません。

多くの部品を共用でき、メンテナンスについても同様の手法で行えるため、業務を大幅に効率化できます」

ハイブリッド車や電気式気動車はエンジンによって発電するため、電車ではなく気動車の一種。それでも鉄道会社にとってもメリットがあるというわけだ。

エコ化で公共交通の未来が変わる!

ところで蓄電池車やハイブリッド車には、もう一つ大きな課題がある。それは搭載されるリチウムイオンバッテリーの価格だ。

「以前に比べるとかなり安価になったものの、リチウムイオンバッテリーを大量の電力を必要とする電車に利用するのは、まだまだ高コストです。鉄道の車両製造は産業規模が小さく、量産化によるスケールメリットが出せません。

一方で自動車は最近、電気自動車(EV)やハイブリッド(HV)の技術が急速に進み、市場も大きい。バッテリーの需要が伸びることで、リチウムイオンの価格が下がることに期待しています」

車両の床下に大量のリチウムイオンバッテリーを搭載するEV-E301系

コストの高い蓄電池車やハイブリッドの導入を積極的に進めるのは、社会的責任を重視し、将来性に期待しているからでもある。そう語る照井氏には、鉄道と自動車、移動手段の未来について、こんな思いもあるそうだ。

「自動車は電動化だけでなく、自動運転などの技術も急速に進んでいます。乗員が運転しなくても目的地まで自動的に連れていってくれるというのは、まさにプライベートで使える“電車”ですよね。

そうした“自動車の電車化”は鉄道産業にとって脅威でもありますが、バッテリーや制御技術、安全技術といった面で情報を共有できることは、恩恵ももたらすことでしょう。うまく共存しながら共に環境保護、エネルギーの効率化に向かっていけたら、と思います」

鉄道は公共交通、自動車はプライベートというすみ分けは、今後境界が曖昧になっていくだろうと語る照井氏

一度に大量の人や貨物を少ないエネルギーで移動させることのできるエコ度の高い移動手段としては、鉄道の独擅場だ。

最も利用者数の多い公共交通手段として、社会全体に及ぼす影響も計り知れない。今後のさらなる鉄道の進化に期待をしたい。

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