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宇宙での太陽光発電が未来のエネルギーミックスを変える!

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 田中孝治准教授

人工衛星を使って宇宙で太陽光発電を行い、その電力を無線で地球に送る。そんな夢物語にも思えるプロジェクトが、将来の実用化を目指して研究開発されている。地上での無線電力伝送実験を成功させた宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)の田中孝治准教授に話を聞いた。

太陽光の恩恵を最も効率よく受けられる場所とは?

石油資源の枯渇やCO2排出量削減など、現代が抱える課題に対して再生可能エネルギーの積極利用が有効な手段なのは明らかだ。ところが、太陽光や風力などの自然エネルギーで発電をまかなうには電力供給量の安定性という大きな課題がある。

「宇宙太陽光発電システムは、そうした課題を抜本的にクリアできる可能性のあるプロジェクトです」

穏やかな笑顔でそう語り始めたのは、宇宙機応用工学を専門とするJAXA宇宙科学研究所の田中孝治准教授だ。
※ジャーナリスト・安倍宏行さん解説によるエネルキーワード第6回「宇宙太陽光発電」参照

宇宙空間での太陽光発電は決して夢ではないと力説する田中准教授

「地上にある太陽光発電設備は、日照時間の変化や気象状況によって発電量が大きく左右されてしまいます。それに対して3万6000km上空の静止軌道上を飛ぶ人工衛星は、地軸が傾いている関係から春分と秋分の一時期を除くほとんど毎日、24時間絶え間なく太陽光が当たるのです。

宇宙太陽光発電システムは静止衛星のそうした特性を利用し、太陽光エネルギーを効率的に利用するために発想された技術です」

大規模な電力はその特性上、必要な量を確実に提供するだけでなく、作った分をすべて消費しなければならない。この需要と供給のバランスが崩れると周波数が上下し、電気を利用する設備への悪影響のほか、大規模停電のリスクが生じてしまう。

そのため時間や天候によって発電量が大きく変動してしまう太陽光発電に、一定以上の電力供給を任せられない。現状の発電設備から考えると、仮に将来、ソーラーパネルがどれだけ増えたとしても、太陽光に割り当てることのできるエネルギー構成比率は約7%程度といわれている。

しかし、田中准教授によれば、地上ではなく静止軌道に太陽光発電システムを設置すれば、昼夜はおろか季節や天候も問わず、常時安定的に発電することができるのだという。

静止軌道においた太陽光パネルの発電量は、地上にある同じ面積のパネルと比べて、約10倍。しかも地球の自転と同期して移動するため、受電する地上設備との位置関係がほとんど変わらない。まさに“夢の太陽光発電”なのだ。

静止軌道上にある人工衛星は、地軸の傾きによって年間を通してほとんど地球の影に入らない

(c)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

この宇宙太陽光発電の構想自体は、およそ50年前、1968年に米国のピーター・グレイザー博士が提唱したものだ。

1970年代後半には、アメリカのNASAなどが500万kW級の太陽発電衛星を60機打ち上げ、アメリカの全電力を賄う計画が構想された。しかし、あまりに規模が大きすぎたため、計画自体が破棄されてしまった経緯がある。

1990年代後半になって計画が再開されるも、またしてもトーンダウン。現在はカリフォルニア工科大学などが中心となり、軍需メーカーであるノースロップ・グラマン社の出資を得て新たな構想をスタートさせている。

日本では1990年代後半から旧宇宙開発事業団(現・JAXA)が研究を開始。今日まで地道に研究が続けられてきた結果、宇宙太陽光発電については現在、日本がトップランナーに位置しているといっても過言ではない。

「近年になって中国もかなりの勢いでこの分野に乗り出して来ましたが、1990年代から現在まで長い期間研究を続け、研究費を投資してきたのは日本だけです。これまでの努力を無駄にしないために、何としても実用化にこぎつけたいですね」

マイクロ波方式を使った宇宙太陽発電衛星の構想例

(c)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

超えるべき課題は山積みだが、実現不可能ではない!

米国すら一度は断念した、あまりにも壮大なプラン。その課題は、現代の技術を持ってしても大きい。

例えば、巨大なソーラーパネルを搭載した人工衛星を宇宙空間にどうやって運び、どのように組み立てるのか?そしてどんな方法で発電し、地球に電力を送るかだ。

「現在の構想では2.5km四方程度のソーラーパネルを使って、100万kW級(原子炉一基相当)の受電が可能なシステムを想定しています。衛星全体の重さは約2万6000トン。当然、一度に運ぶことはできませんので、展開すると100mくらいになるようなパネルを複数回打ち上げ、宇宙空間でそれを組み立てて大きなパネルにする方法で考えています」

構造については、巨大なソーラーパネルの一枚板を紐で吊した「テザー型」と呼ばれるモデルで検討中。太陽指向性がないため、時間によって太陽角が変化し発電量が変化してしまうという弱点があるものの、シンプルな構造のために実現する可能性が高いという。

そこで、まずはこちらを実用化して技術を蓄積した後、反射鏡を設けることで安定した発電量が得られるアドバンスドモデルに移行しようという考えだ。

テザー型太陽発電衛星の構想例。発電部と送電部が一体となった構造が特徴

(c)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

太陽光発電の効率向上については民間企業も力を入れている分野だけに、今後のさらなる進化が期待されている。また、宇宙空間で運用する以上、スペースデブリ(宇宙ゴミ)との衝突も考慮して設計しなければならない。

「発電、送電部の大きなパネルは秒速3kmものスピードで飛んでくるデブリを避けようがありません。そのため当たった所だけが壊れて他に影響が及ばないようなシステムを研究しています。

研究室ではガス銃を使った耐衝突実験も行っているんですよ。メインのコントロール部など絶対に壊れてはいけない部分については、シールドを付けて衝撃から守る方法を考えています」

数多くのアンテナ素子が並ぶ実験用マイクロ波送電パネル

実用化に向けた数ある課題の中でも、巨大な宇宙インフラを作るための構造・建設技術、大量輸送技術の確立は特にハードルが高い。

大量の建材を宇宙空間に運ぶためには、再使用ロケットや軌道間輸送システムの開発が必須だが、そうした分野についてはJAXAだけでなく、世界中の宇宙研究機関と連携して開発を進める必要がある。

「国際宇宙ステーション(ISS)は人類が作った最も大きな宇宙構造物になりますが、それでも一辺100m程度です。それに対して太陽発電衛星は“キロメーター(km)”サイズ。ISSよりも数十倍大きなものを低コスト、しかも軽く造らなければいけない。輸送コストも当然、莫大になります。

現状では宇宙ステーションくらいの低軌道までロケットで輸送するだけでも1kgあたり100万円くらい掛かってしまいます。将来的には、できれば10分の1、願わくば100分の1くらいのコストに抑えたいですね。それでないと結果的に発電コストが高くなり、実際の運用に見合わなくなってしまうので」

着実に実験成果を積み重ねることが実用化に至る唯一の道

そして実用化の要となるのは、太陽光で得た電力を宇宙空間から地上に送るための送電技術。現在はマイクロ波で送る方法と、レーザーで送る方法が検討されている。

JAXAのグループでは既に地上において、2015年にマイクロ波(5.8GHz帯)で約1.8kWの電力を無線送電する実験に成功。さらに2016年には、レーザー光を用いて高さ200mのタワーから地上に向けて電力を送ることにも成功している。

高出力レーザービームを用いた上下方向無線送電実験の様子。実験は日立製作所G1TOWERで行われた

(c)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

高出力マイクロ波(5.8GHz帯)を用いた無線送電実験の様子。約1.8kWの電力を、約55m離れた距離にある受電装置に送電することに成功した

(c)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

「地上からはるか3万6000km離れた所から、直径3kmくらいの受電設備に向けてマイクロ波やレーザーを発射する技術……これは例えるなら、1km先から10cmの的を正確に狙うようなものです。

マイクロ波の場合、衛星軌道上でkmサイズのアンテナを機械的に動かして制御するのは非常に難しいので、フェーズドアレイアンテナというものを検討しています。これは数多くの小さなアンテナエレメントから構成されていて、マイクロ波の位相や振幅を電気的に調整することで高精度に放射方向の制御を行う技術です。

地上での実験は達成しましたが、実用化には数億個ものアンテナ素子を同時に制御し、さらに精密な指向制御を実現する必要があります。よって、まだまだ超えるべき課題が残されているのが現状です。

また、マイクロ波については携帯電話などに利用されているのを見ても分かるように、技術開発が進んでいる分野ですが、それらの多くは情報をやり取りするためのもの。電力のようなエネルギーを送るための技術は、私たちが開拓していく分野だと考えています」

電力の無線送電技術は、宇宙太陽光発電以外での応用も期待されている。

例えばドローンへの送電。現在、ドローンはバッテリーの容量によって飛行時間が制限されてしまっているが、無線で電力を送ることができれば、そうした制約から解放される。応用できる分野は他にもたくさんありそうだ。

開発過程で生み出されるアプリケーションも視野に入れながら、研究を続けていきたいと語る田中准教授

ところで、この宇宙太陽発電衛星。あまりにもスケールが大きく、超えるべきハードルの多い構想なだけに、実現の可能性が気になってしまう。実用化の目処について、田中准教授にストレートに尋ねてみた。

「とても難しい質問ですが、個人的には今後30年くらいで基本的な技術を確立し、ひとまずの実用化に到達したいという思いがあります」

なんとも頼もしい答えが返ってきた。実際の運用に至るまでの道程は決して平坦ではなさそうだが、今後も研究開発を続け、日本がこの分野でのイニシアチブを取ることに期待したい。

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