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空想未来研究所2.0

麦わらの一味が向かった魚人島が過酷な理由

深海を舞台にした物語のすごさを考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「深海」。海の底に向かった主人公たちが、いったいどれだけ過酷だったのかを考えてみた!

地球の表面の7割は海

総面積3億6000万㎢。平均深度3700m。最大深度はマリアナ海溝の1万911m。

20世紀の初めに南極海が調査され、今や人類が到達していない海域はなくなったが、それは「海面上」に限った話である。深海や海底などの「海中」となると、人間が達していない領域の方がはるかに広い。海は、宇宙に劣らず未知なのだ。

だからこそ、人間は海に大きな夢を抱いてきた。かつて日本人は、海の底に竜宮城を思い描き、『竹取物語』でも、かぐや姫が「東の海に金銀宝石でできた蓬莱という島がある」と言う。

ヨーロッパでは、「太古、大西洋にアトランティス大陸があり、一夜にして海に沈んだ」と考えられ、また太平洋にはムー大陸、インド洋にもレムリア大陸があったと想像された。

時代は下って19世紀、ジュール・ヴェルヌが小説『海底二万里』を書き、海への想像をかき立てた。

そして、特撮やアニメの世界でも、海は謎と魅惑の宝庫である。

『ゴジラ』(1954年)において、ゴジラは海から現れ、『モスラ』(1961年)や『キングコング対ゴジラ』(1962年)では、はるか南海に文明と隔絶した秘境があり、そこには人々に畏怖される怪獣たちがいた。

テレビアニメ『海のトリトン』(1972年)では、トリトンがポセイドン族と七つの海で戦った。彼が海を渡る手段は、白いイルカの背中にまたがることだった。

どうも、海を前にすると、昔も今も、人々のココロは広々とするみたいである。今回は、空想科学の世界で描かれた、未知と魅惑の海について考えよう。

海を舞台にすると話が大きくなり過ぎる

飛行機や人工衛星が発達する前、海は人々の目が届かない世界だった。だからなのか、海を舞台にした物語は、スケールがとてつもなく大きい。

例えば、東宝映画『海底軍艦』(1963年)。太平洋戦争の敗北に納得しない神宮司大佐が建造した「轟天号(ごうてんごう)」は、海上も海中も陸上も地中も進めて、そのうえ空も飛べる万能戦艦である。

だが、そのあまりの性能を恐れたムウ帝国が、轟天号の引き渡しを求めて宣戦布告してきた。ムウ帝国は、かつてムウ大陸に栄えたが、大陸は1万2000年前に海に沈んだ。しかしムウ帝国の末裔(まつえい)は海底で今なお生きていて、このたび地上を侵略するというのだ。

すごい話である。陸海空どこでも進める轟天号もすごい。1万2000年前に沈んだ大陸の人々が今なお生き延びているというのもすごい。そして、彼らが1万2000年の沈黙を破り、このたび地上への進出を決意したというのもすごい。

いったい何に驚けばよいか、分からなくなるほどのスケール感である。

もっと驚くのは『ゴジラ対メガロ』(1973年)だ。この物語では、今から300万年前に南太平洋(この作品の場合)に沈んだレムリア大陸の人々が、地下3000kmに海底王国シートピアを築いて生き延びていたという。その海底王が、人類の度重なる核実験で存亡の危機に瀕(ひん)したため、怪獣メガロを地上に送り込んで攻撃してくる…というのが物語の背景なのだが、皆さん、いまサラリと書いたことのすごさに気づきました?

300万年前といえば、まだ現在のような人類は誕生しておらず、原人どころか猿人の時代だ。『アイザック・アシモフの科学と発見の年表』(小山慶太・輪湖博 共訳/丸善株式会社)によれば、人類が火を使い始めたのは50万年前、石器を使い始めたのは200万年前。それより昔に、海底に帝国を築いた!?

そして、海底王国シートピアがあるのは地下3000km。ここ、ご注意を。3000mでもビックリなのに、3000km!

冒頭に書いた通り、地球で一番深い海は、マリアナ海溝の1万911m。つまり深さ10km。3000kmとはその300倍も深いわけで、それはもう地下2900kmまで続くマントルより深く、「内核」というドロドロに溶けた岩石と鉄が流動している部分だ。

そんなところは、もはや「海底」ではない。

ルフィよ、体は大丈夫か?

こういったスケールの大きな海のエピソードは、最近のマンガでも描かれている。

例えば『ワンピース』(1997年~)では、ルフィたち麦わらの一味が、木造帆船サウザンドサニー号で、深度1万mの魚人島を目指した。

深度1万m!地球の最大深度は1万911mだから、そのクラスの大深海に行ったことになる。

そもそも深海とは、どのような場所なのか。空気がないのはもちろん、次のような過酷な環境である。

深海は水圧が高い。

10m潜るごとに、水圧は1気圧ずつ高くなっていく。空気に触れている海面にすでに1気圧がかかっているから、10mで2気圧、20mで3気圧…となり、深度1万mだと1001気圧。1気圧は「1cm2あたり1kg」の圧力だから、1001気圧とは1cm2あたりおよそ1tだ。角砂糖のような面積に乗用車の重量ほどの力がかかり、これで四方八方からギュウギュウ押される。

深海には太陽の光が届かない。

国際海洋環境情報センターのHPによれば、水深1000mに届く太陽光の明るさは海面の100兆分の1で、生物が感知できる限界の明るさだという。水深1000m以下は真っ暗ということだ。

深海は温度が低い。

水温はある水深までは深く潜るほど低くなる。水深1000mで2~4℃になり、それ以下は一定になる。

これはもう、ルフィたちが行ける行けない以前に、魚人島の環境が心配だ。

魚人島は、大きなドーム形をしたシャボンの膜の中にあり、内部は空気で満たされていた。普通に考えれば、その空気も1001気圧で、気温も2~4℃だったはず。そして何より、真っ暗!

ところが、魚人島は、暖かくて光に満ちていた。

魚人島の国王の説明によれば、地上の光をそのまま海底に伝える“陽樹イブ”という巨大な樹の根が届いているからだという。

これは、光ファイバーと同じ原理なのかもしれない。

現実世界の光ファイバーは、赤外線をよく透過させるが、陽樹イブの根は、目に見える可視光線を透過させるのかも。そして、太陽の光を地上並みの明るさで届けられるのなら、気温も地上並みに保たれるだろう。

では、圧力の問題はどう解決しているのか?

深海にも生物はすんでおり、彼らは高い水圧に耐えている。これは、体の中にある水も、同じ水圧を持っているからだ。これに学べば、魚人島で生まれ、ずっと1001気圧の中で暮らしてきた人たちは、肺の中の空気も1001気圧だろうから、問題はないことになる。

心配なのは、地上からやって来たルフィたち。肺の中の空気は1気圧だったろうに、大丈夫なのか?

劇中では、誰一人水圧に潰(つぶ)されることもなく魚人島をエンジョイしていたが、ここは不思議なところ。さすが麦わらの一味!と感心するほかはない。

※記載の圧力は各物体の表面積1cm2あたり

深海から届くポケモンの恐るべき光!

深度1万mで生活する魚人にも驚くが、さらに驚異の深海生物も存在する。それが『ポケットモンスター』に登場するランターンだ。

高さ1.2m、重さ22.5kg。頭に2つの黄色いボールがついていて、チョウチンアンコウをかわいくしたようなポケモンである。この愛らしいランターンについて、ゲーム版のポケモン図鑑はこう説明している。

「夜中に船から暗い海をのぞき込むと 深海を泳ぐランターンの光が星空のように見えることがあるよ」(『ポケットモンスター アルファサファイア』)。

また、アニメ版のポケモン図鑑『ポケモン全キャラ大事典』(小学館)には、オーキド博士がこんなコメントを寄せている。「ランターンの光は5000メートルの深さからでも水面にとどく明るさじゃ。夜に海底を見ると光が星空のように見えることから“深海の星”ともよばれとるぞ」。

5000mの深さから水面まで光が届く…これは本当にすごい!

前述したように、太陽の光でさえ水深1000mには100兆分の1しか届かない。ランターンの光は、太陽の光よりはるかにまぶしいということだ。さらに1000m深くなると、「100兆分の1」の「100兆分の1」。水深5000mともなると「100兆5分の1」にまで暗くなるのだ。

そのうえ、光というものは遠く離れるほど暗くなる。この二重の減弱を経て、それでも見えるランターンの光とは、どれほどの明るさか?

仮に肉眼でやっと見える6等星と同じ明るさだとしたら、ランターンの光の明るさは…

210000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000W。0が67個!

これは恐ろしい。太陽が宇宙に放つ光でさえ380000000000000000000000000W(0が25個)なのだ。それより42桁も強いランターンの光。

その光の強さは、全宇宙の星が放つ光の56000000000000000000倍(0が18個)である!

こんなものを放ったら、海水はもちろん、地球も一瞬で蒸発する。ランターンには絶対に光らないでいただきたい。

調べれば調べるほど、ものすごいスケールになっていく海のエピソード。それだけ深海が謎とロマンにあふれている証だろう。人間の想像力は本当に素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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