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1トン超の丸太を運ぶ!岩柱・悲鳴嶼行冥の修行がすご過ぎる/鬼滅の刃

『鬼滅の刃』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「修行」。今年5月から新作アニメ「柱稽古編」がスタートする『鬼滅の刃』で、主人公たちを導く“柱”の一人、悲鳴嶼行冥が見せる修行のすごさを、エネルギーの観点から考察しました。

『鬼滅の刃』で注目したい岩柱・悲鳴嶼行冥

今年2月には映画『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』が上映し、5月からはアニメの新シリーズがスタートする『鬼滅の刃』。マンガで言えば第15、16巻、全23巻の終盤に差し掛かろうかというあたりだ。連載が終わったのは2020年だから、本当にすごい作品だと思う。

人を食う鬼にも、これと戦う鬼殺隊の隊士にも、それぞれ歩んできた人生と思いがあり、激しい戦いの合間に、それが丁寧に描かれていた。

この『鬼滅』の中で、筆者が最も心引かれるのが、柱(鬼殺隊の主戦力)の一人、岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)である。 いや、この立派な人を呼び捨てにすなんて筆者にはできない。ここからは、悲鳴嶼さんと呼ばせていただきたい。

悲鳴嶼さんは、何もかもがすごい。『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』によれば、身長220cm、体重130kg! 今でもそうだが、20歳男子の平均身長が162cmだった大正時代においては、驚異の大男だっただろう。

この巨躯で、トゲ付きの鉄球と、手おのが付いた鎖を振り回す! 鬼殺隊は、最終選別を通過した者を隊士と認め、「日輪刀」という刀を与える。多くの日輪刀は日本刀の形をしているが、これが悲鳴嶼さんの日輪刀なのだ。 盲目ながら、強さも半端ではなく、主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)と同期の嘴平伊之助(はしびらいのすけ)は「鬼殺隊最強」と断言し、上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)ですら「これ程の剣士を拝むのは…それこそ三百年振りか…」とゾクゾク興奮していた。

お館様こと産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)の信頼も厚く、「やがて屋敷に来る鬼舞辻無残(きぶつじむざん)を、自分と家族の爆死をきっかけに動きを封じ、朝日にさらせ」という最期の願いを託したのも、悲鳴嶼さんだ。このとき27歳。鬼殺隊に入隊して8年目だった。

もちろん悲鳴嶼さんにも、悲しい過去と、そこから生まれた思いがあるが、ここで淡々と紹介できるものではない。それはマンガや映画やアニメで味わっていただくとして、ここでは「柱稽古」の場面で、悲鳴嶼さんが見せたすごさを、エネルギーの観点から研究してみよう。

あまりにツライ、悲鳴嶼さんの柱稽古

その柱稽古には、悲鳴嶼さんの人となりがにじみ出ていた。

柱稽古とは、経験の少ない隊員たちが、柱や元柱を訪ね回って、稽古をつけてもらうプログラム。元音柱・宇髄天元(うずいてんげん)は基礎体力を、恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじみつり)は柔軟性を、霞柱・時透無一郎(ときとうむいちろう)は高速移動を……というふうに、さまざまな面での能力向上を目指すのだが、岩柱・悲鳴嶼さんの担当は「筋肉強化訓練」であった。

炭治郎と吾妻善逸(あがつまぜんいつ)が稽古場に行くと、先に来ていた伊之助が、読経しながら滝に打たれていた。悲鳴嶼さんも、丸太3本を担いでしゃがんでいる。

よく見ると、丸太には何個もの大きな石が結わえ付けられ、地面からは炎が上がっていて、悲鳴嶼さんは「心頭…滅却すれば……火もまた涼し……」と言っている。若者に修行を課すだけではなく、自らも率先して取り組むのが、実に素晴らしい。

悲鳴嶼さんは「強靭な足腰で体を安定させることは 正確な攻撃と崩れぬ防御へとつながる」と足腰の重要性を説いて、炭治郎たちに次の3つの修行を課した。

1.滝に打たれる
2.スクワットの姿勢で丸太3本を担ぐ
3.岩を一町(360尺=109m)先まで押して運ぶ

そして「私の修行は この三つの簡単なもの…下から火で炙るのは危険な為……無しとする…」と言うのだが、どれも危険だと思う!

滝修行は、水がキョーレツに冷たく、善逸は「内臓がやばい!! 悲鳴あげてる 死ぬって言ってる!!」とアラレもなく苦しみもだえ、炭治郎も「ううう冷たい これはキツイな滝修行 過酷だ…」と静かに耐えていたが、水の冷たさ以上にキツかったのは、水が体に当たる衝撃ではなかったかと思う。炭治郎も「高い位置から落ちて来る水があんなに重いなんて……体の力を抜いたら首が折れそうだし」と言っていた。

その滝は水量も尋常ではなく、ドドドドドドとモノスゴイ音がしていて、水が切れ目なく一本の流れとなって落ちてきていた。滝というものは、落ちるに従って、水の間に空気が入ったり、表面張力で水滴になったりして、一番下では飛沫(しぶき)の集まりになっているのが普通だ。現実世界の滝行も、そのような滝で行われる。

これを、切れ目のない水流のまま流れ落ちる滝で行うと、どうなるか? そのとき受ける衝撃は、次の式で求められる。

水の衝撃[kg重]=水の密度[kg/m3]×体の投影面積[m2]×滝の落差[m]

「体の投影面積」とは、体に真上から平行な光線を当てたときにできる影の面積で、炭治郎と同じ身長165cmの人で0.05㎡ほどだ。水の密度は1kg/L=1000kg/m3。これらを代入すると、上の式は次のように簡略化できる。

水の衝撃[kg重]=50[kg/m]×滝の落差[m]

滝の落差は10mほどもある印象だったから、すると衝撃は500kg。マジで首が折れる! この修行を一刻(2時間)続けられたら、次の丸太修行に進めるらしい。

当然、悲鳴嶼さんも同じ修行をしたのだろう。身長220cmの彼の場合、体の投影面積も広いから、衝撃も大きくなる。身長は220÷165=1.33倍。すると、縦も横も1.33倍だから投影面積は1.33の2乗=1.78倍。悲鳴嶼さんは筋肉隆々なので1.8倍とすると900kg!

900kg=軽乗用車を2時間持ち上げ続ける……。これに必要なエネルギーはどれほどか?

体脂肪を一気に減らす「全集中の呼吸」のすごさ

実は、これが簡単ではない。

科学では、物体に力学的なエネルギーを与えることを「仕事をする」と言い、「仕事=力×力の方向に動かした距離」の関係がある。炭治郎や悲鳴嶼さんは、滝の衝撃に耐えているけれど、何かを動かしているわけではないから、仕事はしていない。上記のような初歩の力学で考えると、エネルギーも発揮していないことになるのだ。

だが、経験からも分かるように、人間は重いものを持っているだけでエネルギーを消費する。筋肉が力を出す=収縮するには、それだけでエネルギーを必要とするからだ。ここは、思い切った仮定をする必要があるだろう。

人間の運動は、大きく3つに分けられ、エネルギーの供給源も、持続できる時間も違う。

ハイパワー運動:筋肉中のクレアチンリン酸の分解/30秒以内
ミドルパワー運動:筋肉中のブドウ糖による無酸素呼吸/30秒~3分
ローパワー運動:血中のブドウ糖や体脂肪による有酸素呼吸/3分以上

その名の通り、前者ほど「パワー=同じ時間で発揮できるエネルギー」が大きく、力も強い。具体的には、短距離走、投てき競技、重量挙げなどがハイパワー運動、中距離走や水泳がミドルパワー運動、長距離走がローパワー運動だ。

悲鳴嶼さんの滝修行は、持続時間の点ではローパワー運動。しかし900kgとなると、いくら悲鳴嶼さんでも、発揮するパワーではハイパワー運動だろう。ひょっとしたら悲鳴嶼さんは、「全集中の呼吸(作中に登場する身体超活性化の呼吸法)」によって、ローパワー運動と同じメカニズムで、ハイパワー運動と同じエネルギーや力を発揮できるのではないか!?

『トレーニングの科学 パワー・アップの理論と方法』(宮下充正/講談社)によると、人間がハイパワー運動で出せるエネルギーは、体重1kg当たり1秒間に0.013kcal。本稿では、悲鳴嶼さんが900kgの力を出し続けるとき、これと同じエネルギーを発揮すると考えよう。

すると、体重130kgの彼が、これを2時間続けるとき、発揮するエネルギーは0.013[kcal/kg/秒]×130[kg]×7200[秒]=1万2168kcal。

脂肪1gによる有酸素運動では、9kcalが発揮できるから、悲鳴嶼さんはこの滝修行で、体脂肪が1万2168[kcal]÷9[kcal/g]=1352g=1.352kg減ったことに! 炭治郎の言う通り、本当に過酷な修行である。

柱修行で担ぐ丸太がデカい!

続いて、丸太3本を担ぐ修行だが、この丸太が、本当に太い。作者・吾峠呼世晴先生も、コマに「太い」と書いているほどだ。

直径は40cmほどもあるように見え、長さはその5.4倍、すなわち2m16cmもある。仮にこの丸太の材質が、重くて丈夫な「アカガシ」だとすると、1本の重さは230kgだ。3本で690kg!

しかも、悲鳴嶼さんは、これに直径50cmほどの球形の岩を4個もつり下げている。岩石の標準的な密度(2.75kg/L)から計算すると、1個の重さは180kg、4個で720kg、丸太と合わせて1.41t!

消費するエネルギーは、持続時間にもよる。地面で火を炊くのは、恐らくスクワットの姿勢から、腰が下がらないようにするためだろう。前述のように「900kgで1秒に体重1kg当たり0.013kcal」だとすると、1時間の場合は9530kcalを消費して、体脂肪は1.06kg減少。滝修行と同じ2時間だったら、1万9060kcalを消費して、体脂肪は2.16kg減!

悲鳴嶼さん、66tの巨岩を押す

最後の岩を押す修行が、またモノスゴかった。岩の大きさが半端ではなく、炭治郎の身長165cmと比較すると、直径は2m23cm。重さは16tである!

しかも、地面が平らで硬く、滑らせることが可能な場合でも、重さの半分の摩擦力に打ち勝つ力が必要だ。つまり8t。でもこの修行では、岩が地面にめり込んでいて、前方の土をムリヤリかき分けないと動かない。これには摩擦力よりはるかに強い、恐らく重さにまるまる等しい16tが必要だろう。そんな力を出しながら109mも押し続ける!?

食事休憩のとき、善逸が「あのオッサンはきっと 自分もあんな岩 一町も動かせねぇよ」と文句を言っていると、なんとその後ろを、悲鳴嶼さんは自らの巨躯よりはるかに大きな岩を押して通り過ぎた! さすが、悲鳴嶼さんだ!

身長220cmの体躯と比較すると、岩の直径は3m60cmほどもある。すると重さは66t!発揮している力も、恐らく66t!

悲鳴嶼さんは「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」と唱えながら、ズズズ……と押している。マンガの雰囲気から判断して、秒速10cmほどか。すると109mを押すのに1090秒=18分10秒かかるはずで、消費エネルギーは13万5000kcal。脂肪減少は15kg!

「凄いなあ悲鳴嶼さん 俺もあんなふうになれるかな!?」と感心する炭治郎に、善逸は「なれてたまるか!!」と叫んでいたが、その気持ちもよく分かります。

1000年もの間、人を食らい続けてきた鬼ども。これを倒すために、若者たちに厳しい修行を課し、その傍らで、自分はそれを上回る過酷な修行を重ねる。その姿を見て、前に進もうとしない若者はいないだろう。人を育てるとはどういうことか、27歳の若者が教えてくれる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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